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君との絆が奇跡になる  作者: 呂束 翠
異世界人と男の娘とぬいぐるみと。

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第34話 床の穴

 紡祇君視点になります。見た目が全くの別人になってしまってる彼は、信世達がお買い物中に一体何をしていたのか。

 そして、シオンちゃんと紡祇君の間でどういう会話があったのか。

 まだまだ明かしてない部分しかないので、少しずつ進めていきましょうか。


それでは、本編へ。どうぞ

 少し時間を遡って21時。紡祇の部屋にて。


「またね、紡祇君」

「うん、またね〜」

 信世が片手にシオンちゃんの着替えを、もう片方の手で翔流の首根っこを掴んでシオンちゃんと一緒に部屋から出ていく。

 ボクはベッドの上で手を振って三人を見送る。

「ふぅ…………ようやく静かになったなぁ」

 小さくなったシオンちゃんが扉を閉めるのを確認して、ホッと一息つく。

 今日は色々なことが起き過ぎた。朝起きたら女の子になってたし、綺羅星さんっぽい人に絡まれるし、家に帰ったらシオンちゃんに乗っ取られちゃうし。流石に疲れてしまった。

 大きな狼になったきりるんの頭を撫でながら、入口の床に空いた穴をジッと見る。

 この穴は、さっきまでスライム状態だったシオンちゃんを翔流が蹴飛ばそうとして、避けられた結果出来たものだ。

 幸い、あまり奥まで刺さらなかったから下の階までは貫通していないけれど……。一応マンションの一室を借りてる訳だから、このままにするのは良くない__んだけれど、どうやって直そうか。

 多少傷が付いた程度なら直せるんだけど、ここまで派手に穴が空いちゃうと直しようがない。

「うーん……きりるん、これ、直せたりしない?」

 ダメ元できりるんに聞いてみる。

 首を横に振って否定の意を示すきりるん。

 他のぬいぐるみ達にも聞いてみるけれど、みんな首を振って自分には出来ないと伝えてくれる。

「まぁ、そうだよね……」

 魔法みたいに色々な事が出来るようになったぬいぐるみ達だけど、この中に床の修復が出来る子なんて居ない。

 どうにかなりそうな手段を強いて挙げるとするなら、シオンちゃんから貰った『奇跡』って言われてるらしい魔法みたいなのだけど……。

「これ、使い方分かんないんだよなぁ……」

 シオンちゃんがアホ面になった翔流をリビングに送り出した後にどういう能力かは教えてもらったけれど、使い方自体は教えてもらってない。

 あの時のシオンちゃんは凄い急いでいたから教えるの忘れちゃっただけなんだろうけれど……効果を知っても使い方が分からないとどうしようもないじゃないか。

「どうしよっかなぁ……。ねぇ、きりるん。どうすれば良いと思う?」

 少し腹立たしく思いながらどうにかならないものかと、きりるんに話を振ってみる。

「ばう」

 小さい声で鳴いて頭を撫でるボクの手を振りほどいてベッドから降りる。

「え、何か良い案あるの?」

 ほんのりと薄い光を放って徐々に人の姿に形を変え始めるきりるん。

 狼の形から人の形へ。光に包まれたまま裸体の高身長男性の姿を一度経由して、和服っぽいけれど和服らしくない、銀と緑を基調にした派手な服を体から生えさせて身に纏う。

 服の完成度はかなり高く、小さくピョコっと立っている犬耳や、片目を隠した長い銀髪も、顔や声も元ネタの『穂波坂 銀之助』くんとそっくりだ。だけど、一つだけ足らない部分がある。

 あの仰々しい髪飾りが付いていない。

 シオンさん曰く、きりるんの見た目はボクの記憶を元に作られてるらしい。

 あの髪飾りはあまりに複雑な形でボクがそれを細かく覚えていないから、情報が不足しているせいで人間きりるんにはそれが付いていないのだろう。とシオンさんが教えてくれた。

「お待たせしたのだ!ご主人!」

 淡い光が収まるのと同時に、元気の良い声を上げて知らせてくれる人間きりるん。変身が完了したみたいだ。

 見た目だけなら『銀之助』くんとほとんど一緒だけど、見た目成人男性なのに性格がこんな元気の良い子供だから違和感しか感じない。

 これが狼状態だったら、格好良くしてても無邪気な子供みたいにしてても可愛かったのになぁ。モフモフもあるし。

「ご主人どうしたの?」

 きりるんの体__主に尻辺りを名残惜しそうに凝視していたのをきりるんに不思議がられる。

「あ、いや、なんでもないよ」

 成人男性の尻を男が凝視するのは何というかこう……相手がぬいぐるみとはいえ、BLみたいなシチュエーションだ。

 きりるんの見た目の元ネタである『百鬼繚乱』では、二次創作にそういう腐ったコンテンツというか、キャラ同士の濃密な触れ合いが多いし、『銀之助』くん自身もキャラ人気もあってかそういう二次創作が山程ある。

 その中にも、こういう展開からえっちな話に繋がるのは割とよくあるのだけど……純粋無垢なぬいぐるみ相手にするのはあまりにも不健全だ。

 不健全で、ぬいぐるみの教育に悪い。

 前まではみんな普通のぬいぐるみだったけど、今ではみんながそれぞれ自我がある。みんな好奇心旺盛みたいだし、不健全なことを見せてもしそれに興味でも持ってしまったら__

 ぬいぐるみ達がボクの部屋で同人誌読みながら、あちこちで腰を打ち付け合う様子が思い浮か__やだ! ぬいぐるみのみんなが不純な子になっちゃう。

 不純なのはボクだけで十分だよ。

「ご主人大丈夫……? 変な顔してるよ?」

 屈んでボクの顔を覗き込む長身イケメンのきりるん。

 顔は良いけれど言い方が少し腹立つな。

 同じ言い方でも、元のぬいぐるみ状態や狼状態で言われたら可愛いだけなんだろうけどなぁ。長身イケメンになると途端に腹立たしくなるのは何故なのか。

「誰が変な顔じゃい」

「あいたっ」

 屈んで良い具合に頭が低くなった長身イケメンのデコをデコピンする。

 あまり強く打った覚えはないのに痛そうに頭を抑えて蹲るきりるん。好きなキャラとそっくりで顔は良いのになぁ……。言動がこうじゃなかったら格好良かったのに。

 しかし、こうならないと言葉を喋れないのも事実。『奇跡』の使い方とかに心当たりがあるみたいだし話してもらわないと。

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