第21話 ロリ型スライム
全員コップと食べかけのポンデリングを置いて互いを見る。
「翔流……お前は何か知らないか?」
「俺は知らないぞ。信世じゃないなら紡祇だろ?」
「ボクも知らないよ。さっきまで寝てたし。あ、きりるんが人間になって用意してくれたんだよね?」
首を横に振って否定する。
本当に誰も知らないみたいだ。心当たりは1つあるが、まさかこれが……。これがもしシオンが用意した物だとしたら、何か仕掛けがあるのではないだろうか。
これは…………まずいな。
この場にいる3人と1匹以外の知らない誰かが用意したお茶とお菓子を悠々と食べているのは大変まずい。いや、とても美味しかったんだけどそういう事じゃない。状況がまずい。
正体不明の誰かが用意したお茶とお菓子を3人で見詰めて空気が重たくなっていると、スライムがまた音を立てて動き始めた。
「し、信世!スライムがまた変な事になってる!」
今度はさっきよりも激しい動きだ。増幅しているというより何か別の形になろうとしているように見える。
スライムの異変を見るなりきりるんが紡祇の首根っこを捕まえてモフモフの中に入れる。
「翔流。『肉体強化してあのスライムを廊下に蹴っ飛ばせ』」
「『奇跡』使わなくてもやってやるよ!」
日々、ランニングや筋トレで鍛え抜かれた翔流ご自慢の脚が更に『奇跡』で強化されたんだ。サイズも俺たちよりも少し小さいくらいになってる今なら、廊下に飛ばす程度どうってことない。
少し助走を付けて大きく飛び上がり、スライムに両足で突っ込んでドロップキックをお見舞する……はずだった。
最初からその場を動かなかったスライムは、翔流のドロップキックを体をへこませて回避した。
翔流のドロップキックはそのまま綺麗に地面に着弾して、俺に突進した小鳥のぬいぐるみのように地面に突き刺さってしまう。
「アレって動けるのかよ」
「先に俺を引っこ抜いてくんないかな」
「自力で戻ってこい」
腕までは地面に埋もれていないから自分で抜け出せるはずだ。それよりも問題なのは床に穴が空いた事だ。また修復しなきゃいけない。
サクッと床から抜け出して得意げな顔をしている翔流の頬を1回引っ張叩く。
「なんでまた叩いたんですか!?」
「顔がムカついたから」
「翔流〜。ただでさえ裏切り者なのにそんな事でドヤ顔しちゃダメだよ。信世、次は股間行って良いよ」
「心得た」
「みんな俺の扱い酷くないですかね!?」
翔流の戯言を聞き流してスライムの様子を見る。
最初はただの塊でしか無かったスライムは、翔流が戻ってくるまでの間におよそどんな形なのか分かる程度にはなっていた。
「おい馬鹿。あれは何の形か分かるか?」
「あ、馬鹿って言った!俺の事今ハッキリ馬鹿って言った!!ひでぇよ、お前暴言はいけないんだぞ!」
「さっさと答えろ馬鹿。次は股間だからな」
「あ、はい…………。あれって、多分人じゃないのか?」
驚いた。そこまでの知性はあったか。
「馬鹿すごいよ!そんなに賢いだなんて!ほら、みんなも褒めてあげて」
紡祇に言われて無言でぴょんぴょんして嬉しそうにするぬいぐるみ達。きりるんは前脚をそっと頭に乗せて撫でるような動作をする。ただし、あくまで紡祇本人は何もしないようだ。
「そ、そんな事は……あるかもしれねぇなぁ。へへへ」
馬鹿呼びを受け入れて素直に照れるんじゃない。
まぁ、翔流の言う通りスライムは人型らしき形になり始めていた。今は手脚の指の形が5本ずつハッキリ分かるくらいには形が出来上がっている。
この調子で出来上がるなら、130から135cmくらいになりそうだ。腰辺りまで髪らしき物が生成されてるから、恐らくは女性の体を元にしているのだろう。顔付きまではまだ分からないが、口や鼻らしき物は既に出来上がっている。
しかし……この姿、なんだか見覚えがある。見覚えがあるというか……。
「このスライム、今の紡祇の姿に似てないか?」
「え、ボクに?いやまぁ確かになんとなく形は似てるけど……」
心外だと驚きつつもマジマジとスライムの形を見る。
足の形、脚の長さ、尻の形、胸部の薄さ、腕の長さ、髪の長さ全て今の紡祇を全体的に幼くした感じとそっくりだ。違う所と言えば男性器が無いくらいか。元々が小さいからあまり差は無い。
このまま完全に形が作られたら第2の紡祇が出来上がりそうだ。
「なんか、美少女フィギュア見てるみてーだな」
翔流が興味津々にスライムの周りをうろちょろする。あらゆる角度から体を形成中のスライムを見るその姿は一昔前のキモオタのイメージによく似てる。
というかこれ、完全に形作られたら裸になるのでは……?
「ちょっと紡祇の服借りるぞ」
「え、どうしたの?」
「このまま人型になると、このスライムが裸になる」
「それは……大変まずいね。翔流がロリコンになっちゃう」
「え、今俺がなんだって?」
急いでタンスからのピンクのフリフリが沢山付いたネグリジェを取り出して翔流に形が崩れないように丁寧に手渡しする。
「これ着せてやってくれ」
「え、なんで俺?」
流石に推定幼女のスライムに直接触れるのは気が引けるので、翔流に渡して着せてもらおう。
この服は去年紡祇と夏休みの初めにお泊まり会をした時に紡祇が着ていた物だ。
去年の夏のお泊まりは全てそれにするのかと思ったが、それ以降1度も着ていなかったのでもう使わない物なのだろう。紡祇自身も「あれはもう着ない……」と俯いて言っていたから大丈夫だ。
「それってもしかして、ボクのネグリジェ?」
「ああ。去年着てたやつだな。確かもう着ないって言ってただろ?」
「そうだけど……」
着々と着せられるネグリジェを名残惜しそうに見る。
もう着ないと言ったから要らないかと思っていたが、本人に了承を得ずに着させたのは非常識だったか。
着ないと要らないは違うからな。悪いことをしたかも知れん。
「まぁ、確かにあれを手放すのを惜しむのは分かる。実際着てて可愛かったからな」
「そのくらい知ってるよ。去年も言ってたもん」
「おいコラそこの2人。イチャつくんじゃない」
紡祇と軽い思い出話をしようとした所で服を着せ終わったロリコンに止められる。
別にイチャついているつもりじゃないんだがな。
2人で話している間にスライム娘は顔の形が明確に分かるようになっていた。髪の形も1本1本綺麗に人の髪の毛を再現していた。
「ほんと凄いよな。今の紡祇とそっくりだぞ」
「そうだな。紡祇の子供と言っても信じれるくらいだ」
「まぁ、今のボクの姿は別の姿だけどね」
なんでこんな姿になったんだろね。と笑って言う。
そこ辺りはシオンに直接話を聞くしかないだろう。十中八九アイツが元凶と見て間違いないだろうしな。
「一応、どれくらい再現されてるか見てみるか」
「頼んだぜ信世。俺はロリコンになりたくない」
紡祇が居るから一応そういった話題は避けていたが、着せ替えしてる時に女性器をマジマジ見ていたお前が今更何を言っているんだか。
スライムに近寄るついでに翔流の頬を引っ張叩く。
「俺、今なんで叩かれたの!?」
「そんな事よりもスライムが変な動きしたら教えてくれ」
「あ、はい……」
翔流を退かしてスライムの作った髪に触れる。
触感は今の紡祇の髪の毛と全く同じだ。細さや滑らかさや、全体的にふわふわしたウェーブの所まで完全再現されている。長さは流石に身長が低くなった分短くなっているが、腰辺りまで伸びているのは同じだ。
次に顔を触れてみる。
肌の質感も同じだ。閉じた目を無理やり開けて目の色を確認したが、今の紡祇の姿とは違って元のスライムに似た青いキラキラした瞳だった。
口の中は色が青いこと以外は普通の人間だった。驚いた事に歯の並びも同じだ。外面だけではなく、中身も模倣した訳か。
次は中に何か入れてみるか。ポンデリングでも突っ込んでみよう。何か反応があるかも知れない。
翔流くんが話を追うごとに叩かれる回数が増えてる気がする……可哀想に。




