第53話 ぬいぬいそうる3-自爆編
「逃げないと」
唖然としている暇は無い。残った人形達に敵への攻撃を頼んでその間に逃走する。
一人で正体不明な相手に粘ってても危険だ。あんな広範囲を破壊する正体不明な魔法を使う相手だからこそ逃げださなければならない。
方角は王都に向けて。光を貫通させて体を透明にする魔法を使って敵に気付かれない様に飛んで行く。
あそこに行けばお兄ちゃんに会えるはず。
敵が攻撃してくる前に地面を蹴って空を跳ぶ。空中飛行や瞬間移動の魔法はあるけれど、それを使うと移動中の魔力の動きが大きくなってしまい、魔法使いの相手にバレてしまうリスクがある。
隠密行動はやはり身体能力を強化して行くべきなのだ。
魔法を駆使して戦う人形達と敵の姿を確認して、奴等がどこを見ているのかを目視する。
奴等は交戦中の人形と、あの破壊する魔法で唯一残った僕等の家を見ていた。
空中を跳んでいる僕の姿を見ている人は誰も居ないみたいだ。
逃走がバレていないのを安心して、空中に魔法で作った透明で小さな障壁を足場にしてもう一度跳ぶ。これをもう一度すれば、高さ的に彼等からは目視される事のない場所まで行けるだろう。
安心しきって二度目に跳んだ勢いがなくなる位まで空を駆けた所で、背後から迫る魔力の気配を察知する。
飛んでくる魔法の形は不自然なまでに真っ直ぐに飛んで行く雷。魔力量からして威力は大した事は無い。
だけど、魔法を使っているにしてはおかしな挙動をしている。
通常、魔法を使用した際の魔力はかなり不安定な形をしている。これは魔法の練度が低いのが原因で起こる事だ。熟練の魔法使いなら、この不安定さを減らして無駄に消費されている魔力を削る様にしていくのだけど__この魔法はどうも魔力の形が綺麗過ぎる。
雷の形もそうだ。不自然なまでに真っ直ぐな線のような雷で、不自然なまでに魔力が雷の形を象っている。
実際に視認せずとも魔力を感知するだけではっきりとそれが分かるくらいには。
本当は攻撃にはなるべく当たらないのが理想だけど、この程度の威力なら今着ているローブの能力で魔力ごと吸い込む事が出来る。
よし、直撃しても問題無さそうだしこのまま跳んで逃げよう。
そう判断して光の速度で飛んでくる雷に直撃する。
うっ……やっぱり少しだけ痺れるな。
少しピリピリする背中をそのままに、もう一度跳ぼうかと__
「あっちに逃げたぞ!」
障壁を生成してもう一度跳ぼうとした所で、マントの男の声が聞こえて振り向く。
人形と交戦しつつも、敵が全員こちらを見ていた。
まだ透明化は消えていないはず。魔力が漏れて見えている可能性もあるけど、それはローブの能力で抑えられてるから大丈夫なはず。
まさかさっきの雷の魔法で場所が完全に特定された……!?
「二匹自爆!」
残っている六匹の内二匹に自爆を命令する。
この子達には大量の魔力が常時蓄えられている。それこそ、あんな破壊光線さながらの魔力の塊を数分間飛ばせるくらいにはタップタプの魔力が内蔵されている。
その魔力を二匹分、敵を挟んで爆発させる。
自爆させる対象は水晶の人形とスライムの人形。水晶は敵の目の前に配置して、スライムは敵の真後ろへ。
敵が攻撃をしようとする前に二匹の人形の生地がバラバラになって中身の極彩色の魔力が露わになり、一秒も満たない内に魔力の大きな塊が飛び散っていく。
至近距離に浮いていたマントの男と、特殊能力持ちの男はその大量の魔力を受けて身体中に大きな穴が斑模様に空く。
残りの女と男の偽物はそれぞれの魔法で攻撃弾こうとしているが、処理が間に合わずに脚や胴体に直撃していた。
あくまで方向を指定しない爆発だ。このまま留まっていると僕も巻き込まれかねない。
既に僕の周りに撤退した残り四匹の人形達を従えて王都の方向へ瞬間移動の魔法を使って逃げる。
瞬間移動の魔法は、事前に座標を登録しておいて、その場所に向かって高速で動く魔法だ。
だから、瞬間移動とはいえども、道中に障害物があれば不発に終わってしまう事がよくある。
そういう失敗が起きないようにするために、これを使う時は移動しやすい場所を指定するのが一般的だ。
と言っても、距離が遠ければ遠い程それ相応に魔力消費量が爆増していくので、主な移動手段として使う場合は少ない。
あくまで、戦闘中の回避や距離を詰めるための手段に過ぎない。
そういった事情があるから、基本的に僕とお兄ちゃんが瞬間移動の魔法を使う時の座標は空中に指定していたりする。
まぁ、お兄ちゃんの場合は跳んで行った方が早いからほとんど使わないんだけども。消費魔力量も多いくて、魔力の動きに聡い人に感付かれちゃうからお兄ちゃんが使う事は無いそうだ。
そんな緊急事態でないと使わない瞬間移動の魔法を使って王都に到着した訳なのだけども__
「あれ……場所間違えたかな」
王都が丁度全て見えるくらいのちょっと離れた場所に移動したはずなのだけれど、そこから見える景色は王都と似ても似つかぬ場所だった。
似ても似つかぬ、大穴だった。




