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君との絆が奇跡になる  作者: 呂束 翠
異世界人と男の娘とぬいぐるみと。

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第56話 厄災の魔女3

 動かない皆の代わりにそこら中に転がった人間の残骸を予備の収納型魔道具の袋に突っ込んでマントの男の目の前に置いて、さっさとお兄ちゃんの背中に隠れる。

 お兄ちゃんの口振りからこのマントの男も『奇跡』って言われてる能力使うみたいだし、相手が瀕死とは言え一応距離は取っておかないと。

「お兄ちゃん、この人達どうするの」

「どうもしない。今回だけは見逃す」

「見逃しちゃうの!?」

 腰を思いっきり掴んでお兄ちゃんの顔を見る。

 冗談を言っている様な顔じゃない。真剣な本気の顔だ。

 こんな危険人物を放置するのはお兄ちゃんらしくない。

 家の周辺を文字通り消しちゃったこの人達がどれだけ危険かなんて理解してるはずなのに。お兄ちゃんなら最初に会った時点で全部理解してあの人達を消せるのに。

 凄く不服だ。物凄く腹が立つ。

 結界のお陰で家の周辺だけは無事になってるけど、僕達の大切な居場所が壊されたんだ。お兄ちゃんだって何とも思っていないはずがない。

 他の人間達に使っている魔法がどんな術式なのかは知らないけれど、全員瀕死状態でお兄ちゃんの魔法が消えればすぐに死ぬ状態なのは確かなのに。

 終わりまですぐそこなのに。

 魔法の内容は何だって良い。魔法ごと破壊してしまえばこの人間達は全員死ぬんだ。

 それならばここで全員殺してしまえば良い。

 お兄ちゃんがしないならいっそ僕が全員、破壊の魔法で壊そう。

 生命を維持させる魔法のコストは非常に高い。それ故に常に集中しなければすぐに不安定になってしまう。外から何らかの干渉があれば決壊させるのは容易い。

 宙に薄い魔力の糸で魔法陣を描いて魔力を注いで。

 注がれた魔力で周囲が薄汚い極彩色で染められてしまうように。魔力を込めて、意思を込めて、殺意を込めて、的確に確実に相手を、敵を殺す為に__

「やめろシオン」

 急にワシャっと雑に頭を撫でられる。

 それに意識を一瞬持って行かれた隙に注いでいた魔力を根こそぎ奪い取られてしまう。

 この量の魔力を一気に吸い取って何ともない人間はお兄ちゃんしか居ない。

 二つ目の魔法陣を生成しようとしてもそれを行う前に魔法陣を崩されて上手く作れない。

「なんでっ! なんで殺さないの!」

 異常な体感で殴っても微動だにしないお兄ちゃんの腰を必死に揺らして抗議をするが、激しい頭の撫で方だけで僕の懸命な抗議は抑えられてしまう。

「庭を荒らされて気分が悪いのは俺も同じだ」

「ならなんで!」

 同じ気分なら僕がどうしたいかだって手に取るように分かるはずなのに。

 それが分からない位馬鹿なお兄ちゃんじゃないのに。

 術式を変えて新たな魔法陣をあちこちに生成しても、一秒も待たずに全て壊されてしまう。

 残っていた人形達にも念話で頼んで視認出来ない距離から魔法の塊を撃っても、

 実体のある剣を創り出して高速で飛ばしても、

 炎や雷を実体化する魔法で攻撃しても、

 直接体を圧縮させる魔法を使っても、

 魔物を召喚して襲わせても、

 手を変え品を変え、思いつく限りの攻撃全てを実行しても、

 微動だにしないお兄ちゃんが全て、敵に被害が及ぶ前に対処してしまう。

 挙句に敵の周囲に防御結界を創り出してしまった。

 僕達の家に使っている物に近い結界だ。少し違うのは特殊能力由来の力を加えていないだけか。

「うっ…………卑怯な」

 この止め方は本気だ。

 本気で止めに来たお兄ちゃん相手じゃ魔法の扱いが上手な僕でも敵わない。

 仕方なしに、歯がゆいけれど、攻撃しようとする手は止める。

「ありがとう。諦めの良い子で助かるよ」

「諦めてはないからね」

 地面に伏してもがいているマントの男を睨みつけつつ口では抗議を続ける。

 どういう気かは知らないけれど、真っ当な理由が無いなら僕はコイツ等を狙い続ける。

 少しでも隙を見せたら殺してやる。

「コイツ等が憎たらしいのは理解している。それでも今回だけは殺さないで欲しい」

「嫌だ。僕はコイツ等を許せない。次も襲って来るかも知れない、いいや絶対襲って来る。お兄ちゃんを前にしても僕を執拗に狙ってきたんだよ! まともな判断が出来る人ならまず逃げるのに、降伏するのに、それでも向かってきたこのマント男は精神的にどこか可笑しいんだよ。精神異常者がどんな不可解な行動するかなんてお兄ちゃんも知ってるでしょ! 力を持ってるなら尚更ここで確実に消さないと次も、その次も、その次の次も、一切学ばないで襲って来るんだよ。今の内に殺さなきゃ。今の内に目の前からむぐっ」

「落ち着け」

 口と鼻を防がれて呼吸を止められる。

 すぐに離してくれるかと思ってジッと待つ。

 ジッと……

 すぐに…………

 ちょっと長いな…………

 今何秒経った? 10秒? 30秒? ちょっと苦しいかも。

 ちょっと、息が……

 そろそろ息を……

「よし」

 とお兄ちゃんが言って手を話す。同時に新鮮な空気が体に入る。

 窒息気味になっていた体に急いで空気を取り入れてドクドクなる心臓を落ち着かせる。

「急がなくて良いぞ。ゆっくり吸って…………吐いて…………。その感覚で落ち着いて呼吸しろ」

 お兄ちゃんに言う通りに荒くなった息をゆっくりと整えて、落ち着いて呼吸をする。

 吸って、吐いて、吸って……吐いて……吸って…………吐いて…………。

 うん。落ち着いてきた。

 さて

「あの……今なんで窒息させたの?」

 口を塞いだ理由は分かるけれど、あそこまで呼吸を止めさせる理由は無かったんじゃないかな。と言いたげにお兄ちゃんに困惑を込めた声で聞く。

「そりゃあ、こうした方が一番簡単に落ち着くからだろ」

「だからって息止めさせなくても良いじゃん」

「そうしないと落ち着かないだろ」

「まぁ……うん」

 実際それで落ち着いたから反論のしようがない。

「じゃあ、説明するぞ」

 また僕が暴走するのは阻止したいのか早速説明を始める。

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