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異世界転生、ちょっと足りない  作者: 藍澤 建
第二章【その芽は未だ青くとも】
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035『入学』

 合格発表から、気づけば一週間。


 今日は学院の入学式。

 白い制服に身を包み講堂に集まる。

 周囲には、同じ制服を着た新入生たちの姿がある。

 目測だが、100人やそこらといった程度だろうか?

 受験者が2000人近くいたことを考えると、少し引くほどの狭き門。

 そこを潜り抜けてきたのだから……この場に集まっているのはひとかどの人物だけだろう。


 周囲を見渡すと、何人か特徴的な生徒が目についた。

 堂々と胸を張り、自信に満ち溢れる少年。

 猫背で暗い雰囲気を漂わせ、この世の終わりだとばかりに青ざめる少女。

 一端の戦士として、既に体が出来つつある少年。

 入学初日から制服を傷だらけにしている威圧感のある少年。


 神の目を持たない僕にとって、この場で得られる情報は極めて少ない。

 この目で見て、相手の戦士としての力量を測るか。

 魔力を波状にして飛ばし、相手の体内魔力を測るか。

 その程度しかできないけれど……それでも、目を見張る才覚もある。


「……すごいな」


 思わず漏れた言葉に、じろりと周囲から視線が向かう。

 ……そういえば、今は学園長先生の挨拶の真っ最中。

 しまったと口を抑えると、しばらく睨まれていたけれど、すぐに視線も霧散する。


 周囲の様子に安堵しつつも。

 僕は、先程目に付いた実力者二名へと視線を戻す。


 一人は、僕と同じ学園の新入生だ。

 この人は単純に、魔力量がべらぼうに多い。

 これは感覚だが……フォルスをして『自分以上』と語った僕の魔力量ですら、足元にも及ばぬレベル。

 おそらく、この人と同じだけの魔力量があれば、神の目なんてなくても【反転】が使えてしまうだろう。

 そう断言出来るほど、ぶっ壊れた魔力量だ。


 そして一人は……まぁ、学園長先生なんだけど。

 見た目は年齢不詳の幼女。

 と、たった一言で『ファンタジーしてるなぁ』と感じさせる設定だが、その実力は見事の一言。

 魔法使いの学園、その長として君臨する彼女だが……僕から見れば、戦士としても超一流だ。

 おそらく、僕では相手にならないレベル。

 これで魔法使いだと言うのだから手に負えない。


 ――氷魔の王、グレイス学園長。


 一流の戦士であり。

 超一流の魔法使いである彼女。

 ……オルドのもとでは学べなかった何かが、あるかもしれない。

 そう思い笑みを深めると……偶然か、グレイス学園長と目が合った気がした。


「それでは皆の衆。よく学び、よく育ち、遠慮なく我らを超えてゆけ。そのための環境――ダンジョンは、ワシら教師陣が責任をもって整えよう」


 ダンジョン。

 それは世界中に点在するとされる、宝眠る大迷宮。

 その中には魔物が棲み、多くの罠が探索者に立ち塞がる。

 その難易度は奥へと進むほど増してゆき、深層の踏破難易度はあの竜の庭を超える、との話だ。

 そして、この学院に眠る――通称『学院ダンジョン』。

 学園長率いる教師陣が適時魔物を間引きし、命に関わるトラップを排除し、中層までは完全に管理下に置いたダンジョンだと聞くが――。


『かの勇者パーティが踏破出来なかった』


 その伝説は有名だ。

 それは悪質な罠によるものなのか。

 あるいは、彼女らでも勝てない魔物がいたのか。

 はたまた、単純に時間不足だったのかもしれないけれど……少なくとも、僕はそのフレーズに興味を引かれた。


 ただ、それはきっかけでしかなくて。

 僕がこの学院に入った最大の理由は他にある。



「思う存分挑むがよい。一人でも、その最奥で【恩恵】を授けられることを祈っておる」


 

 その言葉に、浮かべていた笑みがさらに深くなる。

 彼女の告げた恩恵とは、ダンジョンの『踏破報酬』のことだ。

 なんでもダンジョンの最奥にはダンジョンコアと呼ばれる【核】を護る強大な魔物が存在し、その魔物を倒すことで、討伐者にはとある『恩恵』が与えられるという。

 まぁ、この『恩恵』はどこのダンジョンを踏破しても同じように与えられるらしいが……せっかくなら、難しい場所に挑戦したいよね、ということで。



『勇者パーティが出来なかったことに挑戦する』


『ダンジョンから恩恵を得て強くなる』



 このふたつが、僕がこの学院にきた主な目的だ。


 それに、せっかくの異世界転生だよ?

 一度くらいダンジョン探索者になって、色々と冒険してみたいでしょ。

 たとえ死んで生まれ変わっても。

 『面白そう』

 『楽しそう』

 そんな子供っぽい冒険心は変わらないもんさ。


「それでは以上を以て、入学式を閉会とする」


 学園長の宣言を受け、背筋を伸ばす。

 ……さて、この入学式が終われば、あと数時間で初日の行事は終了と聞いている。

 となれば、早速ダンジョンに行くしかないな。

 うん、楽しみだ!


 年相応に心躍らせ。

 初ダンジョンに夢と期待を膨らませていた。


 ――そんな僕へ、残酷な現実が告げられる。



「まぁ、しばらくはダンジョンにも入れないんじゃがな」




 ☆☆☆




「どういうことですか!」


 ダンジョンに入れない。

 学園長が言い放った衝撃的な事実。

 その詳細を聞かされたのは、その数十分後だった。


 ちなみに、『どういうことですか!』は僕のセリフではない。

 クラスメイトの、名前も知らない男子生徒が叫んだものだ。


「実は、ダンジョンにも入場資格がありましてね」


 場所は、1年A組のクラス内。

 僕が配属されたクラスには、僕を含め20人の新入生が集められていた。

 その中には、知り合いの姿はない。

 といっても、知り合いは殿下とリオだけなのだが。


 そして教壇に経つのは、メガネをかけた優男。

 二次試験の説明の時にも見た人だな。

 名を『シルバー』。

 このクラスを受け持つ担任教師らしい。


 ……らしい、のだが。

 僕の心境はそれどころではなく。

 席に座って腕を組み、いかにも平静そうな顔を頑張ってはいるものの。

 その下ではギリギリと歯を食いしばり、感情を押し殺すのに必死である。


「そんな……! 」

「今日から入れるって楽しみにしてたのに!」


 同級生の何人かが声をあげる。

 そうだ、言ってやれ!

 思う存分、心の中で後押しする。

 えっ、声に出して言わないのかって?

 ……いや、これでも男爵家長男ですし。

 文句や不満を喚いて父上の顔に泥を塗るのは嫌なので、心の中だけにしておきますとも。

 ただ、文句は言わないまでも、気になったことは容赦なく聞いてやるがな!


「その入場資格っていうのは、なんなんですか?」

「そうですね……まず前提からお話しましょう」


 先生は周囲を見渡し、少し笑って黒板に向き直る。


「これは大陸全土で共通のルールですが、ダンジョンに潜ることができるのは、冒険者、あるいは国が特例とした騎士や学者のみとされています」


 えっ、そうなの?

 思わずと周囲を見渡したところ、全員が全員「そりゃそうだろ」みたいな顔で頷いていた。

 なにその常識、知らないんですけど。


「ですが、ここからは知らない方も多いでしょう。冒険者としてダンジョンに入ることが許されるのは、あくまでもCランク冒険者以上である、と」


 再び周囲を見渡すと、今度は驚いている生徒が多かった。なるほど、これは常識ではないのか。

 顎に手を当て、ふと過去を思い出す。


 冒険者には、知り合いがいないでもない。

 数年前、武闘会で戦い、知り合った者たち。

 その中でもよく覚えているのは、初戦であたったジュゴルデート、準決勝であたったコフトの二名だ。

 二人とは、試合のあとも話す機会があった。

 いずれも、Aランク冒険者だと名乗っていた気がするが……ジュゴルデートはパーティとしてAランク、コフトはパーティを組まず、個人としてAランクだと言っていた。


 数年前の時点で、戦士として、彼らには勝っている。

 ならば、純粋な実力として今の僕はAランクか、狩人としてならそれ以上ではあるのだろうが……それでも、冒険者ギルドに登録している訳では無い。

 ならば、はいそうですか、とルールを無視して入場できるものでもないだろう。


「それだけダンジョンというものは危険なんですよ。ですから、実力も不透明で、経験も知識も浅く、実績もない。そんな新1年生をいきなりダンジョンへ潜らせるわけにはいかない。そういう取り決めです」


 取り決め。

 その言葉に思わず肩を落として、額に手を当てる。

 ……正直、聞けば聞くほど妥当な理由だな、というのが素直な感想。

 残念だし、ほんっとうに残念だし、無念だけど。

 僕がそのルールを破って、例外と認められてしまったら……と想像してみる。

 するとどうだろう。妙にプライドの高い子息子女たちが、我先にとルールを破ってダンジョンに突入。結果として多くの死亡事故勃発――と、そこら辺まで想像して背を震わせた。


 ……うん、無理だなこれは。

 素直に、一年間は学業に専念するほかないか。


「……調査不足、きっついな」


 思わずと口にして、ため息を漏らす。

 しかし、大きく息を吐いて、少し固まって。


「……ん?」


 ふと、拭いきれない()()()を感じとる。


「ということで、君たちには最初の一年間、しっかりと学び、経験と知識、実力をつけていただきます。そして、進学した時点でCランク冒険者と同等と見なし、そこからダンジョンも解禁となる手筈です」


 先生はそう言い切った。

 対し、同級生たちは全員が等しく()()()()()

 そう、僕のように準備不足な人間ばかりではないだろうに。ちゃんと調べて、準備して、努力を重ねて受験に臨み、合格を掴み取った同世代でも上澄みの秀才たち。

 そんな彼らが、誰一人としてそのルールを知らなかった……なんて、ことがあるのか?


 こんなルール、卒業生にでも聞けばすぐに分かるようなものだろうに――


「……って、まさか」

「シュメル君。君は頭の回転が早いようですね」


 僕の気づきを、先生は目敏く指摘する。

 周囲の視線が僕に集まる中、僕は思わず苦笑いする。


()()()、知らせてなかったルールですか」

「その通り。このルールは、同世代において上澄みである君たちから、ひと握りの『特別』を選別する最初の試練でもあります」


 教室を見渡し、彼は重ねて告げる。


「頭抜けた才能、強さを持つ者はいつの時代も存在します。そんな彼らを、新1年生だから、という括りで縛ってしまうのは……あまりにも、勿体ない」


 故に、と。

 彼は最初の試練を告げるのだった。




「君達には、【学院序列】で10位以内を目指してもらいます」




 それこそが、一年生でダンジョンに入る唯一の方法らしい。

 ……らしい、のだが。



「……学院序列?」



 新しく出てきた単語に、僕は首を傾げてしまった。

【豆知識】

〇グレイス学園長

永き時を生きる、鬼人族の戦士。

本人は殴る蹴るの戦闘方法を好み、実際そちらの方が強い。

だが、魔法使いとしてもこの時代ではトップクラス。

かつては最高位冒険者パーティ『時の歯車』の一員として名をはせた。

だが、その伝説はあまりに古く、知るものは数少ない。

そのため、一般的には『魔術古書館の最高戦力』『最強の魔法使い』として知られているが、本人はあまり納得していない様子である。


「ワシより強い奴なんぞ、そこらへんにいるじゃろうに。のう?」

「……それをなんで僕に言うんですかね」


余談だが。

1年A組担任の教員シルバー。

彼は脆弱の権化なので、作中ではぶっちぎりで一番弱い。

ただ、彼も見た目通りの年齢ではないらしく、グレイス学園長とは古くからの知り合いらしい。

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― 新着の感想 ―
学長にシルバー…作者同じとはいえここで絡んでくるとは思わなかった。 作品がとても好きだったからサプライズプレゼントと思おう。超嬉しい
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