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君との絆が奇跡になる  作者: 呂束 翠
少し変わった日常へ

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第32話 目覚める元一般人2

「げほっ、げほっ」

 出入口が壊れた影響で出てきた粉塵を吸って大きな咳をする。

「なにが起きたんだよ」

 建物が崩れた影響で発生した粉塵を手で振り払うって煙が落ち着くのを待つ。

 あの扉、見た目以上に老朽化していたのか。と一瞬頭を過ったが、開けた時の感覚からしてそういう類の壊れ方じゃなかった。

 あの感触は、本来とは違う方法で力任せにこじ開けた感じと似ていた。

 しかし、そんなに力を入れた覚えはない。そもそも金属の扉をこじ開けれる力なんて俺は持っていない__持っていないはずだ。

 だが、夢の中である今のこの体はどうなんだ?

 何分経ったか。落ち着くまで少し時間が掛かってしまった。

 煙が落ち着いて視界がクリアになる。

「………………これが夢で良かったよ」

 目の前の惨状を見てそう呟く。

 扉だったものは扇みたいにぺしゃんこに畳まれており、天井だった物と一緒に地面に落ちてしまっている。

 夢とは言え、ここまでボロボロにしてしまうと多少は罪悪感が芽生えてしまう……。

 それと、この体がここまで力を出せる事にも驚きだ。こういう見た目だから相当な力があるのだろうけれど、それにしてもこの威力は過剰だろう。

 人間って2メートルの巨漢になったら金属の扉くらいぺしゃんこ畳めるものなのだろうか。

 身長が2メートル近くあるので頭をぶつけないように背を屈めながら、瓦礫を踏まないように避けて扉の奥に進む。暗くて何も見えないが、なんとなく階段があるのは見える。

 外の風景からして、今立ってる場所は何処かの建物の屋上なんじゃないかとは思っていたけれど……。どうもこの風景は見覚えがある。

 この手すりとかも、非常に見覚えがある。ざっと半年くらいはほとんど毎日触ったことがあるような、そんな既視感を覚える。

 手すりを触って触感を確かめてみる。

 なんだかこう……知ってるんだよな。普段と体があからさまに巨大になっているから、その既視感とは少し違った感触になってる気がするのだけれど……。

 他に何かヒントがないか周囲を観察する。

「んー。この壁、なんか見た事あるな」

 見た事あるというか、昨日まで週に五回くらい見てたような……。

 週に五回ねぇ……。

 そんな高頻度で訪れる場所なんて、家か学校しか__

「まさかな」

 急いで外に出て、金網の網の内側から建物の周囲を見る。

 暗くてよく見えないが、それでも分かるくらいには見覚えのあるものが沢山ある。

 水が張ったままになっているプール、この建物に隣接するように建てられている生徒の数の割には中々なサイズの体育館、運動部が普段練習の場にしているテニスコートや、グラウンドもある。

 そして、今、落下防止用で置いてあるこの金網も。グラウンドから屋上を見た時に見える物と同じだ。

「まさかここって……能進高校か!?」

 能進高校。俺や艶縫や信世達が通っている、ここら辺の地域では偏差値が高い高校だ。一部、翔流みたいなアホもいるが成績自体は悪くは無い。

 そんな能進高校の屋上に、俺は今立っている。

 普段は生徒が屋上に来れないように封鎖されているから細かい造形は知らないし、屋上がこうなっている事自体見るのが初めてだ。

「へぇ……屋上ってこうなってたんだな」

 学校は避難施設としても使われるというのを小耳に挟んだことがある。水害から逃れるために高い所にあるのだとか、騒音対策で近隣住民が少ない所に建ててるだとか。

 そういった例に漏れずこの能進高校もそこそこ高い所に建てられている。おかげでこうして見晴らしの良い場所で街を見渡すことが出来るようになっている。

 良い風景だ。こんなにも素晴らしい所なら、誰でも行けるようになってほしいんだけどな。

 だが、そうもいかないんだろう。この学校でそういった噂は聞かないが、こういう高所を開放していると虐めや家庭環境で悩んだ末に自殺する人が出たり、不慮の事故で亡くなったりする人が出ると聞くからな。

 学校側からしたら、下手に開放する訳にはいかないんだろう。

「良いもんだな」

 見慣れない高所からの夜の街に見入ってしまう。

 肌を撫でる夏の夜特有の生温い風も、五月蠅い蝉の声も、普段は鬱陶しいものなのに今だけは何故か心地良く感じてしまう。

 あとは、学校の中から聞こえる怒声が無ければ時間を気にせずゆっくり出来たはずなんだけどな。

「誰かいるのか!!」

 下の階から怒号を上げながらドタドタと走って来る音が聞こえる。

「夢の中でもこういうの来るのかよ」

 あれだけ大きな音を出したんだ。こうやって誰か来てもおかしくないのは分かるんだが、あまりにもリアル過ぎないか!?

 逃げ道を探してみるが屋上という地形である以上、動ける場所はほとんどない。せいぜいさっき壊した出入口くらいだが、そこからは誰かが来ているのでそちらには逃げれそうな場所はない。

「そこから動くな!」

「もう来たのかよ!」

 もたもたしている内に警備員が到着してしまったみたいだ。人数は二人。片方は若い男性、もう片方は年配のベテラン風のおっさんだ。無線でやり取りしているので、恐らく後一人はいるのだろう。

 夢とはいえ大人しく捕まるのはごめんだ。だが、ここからどうやって逃げようか。逃げ道らしい逃げ道は無い。

 説得しようとしたがすぐにそれを止める。ここにあるのは筋骨隆々な巨漢と瓦礫の山になった出入口だけだ。説得力が無いのは火を見るよりも俺に非があるのは明らかである。

「『こちら能進高校。屋上に不審者発見』」

「やっべ、まずい」

 口止めしようにも、さっき扉をぶっ壊したみたいに力加減間違って瓦礫の量産をしかねない。かと言ってこのままだと増援を呼ばれてしまう。

「なにか……なにかやれることは…………」

 捕まる前に謝って許してもらうか? ここまで派手に壊してしまってすみませんで済むかと言えば、まぁ間違いなく不可能だろう。夜中にこっそり忍び込んだこの学校の生徒とか教職員ならまだ希望はあるのだが、今の俺の見た目は到底そんな人物には見えない。

 こんな見た目の生徒が在籍してたまるか。教職員だったとしても無理があるだろ。ていうか扉を畳んでる時点でどんな事情があっても不審者確定だ。これで見逃す警備員だったら、むしろこっちが学校の夜の秩序を心配してしまう。

 とかなんとか考えてる場合ではなかった。早くしないと次の警備員が来てしまう。

「君、どこから侵入した!!これは君がやったのか!」

 出入口から警備員が扉だった物を指して声を張り上げる。

「お、俺も知らないんですよ!起きたらここに座ってて……。扉開けようとしたら壊れちゃってどうしようか悩んでて……」

 警備員に聞こえるようにしっかり声を張り上げて言い訳をする。

 だいぶ脚色したがほとんど事実なのは間違いない。起きたらここに座っていて、扉を開けようとしたら力加減間違えて壊れてしまっただけだ。

 扉を壊したのはほとんど故意みたいなものだが……ま、まぁ、開け方間違えて壊れちゃったのは間違いない。ほら、この巨漢だしありえなくないだろ。ありえなくは……うん。

 ……現実の巨漢でも金属製の扉って壊せるんかなぁ。

 俺の言い訳を聞いて小声で相談する警備員二名。

 これで多少は信じて欲しいんだけど……。いや待てよ。これ信じた所で俺が不法侵入した不審者なのは変わらないのでは?

 その事実に気付くのと同時に警備員二人が俺の方を見て慎重に距離を詰めてくる。

「とりあえず一緒に下に降りてもらおうか。ここじゃ寒いだろ」

 妙に穏やかな声色で話し掛けてくるおっさん警備員。俺の言い訳を信じてくれた訳ではないのだろう。あくまで確保の為の行動だ。

 若い警備員はお様子を見ながらおっさん警備員の背中にピッタシくっ付いて歩いて来ている。

「ちょっと待ってくださいよ!俺、そんなに怪しい人なんかじゃ」

「この時間に屋上で扉がこんなのになってて、知らない大男が言う怪しいが怪しくないと言えるのかな」

「それはたしかにそうだけど……」

 確かにその通りだ。ぐうの音も出ない。

 けれど、だけれど、ここで捕まるのは良くない。夢の中でも前科一犯になんてなりたくない。

 にじり寄る警備員から逃げるように後退りする。元々端に近い場所だったので、背中に金網の柵が当たってしまうまでに時間は必要なかった。

「クソっどうすれば」

『繧繧九縺帙縺繝ト縺ェ』

 突如頭の中に響いた野太い男の声。

 とても不機嫌そうな声だったが、その言葉の意味までは聞き取れなかった。ただ、全く聞き慣れない発音で、英語でも日本語ではないのは確かだ。

(今の声、誰だ)

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