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森を彷徨う僕らは

 皆様こんにちはこんばんは、遊月奈喩多と申すものでございます!


 SNS文芸部のタグに寄せた短編、いよいよ2話目でございます! この書き方から何かを察してくださる方もいらっしゃりそうですが、それはそれとして……


 本編スタートです!

 ここは、ティンゲルギニア。

 俺がちまちま書いてはWebサイトに投稿している小説『Sacred Destruction~聖なる破戒者達~』の舞台だ。


 唯一神コキュアを崇めるコキュア聖教、そしてその聖教中心の倒錯した文化に疑問を抱いてそこから脱却しようとするアンチコキュ派とに二分(にぶん)され、世界の至るところに火薬庫があるような状態なのである。

 因みに俺はこの物語でどちらが悪でどちらが善とかいうのを決めたくなったから、アンチコキュ派も功を焦っているためにテロ集団と化しているし、コキュア聖教にしても、詳しくは言わないが愛するふたりを引き裂きかねない教義が平然と組み込まれている──まぁ、俺自身が『コキュ』から考えたからわかることなんだがな。


 ちなみに目覚めたのは『古代の森』といって、どちらの派閥からも縁遠い地域。しかしここにはコキュア誕生の秘密やコキュア聖教がどうして寝取……いや、恋人同士を引き裂くような儀式を採用することになったかの真実が語られる、終盤になればなるほど重要になる場所だ。


 クララァガァ、タッタァ!

 クララァガァ、タッタァ!


 ん、この声は森の番人である象・オッツンベッルーの声だ。やつらがまだ生きてるということは、今はだいぶ序盤……少なくとも俺が行き詰まりを感じていた、大神官の娘が派遣社員の韮澤(にらさわ)の毒牙にかかるよりずいぶん前の部分だ。


 ふぅ、自分の創った世界だからこういうのがわかるのもいいところだな。意気揚々と森を歩くことにする──なに、外に出ればかなり危険なティンゲルギニアだが、この古代の森はわりと安全だ。

 木漏れ日が美しく、木々の間を吹き抜ける風はいたって爽やかで、わりと深い森ではあるものの決して暗さを感じるものでもない──俺たちの暮らしていた国で言えば、まだ入り口近くの道が整備されている範囲の樹海みたいな感じだった。自分で書いておいてなんだが、こんな風光明媚な場所だったとは思わなかったな、古代の森。


 ティンゲルギニアは相当荒れているが、ここはとても平和だ。平和なところを歩いていると、つい思い返す。


> この作者リア充に並々ならぬ恨み持ってそうw


 つい最近完結させた、『私と君と、あなたとぼく。』という恋愛作品の最終回についた唯一の感想だった。それまでの更新エピソードには毎回3、4個のコメントが付いていたのだが、やはり最終回で、実はヒロインがずっと彼氏の先輩に“飼育”されていたということを明かしたことで顰蹙(ひんしゅく)を買ったのか、コメントはそのひとつだけになったし、なんならそれまでのエピソードに対する好意的なコメントを削除する読者まで現れる始末だった。

 コメント削除に比べれば、まだ『リア充恨んでそう』の方が精神的にはマシだ。なんというか、そういう気がした。


 とはいえ、『リア充恨んでる』はもう的外れにも程があった。恨みなんて持っちゃいないさ。持ってるとすれば羨み……かな。

 少し口寂しくなって、小瓶に詰めた小学生たちの唾液を飲もうとしたが……そうか、着の身着のまま公園のトイレに行っちまったんだった。仕方ない、そこら辺の樹液で我慢しよう。木の皮を少しだけ削ぐことにした。


 ちろろろろ、ぽぴぱぱぴぽぱ……

 ふぅ、樹液もたまにはいいな。


 ちぴちぴちゃぱちゃぱ……

 こうして樹液を啜っていると思い出すな。

 俺が行き場のない感情を文字にぶつけるようになったきっかけ──遠い昔に喪った、初恋ってやつをさ。


   * * * * * * *


 中学生の頃、俺の友達と呼べるやつは(りん)しかいなかった。時々喋る犬を飼っていた凜は、よくその犬──マルモッコリを見せびらかすついでに俺に構ってくれたりしていた。そのときにふたつみっつと世間話をして、いつしか趣味を共有したり他のやつには話してないという秘密をいくつか聞いたりして。

 ありきたりな話だが、俺はそんな風に心を許してくれる凜にいつしか惚れていた。凜もなんだか満更ではなさそうに見えて、それで俺はなんだか、自分が世界で最強になったような気分でいた。


 それを打ち砕かれたのが中学最後の夏、花火大会の日。


 その日、俺と凜は待ち合わせをしていた。

 だが、いつまで経っても凜は来なかったんだ。公衆電話を使って凜の家にかけてみても、もう凜は出たはずだと言われるのみ。今のようにGPSで捜したりもできないから、ただ待つことしかできなかった。


 凜が見つかったのはその数日後。

 近くの山林に乗り捨てられていた車のなかで、口にするのもおぞましい状態で殺されていたのを、たまたまマリファナを吸うために集まった大学生グループが見つけたそうだ。

 犯人は車の持ち主である中年男で、いかがわしい目的で凜を車に連れ込んで乱暴した後に、『コウチコウチとうるさいから殺した』と言ったらしいと、誰かから聞いた。


 それからの俺は、もう何かから逃げるように文字に打ち込んだんだ。

 元々凜と出会う前から文章を書く趣味はあったのだが、凜がいなくなってからは、他のことをしていると凜のことが記憶にちらついて仕方なくて、ただ文章を書くしかなくなっていた。

 そして気付けば俺は、小説を書きながら小学生の唾を集めるくらいしかやることのない中年男へと変貌していた。心のどこかを、あの夏の日々に置き去りにして。


「凜にも見せてやりたかったな……」

 俺が書く小説の世界は案外綺麗だったらしいことも、たとえば本当に小説の世界ならばこの『古代の森』には妖精が住んでいることも、けっこう夢見がちなメルヘン趣味をしていた凜は、知らないんだ。


「妖精とかファンタジーとか、そういや君から教わったんだったな」

 思い出すだけで胸が苦しくなるから、なるべく凜の面影からは逃げてきたつもりだった。だが、実際にはそんなこと、ずっとできてなかったんだな。


 ああ、なんてことだ。

 そんなことを思ったら、無性に。

 猛烈に。痛烈に。切実に。


「──会いたい」

 声に出してしまえば、もうその気持ちは止めようがなくて。

 そんな有り様だからだろうか。


「おや、こんなところに涙に暮れる旅人あり。いったいどうしたというんだい?」

「────、」


 この妖精自体は、『Sacred Destruction~聖なる破戒者達~』の主人公が終盤で出会う予定のある、俺の構想には存在するキャラクターだった。

 だが、まさか。


「──凜?」

 その姿が凜にそっくりだというのは、俺の想像にはなかった。

 前書きに引き続き、遊月です。今回もお付き合いいただきありがとうございます! お楽しみいただけていましたら幸いです♪


 前回の後書きで、私は作品のなかでそこそこの頻度で性犯罪のシーンを書きはするものの現実で性犯罪の話を聞くとけっこう辛くなるんですよねという話をしたような記憶があるのですが、最近は創作のなかで読んだときも場合によっては『うぅっ、やめて……やめてあげて……!』と思うことも増えてきました。もちろん読んだときに感じるその『やめてあげて!』という苦しい気持ちこそがあの手のお話の醍醐味ではあるのですが、そうですね、やはり年々ハッピーなお話を望む気持ちが強くなっているように感じますね。

 一説によると、人は好景気のときにはバッドエンドを、不況のときにはハッピーエンドを望むようになるという話があるらしく……まさかそっちか!?なんて思わなくもないのですが(笑) いや、ここは素直に作者自身がハッピーエンド寄りのオタクになってきたのだと思うことにしましょう。


※ ラブコメを摂取しているときは昔からいわゆる「てぇてぇ」ものが好きで、普通に主人公カップルの動向にやきもきしたり「ようやった!」と言ったりするオタクでした。出歯亀趣味のオタクなのかな?


 ラブコメか……最近「コメ」のある恋愛ものにあまり触れてないですね。前々から追いかけている成人向けの恋愛もの(コメのコの字もない)は新刊を楽しみにしたり、新刊のラフが作者様のSNSに上がったときには狂喜乱舞して、(なるべく人の目に触れても大丈夫そうな部分は)タイムラインに放流したりしているのですが、コメが……ラブコメの「コメ」は、恐らくSNSで連載されているショート漫画シリーズくらいしか摂取できていない!!!

 ラブコメ……ラブコメ……摂取量が少ないと、人はラブコメゾンビになると言われています。気を付けましょう。あと余談ですが、SNSで「うはぁ尊い!」とニマニマして読んでいた漫画シリーズに成人向けシーンが存在するのを何かで知ったりすると『お、おぅ』と一瞬気圧されるあの現象は何なのでしょうね、感情に名前をつけようか──とかつて交流のあったWeb字書きさんの作品タイトルみたいなことを呟いてしまいたくなります。


 閑話休題。

 前後編での公開を予定していましたが、後編のつもりで書いていたお話が予想外にボリュームアップしたため全3話での公開にさせていただきたいと思います。さすがに次回で終わる……はず!?(全3話+エピローグとかいう恐ろしい構成も頭に浮かびつつあることは伏せておきます)


 また次回お会いしましょう!

 ではではっ!

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