第5話 事件
06
「おせぇぞ信世!!」
到着して早々に翔流から怒鳴られてしまった。
到着と言ったものの、実際に着いた場所は裕太の家の跡地前である。
人混みは翔流と連絡した時よりも随分と落ち着いたようで、今は現場を調べている警察がほとんどである。いや、現場を調べる人は警察ではなくて検察といったような……。まぁそんな細かいことはどうでも良い。
あれから、紡祇をお姫様抱っこしたままここに来た。なんてことはなく、俺は自転車でモールまで来ていたので、駐輪場から自転車を回収して紡祇と一緒にここまで歩いてきたのだ。
道中は彼の機嫌を取るためにコンビニでドリンクやドーナッツを買いなおしたり、彼がどこまで俺達のことを把握しているか調べるために最近起きた出来事だったりを聞いていたりした。
結果としては、全て知っていたようだ。一つの差異もなく紡祇が知っている事は知っていたし、紡祇だけが知らないちょっとした秘密もしっかり彼は知らなかった。
「なにこれ……」
それと、裕太の家がとんでもない事になっていたのも知らなかったようだ。
「ちょいちょい。こっち来い」
紡祇が裕太の家の惨状を見て呆けている隙に、翔流に引っ張られて紡祇からは声が聞こえない所まで離れる。
色々と言いたいことがあるのだろう。移動中に連絡したとは言え到着には時間がかかり過ぎているし、本来連れてくる予定にない紡祇も連れてきている。
最初に言っていた事とは全く違う事が起きているんだ。どんな文句言われても仕方がない。
「あの子がお前の言っていた自称紡祇か?」
「その通りだ。クセとかは完全に紡祇と同じだが、体は別人だ」
「体は別人って……。お前が紡祇のことに関して体以外完全に同じって言うならそれはもう紡祇本人だろ」
「何言ってんだ。体が違うなら別人だろ」
「いやまぁ、それは確かにそうだけどよ……」
なにやら色々と言いたそうにしている。何かおかしなことでも言っただろうか。
自称紡祇を横目に様子を見ながらコソコソ話す。
「なんで連れてきてんだよ」
「色々あったんだ。仕方なくってやつだな」
「その色々が気になるんだが…………。先に紡祇宅での成果を話すぞ」
「助かる」
こちらとしても何が起きたか一つずつ説明してやりたいが、紡祇の家の状況の方が重要だ。自称紡祇がネットニュースを見たり警察とお話している間に情報交換を終わらせておこう。
「結論から言うが、紡祇宅に紡祇は居なかった」
「そうか……収穫無しか」
「だが、犬耳を付けたイケメンが居た」
「どういうことだ」
お前、結論から言うって言っただろ。イケメンが居るじゃねぇか。しかも犬耳付き。
だが、イケメンかぁ。自称紡祇と話していた時にそんな事言っていたような、言ってなかったような……。あっ。
「そういえば、自称紡祇が朝起きたら『穂波坂 銀之助』が居たって言ってたな」
「それを先に言わんかい。情報伝達下手だろ」
仕方ないだろ。さっきまで忘れていたのだから。
それに、俺は基本的に興味無い奴の話は頭の中にほとんど残らない。クラスメイトと話している内容なんてその日の内に忘れてしまう。酷い時だと数分他の人と会話を挟むと全部忘れている時がある。
逆にだ。逆に何故そうも興味無い人の事を覚えていられるのだろうか。気にするだけ頭を使って疲れるだけと思うのだが。
たしかにクラスメイトとは最低限の関係を持っていた方が得なのは理解出来るが、だからと言って友人との貴重な時間を割いてまで興味のないクラスメイトと話して無理に話を合わせて疲れる必要があるのだろうか。
と、友人たちに言い訳をするが、その度に「お前が面倒くさがりなだけだ」と言われて飽きられてしまうのだ。
以前、他人に興味無いのがあまりにも酷過ぎて紡祇から怒られたので、それ以降少しは記憶に残そうと頑張っている。おかげで、高校に入ってからはクラスメイトとの会話が増えて友人が多くなってきた。
その友人の内の二名が裕太と翔流だ。
「それで、その『穂波坂 銀之助』さんはどんな人だって言ってたんだ?」
「わからん」
「お前はもう少し他人に興味を持とうぜ」
「すまんな。諦めろ」
こればっかしはすぐには直せないもんなんだ。
その後、翔流から紡祇宅や裕太宅についてもう少し詳しく聞くことにした。
裕太宅跡地にある例の中央にあるデカいあの血肉と服がごちゃまぜになった血だまりは、周囲で朝から行方不明になっている7名のものだろうと推定されているらしい。ただ、不可解な事に血だまりの量はおよそ大人8人分くらいだという。
血の量が1人分多い。
また、裕太とその両親の安否に関してだが、近場で裕太の両親と思われる男女二名の生首が落ちていたという情報が出たという物だった。
夏休み初日から相当グロテスクな話だ。両親がこうなっているなら裕太は……。
いや、裕太の事だ。真夜中にコンビニにこっそり出掛けるなんてよくあることだ。どうせスマホに連絡が無いのも、家に置きっぱなしにしていて裕太がコンビニに行っている間に家と一緒に粉々になったのだろう。そうなのだろう。きっと。そう思いたい。
また、紡祇宅の周りでは何も起きてなかったみたいだ。せいぜい銀髪犬耳イケメンが紡祇宅から出てきたくらいで、それ以外の異変はなし。一つも家は粉々になってないし、不審者が出たという情報も、誰かの叫び声もなかったそうだ。
「今のところ、裕太も紡祇も行方不明か……」
「いや、多分あの自称紡祇が紡祇本人だと思うぞ」
未だに何言ってんだコイツは。人が一夜にして他人になる訳ないだろ。
「まぁ、裕太に関しては警察に頼むとして、紡祇の方は手がかりがいくつかあるしな。お前が見た銀之助っぽいイケメンに関しては自称紡祇に聞いた方が早いだろうし、なんなら一緒に紡祇の家に行った方が良い。自称紡祇連れて家にもう一回行くぞ」
「あいよ」
翔流との情報交換を終えて紡祇の所に戻る。
紡祇の反応が演技でなければ、裕太の家の惨状は把握していないみたいなのでこの件と紡祇の件は別件だろう。
分からない事だらけだが一つずつ解決していこう。今は裕太よりも紡祇の安否が心配だ。
それに、もうこれ以上は変なことが起きないだろうからな。まだ起きるなら俺はキャパオーバーになって変な事の原因に奇声を上げて跳び蹴りする自身がある。これ以上紡祇の捜索の邪魔をしないでくれ。
「なんだあれ」
紡祇が居た場所に行こうとすると翔流が何か発見したようで俺に分かりやすく見せるように指をさす。
指された場所は裕太の家の目の前だ。
そこには、紡祇と向かい合うように傷んだ白髪の女が腕組んで立っており、その周りを守るように警察と見知らぬ男達が囲っていた。
言ったそばから変な事起きるのはやめてくれませんかね。
翔流と一緒になるべく気付かれないように近寄って話を聞いてみる。
「だぁかぁらぁ、あんた調子に乗りすぎだって言ってんのよ!」
「えっと……綺羅星さん落ち着いて……」
女の方はかなりイライラしている様子だ。ヒステリックというのだろうか。大声で怒鳴り散らして紡祇に難癖付けて暴言を吐き散らしているようだ。
一方、紡祇はかなり困惑している様子だ。それもそうだろう。全く知らない初対面の女が多数の男を引き連れて警察さえも味方に付けて自分一人を囲っているのだから。
あの数分でいつの間にこんなにもの人数を味方に付けたのだろうか。女の周りに4名、その周囲に体格の良い警察が5名。あとは紡祇を逃がさないように男5名が囲っている。
いつもの紡祇がこんな状況になったら動けずに俯いているだけのはずだが、自称紡祇は随分とメンタルが強いようだ。まぁ、それでも困惑はしているみたいだが。
こんな異様な状況になったら誰でも困惑はする。
そういえば、紡祇があの女の事を『綺羅星さん』と言っていたな。
綺羅星と言えば、同じクラスに『綺羅星 瑠璃凜』とかいう女が居たのを覚えている。
目の前にいる女とは違って、髪は黒くて顔ももっと細かったはずだ。歯の矯正をしているのか、少し口周りに違和感のある顔だった。身長はおよそ162センチとクラスの女子と比べて高めだったが、この女の身長はその5センチ下の157センチ辺りか。おそらく高校一年の女子としては平均くらいだろうか。
趣味は絵と小説を書くことだそうだ。以前、会話を盗み聞きしていたらそういう話題がよく上がっていた。と言っても、本気で売れたいとかではなくあくまで趣味の範疇で、とよく言っていた。
クラスメイトとの関わりは同じ趣味であろう女子一名のみで、他の人とは極力関わらずに過ごしている。
所属している部活は美術部。絵の腕前は悪くはないが良いという程でもない。書いている絵のジャンルは主にBLだ。たまに男女で絡んでいるのも見るが、あくまで設定上は両方とも男だそうだ。
と、色々『綺羅星 瑠璃凜』の事を語ってはいるが、彼女に好意があるから知っているのではなく、単に紡祇を下心の塊のようないやらしい目で見ていたから多少は覚えているだけだ。
変な気を起こして面倒事を起こしてくる前にある程度どんな人物か知っておかなければ面倒事も防ぎきれないからな。
まぁ、見てくるだけで自分から関わろうとしている様子もなく、視線がいやらしい以外に害はなかったので特に気にせずにずっと放置しているので、綺羅星とは全くと言って良い程関わりが無い。すれ違い様に挨拶した程度だ。
そんな綺羅星と、この女が自称紡祇の目には同一人物に見えているみたいだ。何処からどう見ても違うと言いたいが、生憎俺は興味のない人はあまり記憶に残らない。もしかしたら俺の記憶違いという可能性もあるので、一応この女の事は綺羅星さんという事にして話しかけることにしよう。
「翔流。ここで待っていてくれ」
「え、お前行くの?」
当然だろう。自称紡祇が居ないと話が進まない。ただでさえ時間が掛かっているのだ。この女を無視してさっさと紡祇の家に直行しなければ。ここで食う道草なんてない。
男達の人壁を避けて早歩きで向かい、紡祇の腕を握る。
明確に能力持ちが分かる人物登場しましたね。
文字数が多かったので二つに分割しました