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君との絆が奇跡になる  作者: 呂束 翠
メイド喫茶『とらんす♂』

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第61話 閑話 メイド喫茶『とらんす♂』1

さて、しばらく本編が続いた所で以前のシオンちゃんの時みたいに閑話を挟みましょう。

 こちらを読まなくても全然本編は読み進めれますので、興味の無い方はスキップされても全く問題ないです。


 それでは、紡祇君のバイト先メイド喫茶『とらんす♂』でのお話を始めましょうか

 とある土曜日の10時。

 都会のビルの一角にあるコンセプトカフェ。そこでボクはアルバイトをしている。


 普段はギリギリに来るけれど、今日は早起きして何もする事がなく暇で早めにお店に来てしまっていた。

 まだ開店時間まで余裕がある。時間までゲームしてるのも良いけれどデイリーミッションは全て終わってやってるゲームの行動ポイントも全て使い切ってやる事が少ないので、暇潰しに使える程のやれる事がある訳でもない。

 何もしない時間が続きそうで兎にも角にも退屈で、無駄に時間が過ぎるまでボーとするならいっそ先に準備しておこうと一足早く制服に着替える。


 簡単にメイク直しをしてついでにコンカフェ用にチーク等を使ってより幼く見えるようにする。とはいえ高校生になったばかりのほとんど子供みたいなボクがより幼くと頑張ってみても誤差でしかない。あまりやり過ぎて毳毳しくなってしまうと逆効果なので本当に少しだけワンポイント追加するくらいのメイクにする。

 ポーチにメイク道具を直して、母親譲りの明るいブラウンの髪にアイロンを当てて不格好になっている部分を綺麗に直す。

 ボクの髪の毛は男性にしては少し長めの髪形で癖っ毛もあるから綺麗に直すのが少し面倒なのだ。

 いつもよりも大人しい髪の毛を整えておかしな所がないかもう一度確認してホールに出る。


 お客さんもといご主人様は一人もいない。

 そりゃそうだ。まだ開店してないんだもん。


 さて何しようか。別にまだ出勤の時間じゃないから業務とか何にもしなくて良いけど来たからには何かしたい。

 少し考えてとりあえず物品の補充でもしておこうかとキッチンに向かって足らなそうな物を補充していく。仕事の時みたいにせかせか動くつもりは無い。のほほんと物品の補充をしつつ、先に出勤していた店長と雑談をする。


「むぎちゃんどうしたの。今日は凄い早いじゃない」

「なんか早く起きちゃって、暇過ぎてきちゃいました」


 『むぎちゃん』というのはここでのボクの名前だ。名前の由来は本名の紡祇つむぎから取ったかなり安直な物。お客さんからは『むぎたん』か『むぎちゃん』と呼ばれる事が多く、先輩達からは『むぎむぎ』と言われる事が多い。


 えへへ、と体に染み付いた可愛らしさを意識した笑い方をする。

 ここのバイトを初めてからそこまで時間は経ってないけれど、しっかり働こうと頑張っていたら初めて一カ月もしない内に身に付いてしまったのだ。


「へぇ~何時に起きたの」

「6時には起きちゃって……いつもは8時くらいに起きるんですけどね」

「8時でも全然早いじゃない。はぁ……あの子達にも見習ってほしいわぁ……いつもギリギリに来るんだから」


 店長の呆れ混じりの溜息をするけれど、そこには本気で困った雰囲気はない。


「まぁ皆さんはいつも間に合ってるから良いじゃないですか。ボクもたまにギリギリに来ますし」

「むぎちゃんは良いのよ。貴方のギリギリはギリギリじゃないもの。むしろ早過ぎるくらい。ほら、ここら辺って色々なお店あるし、そういう所でゆっくりしたりしないの?」

「そうしたいんですけど、この時間だと空いてるお店少なくて……」

「そういえばそうだったね……」


「何か食べようにもあんまり食べたらお仕事に支障が出ちゃいますし」

「真面目ねぇ~」


 単にお腹が空かないから食べないのもあるけれど、以前お仕事前にデザート食べてお腹がいっぱいになってしまった事があるのでそれを気にして避けているのである。

 育ち盛りの高校生男子なのだからもう少し食べた方が良いのかな……と店長と自分を見比べて考えてしまうが、無理して食べたら苦しいだけなのは過去に検証済みだ。

 身長順で並べば男女混合でもかなり前の方に行くボクの身長。お父さんは身長高いのに何故こうも低身長なのだろうか。

 お母さんの遺伝なのかなぁ……お母さん150センチくらいだったし。


「ていうか店長って身長高いですよね。何センチなんですか?」

「170センチくらいかなぁ。結構平均くらいよ」

「えっ、そうなんですか!? 180くらいあるかと……」

「まぁ……そうね。このお店じゃあ私が一番高いからそう見えちゃうか」


 170センチといえば信世と同じくらいの身長か。それにしては信世よりもかなり高く見えるけど……そういえば信世ってそこそこ猫背だったような。そこの差なのかな。

 サッと身を退いて店長の背中辺りを観察してみる。

「ん? どうしたの?」


「ちょっと見比べようかと」

「なるほど……?」


 記憶の中にある信世と店長の背の曲がり具合を比べるとやはり信世よりも真っ直ぐな背中をしている。綺麗な姿勢とメイド服がマッチしていてどこかのお屋敷のメイドさんなのかと思ってしまいそうだ。

 これで男というのだから恐ろしい物だ。


 そう、男性。この可愛いらしいふわふわとした雰囲気を纏ったお姉様みたいなメイド服の似合う店長は男性なのである。

 ボクと違って見た目に似合う様にしっかり声も作っているので初見で男性だと見抜く人はほとんど居ない。


「店長……本当に30代なんですか?」

「勿論よ。免許証見る?」

「遠慮しときます。いちおー個人情報なので」

「それもそうね」

 今年で35歳になるらしい。見た目は高校生くらいなのに凄まじい若々しさである。


 さて、ここまでで何かこのコンカフェおかしくない? と思った人は居るだろう。

 ボクは男で店長も男。二人共メイド服を着用__つまりは女装して仕事をしている。店員はボク達二人だけではなく先輩達も当然居る。

 そして、その先輩達の性別。それら全て全員”男性”だ。服装も全員基本的にはメイド服。


 そう、このメイド喫茶『とらんす♂』は店員全員が女装男子で構成された少々特殊なコンカフェなのである。

 東京以外では珍しい部類らしい女装のコンカフェの中でも更に顔面偏差値高めらしいここでは多種多様な『属性』を持つ店員が集まっている。


 集まっている……というよりかは集められているが正解か。

 何を隠そうこのお店の店員は全員、店長が直々にスカウトして集めた人達なのだ。

 こんなふわふわとした甘やかしてくれそうな風貌の店長が己の性癖に素直になって片っ端から集めているらしい。


 かくいうボクも今年の二月に街中を歩いていたら店長からナンパみたいにスカウトをされたのである。

 あの時の店長はメイド服は着ておらずボーイッシュのお姉さんみたいな服装をしていて新手の詐欺か何かなのかと警戒したけれど、店長の必死のプレゼンによって高校生になってからなら働くと約束をして今に至る。

 ちなみに信世にはボクがここで働いている事は言っていない。

 別に言っても良いけれど、こういうお店で男性の友達が居るとか知られるのはマズイのかなと勝手に判断して言っていない。

 そもそもこのお店男性しか居ないじゃないかというツッコミはさておいてだ。


「ていうかあの子達遅いわね……」

 時計を見た店長がそう呟く。

 時間は11時30分。


 今日の出勤はボクと店長以外に「マオ」さんと「ヒカリ」さんの二人が居る。

 確かに先輩達にしては来るのが遅過ぎる。この時間にもなれば二人一緒に到着して着替えて開店の準備をしているのに。

 あの二人はギリギリに来ても遅刻をする様な人ではないはず……と言ってもボク自身ここに勤めている期間はそんなに長くないので本当にいつもそうなのかはあんまり知らないのだけども。


「そうですね……珍しいなぁ」

「そうよね……ちょっと連絡してくる」

 焦り気味で店長がスマホを持って事務所に行く。

 余裕を持って開店前の準備を終わったし、余った時間でもう一度髪とかメイクの確認とかしとこうかな。


 化粧室でメイクの確認して、お手洗いに行って。よし頑張るぞっ!と意気込んでホールに出ると__


「そう……ごめんなさいね。うん……うん大丈夫。どうにかするわ。それじゃ、休日楽しんでね」

 険しい表情で電話している店長が居た。


 なにかあったんだろうか。いつも明るい声色も暗く低めの声になっていて少し怖い。

 電話が切れた後しばらくの間必死そうにスマホを弄っていたけれど、上手く行かなかったのか項垂れてスマホの画面を落とす。


「あの……店長、大丈夫?」

「ん……あっ! むぎちゃん準備出来たのね」


 ボクの声を聞いて無理に声を張って話してくれる。

 これは……何が起きたか聞いてみないとヤバそうだ。

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