第6話 誰よりも大事にしたい人
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「紡祇。行くぞ」
「あ、うん。分かった」
紡祇の手を引いて男達の壁を避けて通ろうとする。翔流も駆け足で追いかけてきた。
「そいつらを通すな!」
綺羅星が男達に命令すると、紡祇の周りに立っているだけだった男達が前に立って妨害をしてくる。綺羅星を囲っていた連中も、俺達が逃げられないように全方位に立って邪魔してくる。
「その女との会話は終わってないの。王子様気取りかなんか知んないけど逃げないでくれる?」
男に肩車された綺羅星が偉そうに腕組んで近寄ってくる。この人壁じゃあ肩車してもらわないと見えないからだろう。
やたら不機嫌そうな表情をしている。何が気に食わないのだろうか。
「こっちは用事があるんだ。通してくれないか」
「はぁ?こっちも用事があんのよ。どうしても通りたいならその女置いて行ってくれる?」
「コイツが居ないといけないんだ。お前のはまた後にしてくれ」
人壁になった男達を押して出ようとするがビクともしない。流石は成人男性だ。力じゃ敵わないか。
ここは説得してみよう。まさか綺羅星に言いなりではないだろう。まともな感性を持っている人ならしっかり事情を説明すれば道を開けてくれるはずだ。
「すみません。ここを通して「ダメだ。主様が通すなと言っている」
かなり食い気味に断られてしまった。
というか主様?まさか綺羅星のことだろうか。いい歳した大人が高校生に主様と言って従っているのか。訳が分からない。
それにしても、さっきからおかしな事しか起こらない。
そもそもコイツは本当に綺羅星なのか?紡祇が言っていたから綺羅星として扱ってはいるが、こうして近くで見ると間違いなく見た目が違うのが分かる。
しかもそんなよく分からない女に言いなりになって従者のように立ち振る舞って言いなりになっている男達は余計に理解出来ない。
アイドルでもこういう状態にはそうそうならないのに、この可愛くもない白髪の女に付き従っているのは一体何故なのか。何故、この女は紡祇に執着しているのか。この無能警察どもはこの状況に何故、止めようとせずに男達と一緒になって女に従っている。
異常だ。何よりも邪魔だ。
この女と紡祇がどうなろうと知ったことではないが、今は紡祇が必要だ。どんな因縁があろうとも、俺には関係がない。
「すみません。そこをどいてくれませんか?」
「ダメだ」
「そこをどいてくれませんか?」
「ダメだ」
「そこをどいてくれません?」
「ダメだ」
「そこを「ダメだ」
せめて最後まで聞け。
翔流が心配そうな表情で俺と相手の男を交互に見る。
「そこを「ダメだと言ってるだろ!しつこいぞ貴様!」
横に立っている警察が口出ししてくる。
治安を守る奴が何をしている。まずはこの無駄な争いを無くすのが貴様らの仕事だろ。何故こんなしょうもない事に加担している。
何故邪魔をする。そこをどけ。
「そこを「いい加減にしろ」
目の前の男が怒鳴ってくる。
いい加減にしろだ?
「貴様らこそいい加減にしろ。紡祇がどうなっているか分かんねぇんだぞ!」
奴等が何か言う前に思っていた事を全てぶちまける。紡祇が心配で、それを邪魔されてイライラして、殴り掛かってやろうかとも思いながら、しかし殴る前に一度、せめて会話が出来ないか頭の隅で考えつつ、吐き出すように鬱憤をぶつけるように怒鳴り散らす。
「いい加減、そこをどけ。黙ってそこをどけ。いい歳した大人が高校生との主様ごっこなんてしてないでさっさとそこをどけ恥晒し!それに職務はどうした無能警察官!女の言いなりになって楽しく主様ごっこしてんじゃねぇぞ。この女のどこが良い!?このニキビでいっぱいで髪染めミスったか知らねぇが荒れ放題の髪の女に従ってないで仕事しろ無能が!」
場が静まる。
紡祇が左腕にギュッと掴まる。翔流が腕を引っ張って邪魔しようとしているが、そんな事を気にする余裕はない。目の前の無能を消さなければいけない。
「貴様、今主様を侮辱したな!」
目の前の男が逆上して拳を振り上げる。
ゆったりとした動作のかなり大振りな攻撃だ。隙しかない。暴力に訴えるのか?
というか、拳を振るのがあまりにも遅すぎる。舐めているのか?
相手の拳が当たる前に相手の顔面を真っすぐ殴る。
顔の中心に綺麗に右ストレートが入る。まさか反撃されるとは思っていなかったのか、殴られた男は顔を抑えて後ずさりして尻もちをついて座り込む。
そこまで強くした覚えはないが好都合だ。目の前が空いた。走って紡祇の家まで逃げよう。
「ソイツ等を逃がすな!」
女がそう怒鳴ると、空いた人壁を急いで塞いで俺達邪魔をする。
「そこをどけ」
「ダメだ主様のご命令だ」
また邪魔するのか。
まだ邪魔をするのか。
俺の邪魔をするのか。
紡祇が今危険な目に会っているかも知れないのに。
紡祇が今1人でいるかも知れないのに。紡祇が今泣いているかも知らないのに。紡祇が今1人じゃどうしようも出来ない事になってるかも知れないのに。紡祇が今笑えていないかも知れないのに。
紡祇が今どうなっているのかも分からないのに。
邪魔をする奴は消えてしまえば良い。そこをどけ。そこをどけとさっきから言っている。
「諦めろ。主様の「『そこをどけ』と言っている!」
男の声に被せて怒鳴り声を上げるのと同時に、一束の紅い髪が視界の端に映る。
途端に、男達が虚ろな目をして道の端に並び立つ。
「え、アンタたちなに言う事聞いてんのよ。アンタもなんで避けてんのよ。ボーとしてないで早く動きなさいよ。ほら!動け!」
綺羅星が困惑しながら肩車している男の顔を叩いて命令している。
あっさり道を開けて綺麗に横並びになっているのは随分不気味な光景だが、これは都合が良い。先を急ごう。
「じゃあな。着いてくるんじゃねぇぞ」
男達は一度大きく頷いてその場から動かなかった。
当然のように肩車している男も大きく頷いたので、乗っていた綺羅星はそのまま振り落とされて体を痛そうにして寝転がっていた。顔から落ちたので相当なダメージになっているだろう。
「翔流。紡祇を抱っこしてくれ。このまま紡祇の家に行くぞ」
「任せな」
翔流はおどおどしている紡祇を無理やりお姫様抱っこする。
背中から綺羅星の汚らしい鳴き声が聞こえるのを無視して、三人で紡祇の家に突っ走っていく。
無駄に時間を掛けてしまった。早く行かなければ。
主人公能力覚醒しましたね。次回は紡祇ちゃんの家に行くことになります。銀髪のイケメンとやらは一体誰なんでしょうか