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君との絆が奇跡になる  作者: 呂束 翠
異世界人と男の娘とぬいぐるみと。

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第36話 犬畜生

「当たり前でしょう? 犬畜生と話すのとは訳が違います」

「犬畜生って……」

 黒い点が不機嫌そうな顔(黒い点三つを顔と言って良いかは分からないけど)をしてきりるんを見て言う。

 何があったか知らないけど「犬畜生」って言われるくらいだ。相当な事をしでかしたんだろうな。

 今までのぬいぐるみ状態なら動かないから嫌われようがないのだろうけれど、今のきりるんなら無自覚にやらかしてそうだ。コケて物落として床を抉ったとか、狼状態で舐め回したとか。

「精霊さんどうしたの?」

 床の精霊さんが非難の意図を帯びたまん丸真っ黒な眼を向けられているのに気付いたきりるんが首を傾げる。このきりるんの言動からして本人には心当たりは無いのだろう。

 ボクもきりるんが何をしでかしたかなんて知らないので、仲裁しようにも間に入ったら悪い方向に話が盛り上がりそうで下手に触れられない。

「そ、そういや床の精霊さんは喋れたんだね!」

 床の視線を遮るように二人の間に入って話を逸らす。

「チッ。この駄犬が」

 小さく舌打ちして目を細める床の精霊さん。きりるんには聞こえていないみたいで頭に?マークを浮かべてずっと首を傾げたままになっている。

 ブチギレてるじゃん。マジギレだよ。激怒だよ。きりるん一体何したんだよぉ……。

 ぬいぐるみと床に仲直りしてもらいたいけれど、今は床の精霊さんと話したいから一旦置いておいて話を進める。これが終わったら何したのかしっかり聞いて謝らせなきゃな。

「申し訳ございません。お見苦しい所を見せてしまいましたね」

「あはは。大丈夫だよ。きりるんには後で謝らせておくから気にしないで良いよ」

 床なのに妙に堅苦しい話し方するから、扱い方が分からなくなってしまって愛想笑いをしてしまう。

「え、なになに? ぼくのお話?」

 背中から顔をヒョコっと覗かせて話に割り込んでくるきりるん。

「きりるんはちょっと黙ってて」

「分かったのだ!」

 無自覚で悪気なんてこれっぽっちも無いのは分かるけど、ここまで空気が読めないと大変鬱陶しい。

 ぬいぐるみにコミュニケーションを求める方がおかしいとは思うけれど、きりるんと同じ今日意識を持ったばっかりの床がこんな丁寧な対応をしているから、その落差に小言の一つや二つ言いたくなってしまう。

 まぁ、このくらいでイライラして人__というか元ぬいぐるみに強く言うのは、一応「ご主人」であり、無意識とはいえこの子にこういう人格を与えたボクがやるのは大人げなさ過ぎた。

 きりるんは気にしてないというか、人の悪意や怒りに鈍感過ぎてそういう事を気にする概念自体無いみたいだから平気そうだけど、流石に少し強く言い過ぎたかも知れない。

「きりるん。今から大事なお話するから、少しだけリビングに行っててくれないかな?」

「そうなの? じゃあ、リビングで待ってるのだ」

「うん。お願いね」

 酷い対応してしまったと心の中で反省しつつお願いする

 大小様々なサイズのぬいぐるみ達を連れて、みんなでワイワイしながらリビングに移動するのを床の精霊さんと一緒に見送る。

「お気遣いありがとうございます。私奴が不出来なばかりに手間を掛けさせてしまいました」

 お辞儀するように目の黒丸が下に少し動く。三つの黒丸なのに表情のレパートリーがこんなにも多いのは流石だ。

「いやいや、そんな気にしなくて良いよ。二人の間に色々あるみたいだし、無理に一緒にお話しするのもお互いに気分が良くないでしょ」

 「えへへ」とわざとらしく笑って雰囲気を和ませる。

 こういう微妙な雰囲気になった時にはよくこうやって曖昧な言い方をして笑顔で誤魔化してしまう。昔からボクの悪い癖だ。

 中学生の頃だってこれが原因で酷い目にあっちゃったし、信世にも中学生の頃に一回だけ怒られた事があるから直さなきゃいけない所なんだろうとは思うけれど、昔からずっとしてる仕草ですぐには直せそうにない。

 信世みたいにハッキリ言えたらこうはなってないんだろうなぁと何度も考えるけれど、この仕草を封印してどうにかしようとすると何も言えなくなってしまう。何も出来なくなってしまう。

「ご主人…………シオン様が言う通りとても心が広い御方なのですね」

 ボクのどこに感心したのか分からないけど、何故か尊敬の眼差しでおだて始める床の精霊さん。

 創作上でしか聞いたことのない褒め方をされて変にむずがゆくなってしまう。

 そもそも、この子を創ったのはシオンちゃんであって、ご主人というのならシオンちゃんの方だ。見た目だけは同じだからご主人認定されているだけなのだろうけれど、ボク自身はこの子に何もしてあげてないからそこまでキラキラした目で見ないで欲しい。

 そんなことを言ったらこの子が嫌な気分になりそうだから言わないけどさ。

「それよりもさ、君がなんで言葉が喋れるかが知りたいな」

 この調子で変に細かい所まで尊敬されると居心地が悪いので話を元に戻す。

 信世以外に褒められるのは慣れてないんだよ。反応に困るから辞めてほしい。

「おや、私の事を知ろうとしてくださるのですか。これはありがたき幸せ…………喜んでお教え致します」

「うん、ありがと」

 床の精霊さんが笑顔で過剰に畏まった言い方をする。

 何もしてないのにこうもへりくだった言い方するのもあまりして欲しくないけれど……この子がそうしたくてそうしてるのだろうから、止めようにも気が引けてしまう。

「これはですね。私がご主人と会話がしたいから言葉を使っているのです」

「なるほど?」

「コミュニケーションを取るだけであれば、私達『奇跡』で能力を与えられた『奇物』もしくは『呪物』はそれぞれの喋りやすい言葉や念話で十分お話は出来るのです」

 床の精霊さんがまるで周知の事実であるが故に前置きのようにすらすらと復習するように口に出す。

 待って知らない言葉出てきた。『奇物』って何? 『呪物』って何? ソシャゲで知ってて当然な顔で急に出てくるそこそこ重要そうな名称みたいだけどさ。それボク知らないんだけど。

 この子の口ぶりからしてシオンちゃんは当然として『奇跡』で創った子達__つまりは『奇物』ももしくは『呪物』の皆も知っているみたいだ。

 何故『奇物』と『呪物』で分けてるのかも気になるけれど、ここで知らないと言ったらどんどん話が脱線してしまいそうで聞きたくても聞けない。

「う、うんうん。そうだね。でも、なんで君は普通に喋ってるの? きりるんは人間になってるから理解出来るけど、君は人間の形になってないのになんでなの?」

 知ったかぶりをかまして、ついでに一方的な会話にならないように質問をする。

 正直『奇跡』自体も魔法みたいな何かだとしか理解してないのに、また新しい概念が出てきてしまったら頭がパンクしてしまう。

 今は一旦保留させておいて、後でシオンちゃんに聞いておかなきゃ。

 脳内の気になるリストの中に『奇物』と『呪物』を追加して床の精霊さんのお話に集中しなおす。

 そういえば、世間ではもう既に夏休みみたいですね。羨ましいですね。

 社会に出て穢れた大人は夏休みなんて概念はとっくに捨て去ってます。学生の皆さんはこの貴重な夏休みを全力で楽しみましょう。やってみたい事を沢山やれる時期ですぜ。

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