036『学院序列』
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いつもありがとうございます!
「教えて差し上げましょう! 学院序列とはなにか!」
ホームルームが終わり。
僕は、前の席に座っているクラスメイトに学院序列を教わることにした。
ただ……なんというか、癖がすごいというか。
話しかけて、返ってきた第一声がこれなのだからすさまじい。
目の前で自信満々に眼鏡をきらめかせる少年を見て、思わず苦笑い。
「学院序列とは、一年生から三年生まで、全校生徒が争い、競い合い! その結果をもとに算出される学院内のランキングのことを指します!」
「へ、へぇ……」
「しかし! この序列は個人のものではありません! 最大で五人からなるパーティを組み、そのパーティごとにランキングが決められるとのこと! というわけでシュメル氏とお見受けしますが、私とパーティを組む気は――」
「あっ、ごめん。それはちょっと」
咄嗟のことで、思わず飛び出た本音の拒否。
メガネの少年は、がっくりと肩を落として落ち込んだ。
「そ、そうですよね……。私のようながりがりでひょろっとしたメガネ……」
「あっ、ご、ごめん!」
あまりにも癖がすごいので、つい敬遠してしまった。
まだ魔法も、というか名前すら聞いていないっていうのに……。
「お、遅くなってごめんだけど、僕はシュメル。君は……?」
「私の名前は『メガネ・レコード』と申します。しがない商家の息子でして……」
……め、メガネ君、か。
その、なんだ。分かりやすくて覚えやすい名前だな。
それにしても、商家の息子、か。
ハート男爵家も貴族とはいえ平民に片脚突っ込んでる身分だし。
下手に上級貴族じゃなくてほっとした。
「よろしく、メガネ君。パーティはまだしも……何かあったら協力するよ」
「おお! それでしたら、一緒に部活動などいかがでしょう!」
部活動……か。
なるほど、そういう楽しみ方もあるのか。
そうだよな、俗に言う学園編ってやつだもんな。
いままでダンジョンばっかりに気を取られていたけれど、そういうのもあるんだよな。
「そうだな……部活動ってのも楽しそうだけど、まずは学院序列が優先かな」
部活動ってのも楽しそう。
でも、まずはダンジョンじゃね?
そんなオタク精神が、他所を向きはじめた僕の興味を押さえつける。
「そうですな。では、部活動のお話はまた今度として、まずは序列戦について説明いたしましょう」
☆☆☆
【豆知識】
〇学院序列、ならびに序列戦について。
学院序列とは、当学院における全校生徒の【実力評価ランキング】のことである。
入学後、各生徒は最低4名から最大で5名に連なる『パーティ』を結成。
それぞれのパーティには学院序列と呼ばれる『順位』がつけられる。
また、それらの『順位』は他のパーティへと『序列戦』を挑むことによって変動する。
より上位のパーティへと挑めば、変動は大きく。
より下位のパーティへと挑めば、変動は小さい。
当然、勝った場合も負けた場合も、である。
そのため、順位の入れ替わりは非常に頻繁で、激しく。
だからこそ、上位十パーティに名を連ねる面々は、特別に優秀な生徒ばかりだ。
上位十パーティは、通称『ニアーズ』と呼ばれる。
それは、もっとも【勇者パーティに近しい存在】としての意味があるそうだ。
当然そう呼ばれるだけあり、他の生徒とは隔絶した力を誇り。
それぞれのパーティリーダーともなると、その力量はかるく教師陣をも超える。
そして、一年生がダンジョンへと入場したい場合は、この『ニアーズ』に名を連ねる必要がある。
ただし、パーティは同じ学年の者としか組むことが出来ないため、現時点で『ニアーズ』であるパーティに頼み込み、その一員として入れてもらうことは不可能。
そのため、一年生の中から有望な生徒を集め、彼らを率いて、正々堂々と上級生たちを薙ぎ払ってゆく必要がある。
また、未だかつて一年生においてニアーズまでたどり着いた前例は無い。
☆☆☆
「と、言ったところでしょうか!」
一通りを聞いて、最後の一言がやはり頭に残った。
「一年生で、前例はない……か」
「そのようですね! 歴代最強と名高い第一王女殿下でさえ、一年生のニアーズ入りは果たせなかったと聞きます。シルバー教諭はああいっていましたが……実質、この例外措置は【あってないようなもの】だと認識していますよ、私は」
第一王女殿下……か。
クラリス殿下のお姉さまだな。
王位継承権、第二位。
あの第一王子がへますれば、次の国王になる人物だ。
会ったことは無いが、うわさには聞いているよ。
本当に、強い人だと。
そんな人でもできなかった、無理難題。
そう考えたら、知らず笑みが浮かんでいた。
「……前代未聞の偉業に、前人未踏のダンジョンか」
「フフフ……やる気満々と言ったご様子ですな!」
そうだね。
ニアーズ入りするためには、この学院で多くを学んできた先輩方を片っ端から倒していかなきゃならない。きっと、その過程では僕が知らないモノが見れるだろうし、なにより、学びになるはずだ。
それこそ、第一王女殿下とかな。
ぜひとも、相手願いたい。
――とはいえ、だ。
勇者パーティが攻略できなかったダンジョン。
その最奥まで攻略し、恩恵を得る、と。
その当初の目的を思えば……なんともはや。
上級生との戦いと、ダンジョンと。
どっちに興味があるかと聞かれれば圧倒的に後者。
どちらがより難しいかと聞かれれば、それも後者。
ならば、こちらの『前代未聞』は『前人未到』を打ち立てる前の準備運動として動いてしまおう。
申し訳ないが、立ち止まってる暇はないからね。
思う存分、学び、吸収し、糧とさせてもらう。
全ては、ダンジョンを完全攻略するために。
「シュメル氏、前代未聞を成すには、まずは最強のパーティを組まねばなりませんぞ!」
「そうだね。最低でもあと三人……いや、あと一人か」
一年生で最強のメンバーを思い浮かべる。
すると、そのうち二枠は考える間もなく埋まってしまった。
クラリス・クローズ。
リオ・カーティス。
間違いなく、あの二人だ。
ただ、殿下の方はおそらく何も言わずとも大丈夫だろう。
だってほら、さっきから廊下の外に待機してるし。
なんだったら、目を血走らせて扉の陰から覗いてきてるし。
メガネ君も尋常ならざる気配に気づいたのか、ちょっと冷や汗流し気味だ。
「えっと……シュメル氏? 先ほどから嫌な視線を感じるのですが……」
「ノーコメントで」
そして、問題はリオの方だ。
このクラスには在籍していないようだし、他のクラスを探すほかないが……。
なんてったって、主席入学者だ。あれほどの実力があるのだし、もしかしたら僕が声をかける間もなくパーティを組んでしまっているかもしれない。
そうなったら少し困るが……まあ、今は居ない者より手の届く範囲から動いていこうか。
「ん、んっ……あー、やっぱりまずはクラリス殿下――」
「お呼ばれしましたクラリス殿下です!!!」
名前を挙げた瞬間、待ってましたとばかりに殿下が教室内に入ってくる。
彼女は満面の笑顔で僕の隣の席に腰を下ろす。
しかし、突然の王女殿下君臨は、周囲に大きな衝撃を与えていた。
大声こそ出すものはいないものの、皆が大なり小なり驚きから帰ってこられていない。メガネ君に至っては……きらりと光る眼鏡の向こう側で、しっかりと白目を剥いていた。
「……はっ!? い、今、クラリス殿下が大声で自己紹介しながらやってくる幻覚が……」
「メガネ君、現実だよ現実」
「げ、げんじつ……? ひ、ひいいっ!?」
彼は意識を取り戻したようだが、だからといって現実を受け入れられていない様子。
そうだよな……慣れちゃってるけど、王女殿下だもんな。
王位継承権第四位だもんな。
権力的には、上から数えて十本の指に入るお方だもんな。
ちょっとでもヘマやらかしたら、その時点で首を切られてもおかしくない相手だ。
ただなぁ……クラリス殿下だしなぁ。
今更緊張とか、ねぇ?
「ごめんねメガネ君。ちょっと殿下って、こういう感じだからさ」
「し、シュメル氏……? で、殿下相手に、そういう言葉遣いは……」
控えめに、何言ってんのお前、と注意喚起してくれるメガネ君。
しかし、僕より先に殿下が口を開いてしまった。
「ご安心ください、シュメル様は何をしても許されるのです」
「……メガネ君。分かってくれるかい?」
「いや、あの……その……ぇっ?」
完全に思考停止してしまったメガネ君。
哀れ……そして申し訳ない。
あとで、なにかお詫びでも入れておこう。
「ということで……」
「お話は最初から全て聞いておりました! あと二人パーティメンバーを探すのですね!」
「ええ。まずはご参加ありがとうございます」
さすがは殿下。
既に僕のパーティメンバーになってたや。
誘う前から確定事項と言う、想像の上を行くスピード感だ。
彼女は満足げに笑いつつ、僕と同じ構想を語った。
「ひと枠は、可能ならリオ・カーティスが望ましいですね。私の属するB組にも彼の姿はございませんでしたので、おそらくはそれ以外の組に居るものだと思いますが……」
「あまりにも有望株だからなぁ……。他のパーティに誘われてないことを願いましょう」
十中八九、探し出せた時点で手遅れだとは思うけど……。
まあ、仲間にできたならラッキー、程度に考えておこう。
問題は、もう一人を誰にするか、って話だけど。
殿下をちらりと確認する。
普段ならじっと僕を見つめている彼女が、珍しく他所へと意識を向けている。
視線の先は、クラスの窓側最後尾。
俗に『主人公席』と呼ばれる場所だ。
「殿下、どう思います? 僕としては誘う気満々なのですが」
「……いえ、すいません。改めて目の当たりにすると、驚いてしまいまして」
彼女は深呼吸して、心を落ち着かせた様子。
しかし、その視線の鋭さは変わらずだ。
「生まれて初めてです。シュメル様より魔力の多い人間なんて」
彼女も、フォルスからは魔力による気配察知を教えられている。
そのため、僕と同様に相手の魔力量はある程度は把握できるのだろう。
……なら、驚いたことだろうな。
十分に人類最高峰だと誇っていたはずの僕の魔力量。
それが、足元にも及ばないような魔力の『海』を宿した人間がいるなんて。
「……賛成です。私では、勝てる未来が見えませんので」
フォルスの指導を受けた彼女の、敗北宣言。
それに対して、僕も苦笑し頷いた。
「奇遇ですね。僕も全くの同意見です」
――勝てる気がしない。
なんてったって、魔力の海だ。
これを真正面からぶつけられたら……足掻きようがない。
確実に殺される。そう判断できるだけの魔力の塊がそこにはあった。
僕は席を立ちあがり、その【少女】の下へと向かう。
少女はクラリス殿下の登場に固まっていた様子だが。
やがて、僕たちが近づいてくるのを見て顔色を青くしている。
「えっ、あ、……えっ!? ちょ、あ、あの……」
「はじめまして。早速だが一つお願いがあるんですが」
その少女に対して。
僕は、背中に冷や汗を流しつつ対話に臨む。
「僕たちとパーティを組んでくれませんか、ルナさん」
平民、ルナ。
彼女は、人生の終わりだと言わんばかりに目を曇らせた。
次回【ルナ】
平民、ルナ。
どこにでもいるような一般人。
一から百まで平凡で。
戦闘とは無縁の生活を送ってきた、ただの少女。
にもかかわらず、彼女はたった一つの異質に愛され、恵まれた。




