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君との絆が奇跡になる  作者: 呂束 翠
『奇跡』使い達

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17/53

第17話 分からない

キャラ紹介。四人目。ヒロイン♂の紡祇くん

名前:艶縫あでぬい 紡祇つむぎ

性別:男(現在の体も一応男)

年齢:15歳

誕生日:9月1日

身長:150㎝

体重:50kg

能力:ぬいぐるみとおはなしできる


・ぬいぐるみを集めている。自室の半分はぬいぐるみで埋まっている。

・基本温厚な性格。

・童顔低身長。

・能進高校一年三組。深森 信世の親友。


 初期設定では、能力でぬいぐるみとお話が出来て、全てのぬいぐるみが何らかの特殊能力を使える予定でした。現在の強化版みたいな能力ですね。

 元は男の娘設定が無くて、見た目は信世くん寄りの高身長の男子高校生。人の心がある信世くんみたいな感じでしたが、私の性癖が「男の娘って良いよねっ!!!」と言い出してこうなりました。

 現在シオンさんとシェアしてるこの見た目に関しては、昔々ある所に日本に住んでいた男子中学生の私が作ったキャラクターの見た目をそのまま引き継いでいます。シオンさん自体も元々昔作ったキャラクターで元は男の娘の設定でした。

 また、紡祇くんの元の見た目は今とは違うタイプの男の娘になるので、どう表現しようかワクワクしながら考えてます。




それでは、本編どうぞ

「少し聞きたいことがある。起きてくれ」

「うぅ……分かったよ……」

 あくびして目を擦る紡祇の口にすかさずちぎったポンデリングを一つ入れる。

 口の中に食べ物があると二度寝せずに大人しく食べてくれるので、急ぎの用事がある時はよくやっている。

 喉に詰まらないようにお茶を渡して飲ませつつ話を続ける。

「紡祇の体を乗っ取ってたヤツの事は知ってるか?」

「知ってるよ~。シオンちゃんでしょ。さっきお話したよ」

「ほう……マジか」

 友人を殺そうとした奴とお話だなんて紡祇らしい。

 こういった事は珍しくない。

 しっかり相手の事も考えて行動しているのは良い所だが、以前それが原因でナンパ男からの誘いを断れずに喫茶店まで行ってご飯を食べながら話していたこともあった。嫌な予感がして俺が偶然同じ喫茶店に昼食を食べに行ってたから気付けたものの、それが無かったらホテルまで行きそうな状況だった。

 あれ以降、「知らない人には着いて行くな」と口酸っぱく言っているからそういった事は無くなったが、まさか敵相手にもするとは思わなかった。今回はむしろ好都合だから注意するのはまた今度にしておこう。

「どんな話したんだ?」

「えっとね。色々あったんだけど、これだけは伝えておいてって言われたのがあるんだよね」

 意外という程ではなかった。翔流やほぼ全てのぬいぐるみを使って時間を稼いで何もありませんでしたはあり得ない。

 今まで『奇跡』しか使ってなかっただけで、不思議な力を使う異世界人らしく炎を飛ばしたり凍らせたりする魔法を使ってきてもおかしくない。

 伝言の内容がどんなものであっても、警戒しない訳にはいかないだろう。

「内容はどんなのだ?」

「『君と紡祇くんを殺すのは無理だから諦める。迷惑掛けてごめんね』だってさ」 

「…………そうか。良かった。安心したよ」

「そうだよね~。良かったよね」

 これは……スライムの瓶に続いてまたブラフか?

 本当に何も無いのか? 油断してゆっくりした隙を突こうとしているだけじゃないか?

 そもそもシオンの現状が分からない。紡祇の見た目が変わったままだから恐らくシオンは紡祇の中に居るのだろうけれど。

 今は一体何しているんだ。

 降参するなら何故翔流を時間稼ぎに使った。俺を精神的に攻めたいからか? それが失敗したから降参したのか? そうだとしたら計画の変更までが早すぎる。

 翔流の断末魔が聞こえた後に俺が到着するまで計画変更したというなら、あの僅かな時間でを俺を殺そうとしたシオンが紡祇を説得して伝言まで伝えて寝かせたのか? 洗脳が紡祇にも使用出来るのであれば不可能ではないだろうが、そうだとしてもあまりにも手際が良過ぎる。

 俺の『奇跡』は道中で散々使っていたから、向こうがどんな効果か知っていてもおかしくない。そもそも『奇跡』自体シオンの世界の産物だろうから知らない方がおかしい。

 俺の『奇跡』なら「シオンの意識を消滅させろ」とでも言えば消せるだろう。さすがに、紡祇の意識も同じ体にあるから、下手に使って何か起きたらマズイからすぐには使わないのだが。

 だけど、こんな短期間に最初の目的を捨てて見知らぬ異世界で降参なんて出来るのか? 俺の『奇跡』で消されるかも知れないのに?

 相手の意図が分からない。この程度で安心してゆっくりするような奴だと思われているのだろうか、それとも逃げる準備をしているのだろうか、時間稼ぎをまだしている途中なのか。分からない。相手の意図が読めない。

「他に何か聞いたか?」

「何も聞いてないよ~」

 手掛かりは無しか。

 だが、必ず何かあるはずだ。

 あそこまで仕掛けておいて何もしていないのはあり得ない。必ず、必ず何か狙っているはずだ。

「急に立ってどうしたの?」

 スライムの瓶か? ぬいぐるみか? 修復した扉か? 手当たり次第触って確かめる。

 違和感は無い。何も無い。分からない。

 何をしてくるのかが分からない。何を仕掛けているのかが分からない。相手の手札が分からない。対策が分からない。今出来る事が分からない。紡祇をどうすれば守れるのかが分からない。

 分からない。何も分からない。

 分からないから、怖い。

 何処にも違和感は無い。他の部屋も何も無かった。今から行けば何か変わっているかも知れない。

「どうかしたの?」

 移動するにしても、紡祇を一人には出来ない。一人にしてたら何が起こるか分からない。何が起こるか分からない。

 連れて行かないと。

「やだ」

 紡祇の手を取ろうしたら避けられてしまった。

 避けられるとは考えもしなかった。そのせいで少し思考が止まってしまう。

「えいっ!」

 その隙に両頬を優しく引っ張られる。

「………………え」

「信世、全然安心してない顔してる」

 珍しく紡祇が怒っている。

 そんなに「安心してない顔」していただろうか。自覚は無い。紡祇が言うのならそうなのだろう。

 でも、そんな事を気にしている場合じゃない。紡祇はどんな事態になっているか理解していないかも知れない。伝えないと。

「だけど」

「だけどじゃない。落ち着きなさい」

 理由を説明しようと喋ろうとしたが頬を引っ張って止められてしまった。

 聞き分けの悪い息子を叱る母親の様だった。

 懐かしい感覚だ。昔もこんな事があったような気がする。

 いつだったか。中学生の頃だったか。

 転校してしばらく経った頃だったか。そんな気がする。

 あまり覚えていない。

 だけど、その時も今みたいに紡祇に頬を引っ張られて落ち着けと言われた記憶がある気がする。

 紡祇の顔を見ながら、気付かない内に速くなっていた呼吸を整える。

 鼓動の速くなった心臓の音がようやく聞こえてくる。

 開ききって渇いた目をまばたきをして潤わせる。

「心配なんだ。相手が何か企んでるかもしれないじゃないか」 

「大丈夫だよ。ボクを信じてよ」

「紡祇を疑っている訳じゃない」

 疑っているのはシオンだけだ。初対面で殺そうとしてきた人間がこんなにあっさり降参だなんてあまりにも怪しい。

 互いに見つめ合うだけの時間が流れる。

 どう伝えようか。今の状況では弁解しようとしても言い訳にしか聞こえないだろう。どうしたら伝わってくれるだろうか。

 そう考えて互いに黙っている内にしびれを切らしたのか。

 先に口を開いたのは紡祇だった。

「…………信世はボクの事信じてくれないの?」

「うっ…………」

 いつもの眠そうなとは違う、真剣な眼差しで見つめてくる。

 そんな事言われたら何も言えない。数年の付き合いだ。紡祇はそれを知った上で言ってる事くらいは分かる。

「卑怯だ」

「信世だって卑怯じゃん。嘘ついたし」

「嘘なんて……」

 ついてない。と言おうと思ったが、たしかに「安心した」と嘘ついていた。

 無駄に心配を掛けてしまった。

「ごめん」

「良いよ。でも、変に思い詰めないでよ。信世の悪い所だよ」

「分かった。少し考え方を変えるよ」

「ちゃんと考えてる内容まとめながらボクに教えてよね。変なことしてたら注意するからさ」

「勿論そうするよ」

 紡祇に叱られてしまった。面目無い。

 これは……大前提から考え直さないとダメそうだ。

 まず、俺は「シオンが俺を殺そうとしている」という前提で考えていた。

 大前提から違うという仮定にするなら、他にはどういう可能性があるだろうか。

 時間稼ぎをする目的は色々あるが、よく使われる手には戦力を十分に用意する以外に、自身が安全に逃げる為に脅威を他の奴等に抑えてもらうという行為にも使われる。

 つまり、シオンは伝言の通り諦めて自身を守る為に時間稼ぎをしたと考えるのはどうだろうか。初めから面と向かって戦わないのなら、この何も起きない状況にも説明が付く。

 それらをある程度整理して、紡祇に理解してもらいやすい様になるべく纏めて伝える。

「最初に会った時みたいに戦う意思がある訳じゃない。だけど、時間稼ぎに全力なやり方。何か策があるのかと思ってこの部屋に来たら、切り札らしい切り札も無しで伝言での降参の意思表示。それならこの何も起きてない状況に説明が付く」

 紡祇に言われた通りに、ある程度まとめた内容を話しながら考える。

 そう、最初から降参するつもりなら何もおかしくない。

「でも、おかしいんだ」

 そもそも、手札がまだ沢山あるのに俺を殺そうとするのを諦めるのがおかしい。

 翔流に使ったような何らかの洗脳を俺に使えば、俺を自由に動かして殺せただろうし、あまり効かなくても多少の時間は稼げただろう。洗脳自体が成功しなくても、その影響で多少俺の反応が遅れれば、それだけで相手にとって最高のチャンスになる。

 でも、それをしなかった。

 『奇跡』持ちの翔流には通じたのに同じ『奇跡』持ちの俺には使わなかった。使用する際に何か条件があるにしても、翔流を駒にした状態なら2対1で有利な状況で動けたはずだ。

 他にも、道中に罠一つ仕掛けられていなかったのも気になる。俺が戻ってくるまでの時間ならいくらでも仕掛けれたはずだ。

 罠以外にも、小鳥のぬいぐるみのような爆速で突進して扉を破壊出来るぬいぐるみを不意打ちで使えただろうし、後ろからきりるんを使って襲う事も出来たはずだ。

 でも、全てしなかった。

「俺を殺す選択肢なんて山ほどある。罠は仕掛け放題、殺傷能力が高いぬいぐるみが手持ちにあって、きりるんみたいなサイズで押し潰せば物量で攻撃できる。翔流も一人だけで出して時間稼ぎにしか使わなかった。複数の要素を同時に使えばかなり有利に戦えたのにしなかった」

 有利に立ち回れる方法なんて山ほどあったはずなのに、それらを一つもしなかった。かと言って、逃げようともせずに降伏。

 俺を殺そうとも、自身を守り切ろうとも考えていない。

「まるで、負ける事を初めから分かっていたみたいなやり方なんだよ」

「つまり、失敗前提の計画ってこと?」

 紡祇の返しに頷いて、多少渇いた喉を潤す為に一度お茶を口に含む。

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