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君との絆が奇跡になる  作者: 呂束 翠
『奇跡』使い達
10/45

第10話 翔流ピンチ

09

 紡祇宅にて


 どうも俺だ。天馬 翔流だ。

ゆっくりと自己紹介したい所だが、今は紡祇の体を乗っ取った異世界人が俺の友人の信世を殺そうとしてるし、俺自身はその異世界人が使役する狼に捕まって身動き一つ取れない状況で大ピンチ。そう悠長にする余裕はないんだ。

ない……はずなんだけどなぁ。

現在、何故か俺は、友達を殺そうとしてきた異世界人と一緒にテーブルを前に並んで座ってゆったりティータイムしている。異世界人の子は俺の左隣に座っている。

でっかい狼は実は自称きりるんである銀髪イケメンだったようで、ソシャゲに出てきそうな派手な着物着て部屋の隅に立っていた。

テーブルには客人用であろう値段がそこそこしていそうなお茶と、プレーンのポンデリングの山が置いてあった。

「そんな緊張しなくて良いよ。ほら、ドーナッツでも食べてゆっくりしよ」

「ありがとうございます」

 味変用でハチミツもあるよ。と言って自称きりるんが持ってきたハチミツをテーブルに置く。

プレーンのポンデリングに味変だなんて言ってハチミツを置くことは、紡祇本人だったら考えられない事だ。プレーンか砂糖をまぶしたポンデリング以外のポンデリングは認めないと言っている位にはこだわりがある。

そんな紡祇がハチミツを味変用として持ってきているのだ。確実に別人だろう。

というか、見た目からして別人なのだけども。

紡祇の髪は長い方だが、腰まで髪は伸ばしていないし、髪の色は少し茶が混じった黒だ。こんな光を反射して輝くような銀色の髪色ではない。

顔付きもあまりにも幼過ぎる。中学生くらいだろうか。身長も紡祇より少し低いくらいだ。間違いなく別人だ。

そもそも、髪の長さや顔付き以前に紡祇は男だ。この子はどこからどう見ても女の子じゃないか。性別からして別人だ。

だが、そんな紡祇と全く特徴が被らないこの女の子を信世が「クセとかは完全に紡祇と同じ」と言っていたんだ。(体は違うとは言っていたが)信世が紡祇と言えば例え見た目が違っていてもそれは紡祇で間違いない。あの無自覚変態の言う事だ。紡祇に関連する事は全面的に信用出来る。

そんな無自覚変態が、この部屋に入った瞬間に紡祇に向けた顔がいつも紡祇に向ける優しい顔ではなく、いつか紡祇と一緒に俺に話しかけた時や、クラスメイトの綺羅星に向けていた、紡祇に有害かどうか分析しているのに集中して表情を作りもせずに無表情で目を目一杯見開いて、分析するように紡祇と部屋のあちらこちらを見ていた。

その後は皆さんご存じの通り、信世は一旦逃げようと適当に理由付けて逃げようとしたのをぬいぐるみに部屋の中に吹っ飛ばされて、俺は突然出てきたデカい狼に抑えつけられていた。

はずだったんだがなぁ。

お茶を頂きつつポンデリングをちぎって食べる。

理由は分からないが、穏やかなティータイムになっている間に聞けるだけ聞いておこう。

「どうして俺を開放したんですか?」

「特に理由は無いよ」

「無いんですか」

「そう、何も無いよ。捕まえておく理由が無いから開放したの」

「それは、人質としての価値がないから『理由が無い』ですか?」

 確かに信世の行動を見たら人質としての価値が無いと判断されても仕方がないだろう。あの野郎、俺が捕まっているのを見ていたのに「解放しろ」とかなかったからな。そもそも状況確認の為に最初に俺の方を一瞬チラッと一回見た時以外、一切気にも掛けてなかった。流石に悲しかったぞ。

「確かに人質としての価値は少なそうだけど、そう意味じゃないよ」

ハッキリと価値が少ないって言われると多少なりともへこむな……。

「あ、今ちょっと落ち込んだでしょ?紡祇君の記憶の通りだ」

 君、可愛いねと言って微笑む。

小さいクセに大人びた雰囲気をしている女だ。少しクラっと来てしまった。

これでおっぱいが大きい年上の女性だったら恋に落ちていたかも知れない。

「変な事言ってないで教えてくださいよ。人質以外ならなんですか」

 お茶を飲んで気を紛らわす。

 見た目は同世代どころか年下なのに妙に緊張してしまうのは、さっき襲われたから恐怖で緊張しているだけだ。きっとそのはずだ。

「単純な話だよ。力の温存だね」

「力の温存って、さっき言ってた『奇跡』ってやつのですか?」

「その通り。信世君のことだから、きっと『奇跡』の使い方を理解してもう一回挑みに来るだろうからね。理解度次第じゃあ僕、負けちゃうからさ」

 信世も持っているという『奇跡』。

詳しい事は聞けていないが、どうやら魔法みたいな物らしい。

そして、信世の『奇跡』は異世界人であるこの人……名前をどう呼ぼうか。

「話が変わってしまいますが、貴女の名前はなんですか?」

「そういえば言ってなかったね。僕のことはシオンって呼んで。カタカナでシオン。僕の世界とほとんど同じ意味のはずだよ」

「分かりました。よろしくですシオンさん」

「うん、よろしく」

 シオンさんが手を開いて左手を差し出す。握手したいみたいだ。

 ドーナッツで汚れた手をウェットティッシュで拭いて握手をする。

 シオンさんの手が触れた瞬間、触れた事のない感触に驚く。

 小さくて柔らかい手だ。女の子の手らしく綺麗で繊細で汚れ一つない綺麗な、絹のような手だ。少し力を入れたら折れてしまいそうだ。

「手、大きいね」

 独り言だろうか。シオンさんがぼそっと言う。そして、両手で俺の手をギュッと握る。

 見た目通りの小さくて可愛らしい手で握られても、大した力は無いので痛くはなかった。

だけど……なんだか不思議な感覚がする。

手を見つめて考え事しているからいけないのだと思い、シオンさんの顔を見る。

綺麗な顔だ。顔のパーツ一つ一つが整っていて、じっくり見ると大人びた顔付きしているようにも見えてしまう。

肌は化粧もしていないのに真っ白で雪のようだ。あまり触れない自分の手とは全く違う男の手に何か気になる事があるのだろうか、真剣な眼差しで俺の手をジッと見つめている。

その顔が綺麗で見とれてしまう。

自分の心臓がドクドクとなっているのが分かってしまう。不思議な感覚が強くなる。まずい逆効果だった。

「手、開いてほしいな」

「はい」

言われた通りに手を開く。閉じていた指も完全に開いてパーの形にする。

「もう片方も」

「えっと……」

「おねがい」

 綺麗な顔を真っ直ぐ向けられて上目遣いで言われる。

「は、はい」

 言われた通りにもう片方の手もしっかりと開いてシオンさんに手のひらを見せるようにする。

 開いて手持ち無沙汰になってしまった俺の手を埋めるように彼女の両手が合わさる。

「……あのシオンさん?」

彼女の指が俺の指を絡めて逃がさないように力を入れる。所謂恋人繋ぎというやつだ。

柔らかい手が握手した時よりも明確にしっかりと感じられるようになる。

反射的に逃げようとして手を引いてみたけれども出来なかった。手を離すことも逃げることも出来なかった。彼女の力が強いからではなく、俺が逃げるために力を入れることが出来なかっただけだ。逃げたくないと思ってしまっただけだ。

彼女は無言で俺の手を見ている。

手を見ても、顔を見つめても気まずい。かと言って完全に彼女から目を背けるのも失礼になりそうだ。どこに目線を落ち着かせようか、彼女の脚を、腕を、服を見る。

綺麗な脚をしている。ショートパンツのお陰で良く見える。太過ぎない、細すぎない、日焼けなんてしたことの無いような真っ白でケガ一つ無い綺麗な脚だ。

オーバーサイズな白い長袖の上着であまり露出していないが、袖の隙間から見える。細くて華奢な腕だ。力比べなんてしたら壊れてしまいそうだ。

そして、なるべく意識しないようにしていたが胸元に視線が向いてしまう。

巨乳好きではあるが、こんな美少女が無防備にしていたら嫌でも目が行ってしまう。

夏服らしくゆるい胸元からまだ発達しきっていない小さな膨らみが見える。

その小さな山をじっくり見ようと……

「ありがと翔流君」

 いつの間にか顔を上げていたシオンさんがニコニコしながらこっちを見ていた。

「ずっと握っててごめんね。あんまり握手なんてしないからさ。翔流君のおっきな手の感覚が珍しくて、つい堪能しちゃったよ」

「そ、そうですか」

 胸を見ようとした後ろめたさからの罪悪感で目を逸らす。

 一方、シオンさんは満足したのかとっても良い笑顔で俺の手を堪能していたようだ。

怖いくらいにとても良い笑顔をしている。

「翔流君も良い物が見れたようだね」

「え、あ、な、なんのことでしょうか」

 女性は胸への視線に敏感だとか聞くけれども、もしかしてバレてた……?

 一度確認してみようか。いや、確認したら認めたのと同じようなものじゃないのか?聞かない方が良いのではないだろうか。

 ……一応気付いてるかどうか、それとなく、ふんわりと聞いてみよう。

「あの」

「聞かない方が自分の為だと思うよ」

「あ、ハイ……」

 次の言葉を言う前にシオンさんに止められる。そして、空になっていた俺の取り皿にポンデリングを一つ置いて、中途半端に残っているお茶を満杯まで注ぎ足す。

 バレてる絶対バレてる。間違いなくバレてる!

 焦るな俺。ここで取り乱していたら更に滑稽だぞ。

シオンさんを視界に入れると冷や汗をかいてしまいそうで、そっぽ向いて彼女が淹れてくれたお茶を飲む。そして間髪入れずにポンデリングを頬張る。

落ち着け、落ち着け俺。大丈夫だ。シオンさんは怒っていない。怒っていないんだ。

「君、本当に可愛いね。ちょっと好きになっちゃったかも」

 明後日の方向を見て震える俺の耳元で囁く。

 もうやめてほしい。心臓がもたない。

 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、彼女はその細い腕でそっと背中から抱き着いてくる。

 そして、また、耳元で囁いてくる。

「からかっちゃってごめんね。お詫びと言ってはなんだけど、僕の『奇跡』について教えてあげる」

あんまりこういう描写について知識がないので不安でしたが、大丈夫でしょうか。

それと翔流くんは彼女いない歴=年齢の子です。非モテではなく、ただのスポーツ馬鹿なだけですね。

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