太古の森へ
皆様こんにちはこんばんは、遊月奈喩多と申す者でございます! このお話は、SNS上で何やら面白そうなタグを見つけたので便乗させていただいたものでございます。
SNS文芸部ですか……よいものですね。
ということで、恐らく前後編での公開となりますが、お楽しみくださいませ♪
『叫ぶ俺の目の前で韮澤は笑いながら、泣き叫んで助けを求める娘の胎内に__ 』
………………。
「うぅ~ん、違うなぁ~」
俺、佐村浩治! こっちは黒猫のタカシ! 今、俺は数少ない休日を利用して小説を書いているところだ。もちろんプロの作家とかではなく、普段は全寮制女子校、その初等部の用務員をしている。無垢な笑顔で挨拶を返してくれる子もいれば、典型的な中年体型を嫌って唾を吐きかけてくる子もいる。体液なんて極上のご褒美なのに、可愛い子たちだ。
今、俺は小説に行き詰まっていた。今の流行りに乗って、かつて追放した派遣社員に愛娘をめちゃくちゃにされる大神官の物語を書いていたのだが、対象年齢の制約にかからない範囲でいかに娘の惨状を伝えるかというところに苦心していた。こういうとき、倫理観というのは枷になるよな、まったく!
パソコンのディスプレイから目を離して天を仰ぎ、もう今日で何本目かわからないエナドリの缶に手を伸ばす。……ぷはぁ、心臓が強く跳ねると生きてるって感じするなぁ。
「最高だなぁ……」
ここで、吐きかけられた唾を貯めておいたエキスを少量混ぜて……と。くぅぅ~~キク! 最高にキマるぜ、オイ! エナドリと飲む小学生の唾(3日くらい熟成させたやつ)、気持ちよすぎだろ!
「地球に生まれて! よかったぁ~~~~!!!」
涎とエナドリキメる~♪
それだけが俺のAll my treasures♪
ふぅ、漲ってきた!
俺は家を飛び出し、近所の公園へと走っていく。そして迷うことなく女子トイレに忍び込んだときだった。
バタン!
バタン!
トイレ~には~♪
個室のドアを順番に開けながら、調子外れの声で歌う声が聞こえてきた。
それは~それは綺麗な~♪
俺が潜伏しているのは奥から2番目の個室。クソッ、ちょっと芳醇な空気を堪能しようと思っただけだったのに! なんでそんな怪異ものみたいな追い詰められ方をしなけりゃ、
「女神様が~いる~んやで~♪」
バァァァァン!!!!
凄まじい轟音と共に鍵をかけていたドアが粉々に砕かれた!? 俺が知ってるのと違う、何もかも!!
「きゃぁぁぁ!?」
「うわぁぁなんかおっさんがいるぅ!?」
思わず衣を裂くような悲鳴を上げた俺を見て驚いているのは、推定9歳くらいの少女。しかし一般的な少女と違うのは、そいつは恐らく素手でトイレのドアを鍵ごと粉砕できていること。そして、電気がないため昼間でも薄暗いトイレの中にあって、何故か淡く光って見えること。あとよく見ると数センチほど浮いている──称える歌でも捧げるべきか?
「苦しゅうないですよ、人間。私はあなたみたいな人のためにいます」
「キェェアアァァ! シャベッタァァァ!!」
「さっきから歌って喋っとるやろがい! こほん、そんなことよりですね」
自称トイレの女神は軽く咳払いすると、西洋ファンタジーの世界によく出てくるような白いローブの裾をたくし上げて、恭しい礼をした後。
「私の名前はノノ・カタ。喜びなさい、佐村浩治。貴方はこれから自分の小説の世界へと飛びます」
「え、トイレの女神様ってそういう感じなの?」
「トイレの女神様だからってトイレにまつわる能力を持ってるとか決めつけてません? それってあなたの感想ですよね?」
「やめろやめろ、お里が知れるぞ」
「キィー! 出身地差別! 不適切用語ぉー!」
「さっきまで神様っぽかったのになぁ……」
空中で地団駄踏む姿はなんともシュールではあるが、なんというか、神様というものに対するイメージが著しく下がった瞬間だった。
「ていうか小説の世界っていうけどさ、もうそれってどこにも存在しないじゃないか。飛べるもんなの?」
「小説の世界は、……ありまぁす!」
「そんな理論上の細胞みたいに」
「考えてもみてくださいよ。そもそも現実と仮想に何の違いがあるっていうんですか? この世界だって、佐村浩治を含めた約100億の人間が『ある』と信じた結果実在することを前提に構成されている世界に過ぎないんですよ?」
「なるほど?」
「そして佐村浩治、あなたの書く物語にしても、まずはあなたの頭の中にはその世界が存在していますよね」
「うん、まぁ」
「同時に、その物語を読んだ人々の頭の中にも、いわばもうひとつの世界としてあなたの小説の世界は存在しているんですよ」
「さいでっか」
「むぅ、真面目に聞いてくれないと粛清しますよ」
「急に怖いな! 聞いてるって、わりと面白い話だなと思いながら聞いてるよ! とりあえずその光る槍しまってしまって!」
「そうですか? ……まぁ、話はこれでおしまいなんですけどね」
「え?」
「だって、あるものはある、で終わりですもん。それ以外に言いようがないじゃないですか。つまりですね……まずは行ってみましょうか♪」
「はい?」
「破ッ!!」
「あべし!!!」
心臓が……潰、れ…………ぐふっ!!
ブラックアウト。
目が覚めると、俺が創った世界『ティンゲルギニア』の、『古代の森』に倒れていた。
前書きに引き続き、遊月です。本作もお付き合いいただきありがとうございます! お楽しみいただけましたら幸いです♪
いやぁ……人に歴史ありとは言いますが、痛ましい歴史というのは胸がキュッとなるものですね。いえいえ、別に私の身近で何か起きたというものでも、関わりのある方の過去を知ってしまったというのでもないのですが、インターネットの海で漂流中に見つけて『え、ちょっとやだ、何してるの……何してるの!?』と、言い方を選ばず言えば軽く引くようなことをされていた方の、別の方とのコラボ枠動画みたいなものがおすすめで流れてきて、そこでぶっちゃけておられた内容が……いやぁ、ないはずの器官がキュッと痛くなってしまいました。なんでも想像してしまうのも考えものですねぇ……。
私自身はそれなりに平和に生きてきたつもりでしたが、まぁ本当にねぇ、いろいろなことがあるものなのだなぁとね。思ってしまったわけですし、同時に私の身の回りがわりと平和なのも当たり前のことではなく幸せなことなのだなと噛み締めて生きていきたいですね。深い関わりのあるわけではない方の半生に無責任に同情するよりは、よっぽど実りのある考え方なのではないかなと思います(かつてそれで身を滅ぼしかけたので、自戒自戒なのです)。
閑話休題。
自分の作品内に転移する……創作を志す者が一度は考える妄想ランキングの、恐らくベスト50には入っているだろうシチュエーション。かくいう作者も少年時代にはモブキャラとして自身を出演させたりしていたものでした。
そういう風に、少年少女の時代に一度は夢想して、やがて訣別に至るであろうこのシチュエーションを、果たして物語として上手く書けるものか。さぁどうかなとも思いつつ、あれこれと考える前に書いてみるぞ!と一念発起してみた次第です。
後編では果たしてどんな物語になっていくのか……見守っていただければ幸いです!
また次回お会いしましょう!
ではではっ!!