第48話 僕悪くないもん
どうしよう。お兄ちゃんの事考えすぎて信世君とお兄ちゃん重ねちゃった。
こんなのとお兄ちゃんを重ねるなんてあり得ない。近い所と言ったら親しい人には世話焼きで、料理が模範的過ぎて丁寧過ぎて、全体的にスペックが高いくらいだよ。
今の信世君はお兄ちゃんと全く同じ髪色が一部あるけど、これだってお兄ちゃんの魂の影響でオシャレなメッシュみたいになってるだけで、信世君にお兄ちゃん要素なんて極僅かだ。
頭の撫で方が凄い似てたから勘違いしちゃっただけだもん。
僕悪くない。
「シオンちゃん」
「は、はい、なんでしょうか」
やばい殺される。
「きりるんと席入れ替わって」
凄まじい気迫に圧されて敬語になってしまう。
一言だけでこんなにも明確な殺意を表現されてしまってはもう逃げられない。少しでも機嫌を損ねるような言葉を放ってしまったらここで消されかねない。
のほほんとした性格で無害そうに見えるけど今の彼には『奇跡』がある。基本的には自由に出来るけど、一応全ての主導権は彼にある。ある程度の抵抗は出来ても冗談抜きで肉体ごと消滅なんてのは十分にあり得る。
感情が高ぶっている状態だと『奇跡』はより強力になる。『奇跡』の出力が増えればその分紡祇君の中に残して置いた僕の魂の本体が操作しやすくはなるけれど、それで体の自由が利くようになる訳ではない。
今はただ、彼の機嫌を取って気を逸らす方針にしなければ。
強力になっている能力の影響のおかげで自身の意識が朧げになって、ほとんど操り人形と化したきりるんが無言で僕と席を入れ替わろうとする。
席だけを真っ先に譲って、席を入れ替える事しか頭に入っていないきりるんの代わりに自分ときりるんの食器を入れ替える。
ここからだと信世君の顔がよく見える。頭を撫でてからずっと同じ姿勢を維持している彼の脳内には何が映っているのだろうか。ここまで固まっている信世君は初めてだよ。
「さてと………………」
一言だけ呟いて気迫のある顔のまま考え込む彼。
一体何を考えているのだろうか。僕を消す方法かな。首絞め? 四肢を捥いで猛獣のご飯? 焼死かな。圧死かな。溺死かな。
この世界でやりやすそうな数々の処刑方法が走馬灯と共に流れてくる。誰か助けてください。
この中で唯一身代わりになりそうな翔流君は……極力顔を合わせないようにしてご飯食べてるね。もう少し誘惑しときゃ良かったよ。
冷や汗垂らしてどうにかなる手段は無いか探していると、紡祇君がポンッと手のひらに拳を叩きつけて名案を思い付いたみたいな晴れやかな顔をする。
これは圧死のジャスチャーなんだ。上から鉄塊とか落として潰すんだ。
「よし、シオンちゃんのお兄さんのお話しよっか」
「え、僕のお兄ちゃんの話?」
「そう。お兄さんのお話。信世をお兄さんと勘違いする位なんだから、ちょっと似てる所あるんでしょ? それにほら、シオンちゃんの元居た世界の話も聞きたいし」
何はともあれ助かった。あの無言の時間で何を考えたのかは分からないけれど、少なくとも今の彼には殺意だったり悪意は感じ取れない。もしそういう意図があっても、この子にそういう感情を隠したりするのは出来ないから顔に出てる通りの感情で良いはずだけど……。どうしてあの殺意がフッと消えたのかが大変気になる。
「ほら、信世も動いて。いつまでそうしてるのさ」
「んあ? 紡祇か。今知らない男が立ってなかったか?」
「誰も不法侵入なんてしてないよ。ボーッとしすぎ」
信世君の頭を軽く叩いて現実世界に意識を戻してくれる。
知らない男は立っていたとかホラーチックな話が彼の口から飛び出てきたけど、本当に一体どうしたのだろう。幻覚を見せる『奇跡』なんて無かったはずだし、彼の『奇跡』の耐性はかなり高い方だから彼だけにそういった現象が起きるのも不可解なのだけど……。もしかしたら疲れでそういう幻覚が見えただけの可能性もあるか。
信世君は朝から夜までずっと気張りっ放しだからね。少しは休ませないと。
頼まれたのもあるからちょっとはお話しておこうかな。ついでに紡祇君の機嫌も少しは直ってくれると助かる。
「あ、俺飯食い終わったからお菓子とか持ってくるわ」
「ぼくもぼくも~」
紡祇君の静かな怒りの間に食べ終わったのか、さっさとお菓子とジュースを取りに行く翔琉君とその後ろを追っかけるきりるん。君達随分と自由だね。
「きりるん、お菓子持ってくるのは良いけどちゃんとご飯食べた後にしなよ」
「かけなんとかさんにご主人がいつも言ってる事だから分かってるのだ~」
親子みたいなやり取りをする二人を微笑ましく見つめる。
「それで、シオンの兄の話だっけか。途中からしか聞いてないから分かんねぇけど、そういう話する所なんだってな」
完全に目を覚ました信世君。本当に何も聞いていなかったみたいで、状況を整理しながら聞いて来る。
僕の話よりも君の見た幻覚の方が気になるのだけれど、今の僕にそれを聞く権利は無い。いつ紡祇君の機嫌を損ねてしまうか恐ろしくて仕方ないんだよ。
「まぁ、そうだね。ついでに元の世界の話もするよ」
「やったね、異世界のお話だってよ。ラノベが一つ出来上がるね」
そこまで期待しないでもらいたい。
「話すって言ってもこの世界に来る直前くらいだよ。後は、お兄ちゃんのお話だけ」
「それでもいーの。ほら、二人もお菓子とか持ってさっさと座って。小粋な小話が聞けるよ」
「ちょっとずつハードル上げてくるね!?」
そこまで期待に期待を込めた目を全員から向けられても楽しい話なんてそうそう無いのに。プレッシャーだけがどんどん膨れ上がってしまう。
そんなに話す事が無い訳じゃないんだけど……ほとんど家かその周辺で過ごしてたから異世界らしい話は出来ないんだよね。
それでも良いなら話すけど。とか言っても彼等なら興味深々に聞こうとして来るんだろうな。
翔流君ときりるんはアホの子だから想像に易いし、紡祇君のテンション的には僕のお兄ちゃんの話をすっごい期待してそうだし。信世君は情報収集の一環と興味本位で全部根掘り葉掘り聞いて来そうだな。
でも、こうやって他の人に僕達兄妹のお話をするのは初めてだ。
ならば、しっかりとお兄ちゃんと異世界の話をしてやろうじゃないか。
それで紡祇君の機嫌が直るなら。
それで信世君との仲がより良くなるなら。
「それなら、僕の世界のお話をしようか」
僕の元の世界の。僕の世界の大半であるお兄ちゃんを。
なんかね。次のお話からシオンちゃんの元の世界のお話を書くことになりそうなの。
剣と魔法の世界ですね。
ある程度書いたら、別作品としてシオンちゃんやそのお兄さんのお話でも投稿出来たら嬉しいね




