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異世界転生、ちょっと足りない  作者: 藍澤 建
第二章【その芽は未だ青くとも】
35/36

034『合格通知』

追記)

主席と次席の判断基準ですが、

詳しいことはあとがきの【豆知識】欄で書いております。

 会議は踊る、されど進まず。

 その年の入学試験直後の職員会議。

 多くの教員たちが顔を突き合わせ、語るは主席と次席の比べ合い。

 だが、いつまで経っても話が進まない。

 なにせどちらの主張をする者も、間違ってはいなかったのだから。


「どう考えても、主席はシュメル・ハートだろう!」


 ある者が声高々に名を叫ぶ。

 シュメル・ハート。

 千年ぶりに観測された『反転』の使い手。

 霜の再来にして、剛腕の息子。

 そして、隻眼の弟子。

 地位、名声、そして実力。

 三拍子そろった、誰もが目を光らせる期待の新入生。


「学科試験の結果も見事の一言だが、なによりも二次試験の内容だ! 考えられるか、与えられた時間の半分以内で、森に放たれた千冊の魔導書をほぼすべて狩りつくしてしまうなど!」


 クラリス・クローズらの考えた通り、二次試験は前半で体力をいかに温存できるか。いかに焦らず冷静でいられるか。その一点を見極め、彼らの精神性を図る目的も大いにあった。

 実際、それがあの試験の正攻法。

 ――だというのに。


「単独で、試験のあり方すべてをぶち壊された! 後に残ったのは一点も獲得できなかった受験者たちによる泥仕合! あれでは見極めるも何もない! 偶然、まぐれで、たまたま、そういった輩が大勢、奇跡的に獲得したポイントを携えて合格圏内に入っているんだぞ!」


 彼がそこまで狙っていたかは定かではない。

 だが、たった一人の行動ですべてが壊されたのは明確だった。

 ――ゆえに、と教師は叫ぶ。


「あまりに規格外、私達の想像を超えている。ゆえに、()()()()()()()()!」


 そう、入学試験の合否は単純明快。

『いかに学園側から欲しいと思わせるか』

 それだけである。

 転生以降、ありとあらゆる方面から『欲しい』と願われていた彼にとって、今更学園側から『ソレ』を引き出すのは簡単なことだった。


 だが、そんな彼にとっての唯一の想定外。

 ……いや、幸い、と言い直すべきか。

 今回の入学試験において、そんな彼を『負かした』相手がいた。


「いえ、主席はリオ・カーティスこそ相応しいでしょう」


 リオ・カーティス。

 公爵家の落ちこぼれ。

 魔法を明かさず――いや、明かせられず。

 肉体的にも、魔力的にも、ありとあらゆる才能に恵まれず。

 学園側は生徒を預かる手前、彼の魔法も教えられてはいるが……。


『えっ、こんな魔法でシュメルに勝ったの? 逆に、どうやって……?』


 というのが、学園側の総意である。

 ゆえに、欲しい。


「シュメル・ハートは、すでにある程度完成されているとみるべきでしょう。それに対し、リオ・カーティスは未完成もいいところ。にもかかわらず、シュメル・ハートと真正面から戦い、勝利した。――この偉業、認めないわけにはいかないでしょう」


 その点は、誰もが認めるところだった。

 ありとあらゆる才能に恵まれず、落ちこぼれとして育った少年。

 そんな彼が戦いの最中で見せた、たぐいまれなる戦闘の『センス』。

 それは言うなれば【戦闘の才能】だ。

 傷を負い、痛みに呻き。

 それでも格上を相手に勝利を見据え続けた。

 その果てにおいてはじめて発揮された、彼の確かな【才覚】。

 おそらく本人すら自覚していなかった才能が、あの勝利を手繰り寄せたのだ。


「だが! 格としてはシュメルが上だ! 次に戦えば間違いなく奴が勝つ! そもそも、あれが戦場での戦いであれば! あるいはシュメルがポイントを奪われた後も、あきらめずに勝負を続行していれば! 間違いなく主席はシュメルだっただろうが!」


 その点も間違いない。

 だが、対する言い分もまた、正しいのだ。


「確かにシュメル・ハートは強いです。ですが此度は戦場ではなく、入学試験というルールが定まった上での戦い。そのルールの上に限って言えば、確かに、シュメル・ハートは敗北したのです」


 互いが互いに譲らず、そして再び会議は踊る。


 圧倒的な才能と、積み重ねられた無数の努力によって『己』を見せた少年と。

 一切の努力を経ず、ただ原石の煌めきをもってして『己』を魅せた少年と。

 いわば才覚と努力の結晶と、未だ手つかずの珠玉の原石だ。


 ――どちらも等しく、強烈に欲しい。


 そう感じたがゆえに、教師たちの意見は完全に二分していた。


 それら会議風景を眺め、学園長は深いため息を漏らす。

 学園長ですら、どちらも等しく欲しいのだ。

 そこに差などない。

 ただ、欲しい。それだけだというのに。

 それでも順位をつけなければならないのが、学園長としての責務でもある。



「皆の意見は承知した。であれば、主席は彼とする――」




 ☆☆☆




 あの後。

 リオに負けてポイントを全損してしまった僕は、そこら辺の受験者たちを狩ることで幾分かだけでもポイントを取り返すことに成功した。

 正直なところ、学科試験だけでもそれなりに好成績は収められるだろう……という感覚はあったが、安心はできないと言った程度。

 それに、学生相手に負けました、そのまま何とかギリギリで合格しました、では鍛えてくれた爺さんに顔向けできない。


 と、言うわけで。



 ☆☆☆



 受験者名:シュメル・ハート

 筆記試験

 歴史……100点

 数学……100点

 魔法学……67点

 記述……87点

 実技試験

 獲得ポイント……427点


 総評――合格(()()


 厳選な審査の結果、シュメル・ハート様の能力を高く評価し、入学試験の合格を決定いたしました。



 ☆☆☆



 試験より数日後。

 送られてきた合格発表を見て、ホッと一息。

 だが、僕の両脇から合格通知を覗き込んでいた両名……フォルスと爺さんは、次席という部分を見て顔を顰めている。


「えー、次席ぃ? 見る目ないんじゃないの?」

「ううむ……。なんやかんやで今回ばかりは一番を取ってくるもんじゃと思っとったんじゃがなぁ……」

「あはは、悪いね爺さん」


 そう言いつつも、次席という文字を見つめる。

 僕が安堵したのは、合格に対してではない。

 リオがちゃんと、首席で駆け抜けてくれたことに安堵したんだ。

 僕に勝ったとはいえ、あの時点で彼はもう疲労困憊。限界なんてとっくに超えていて、膝も震え始めていた。

 そんな状態で、千ポイント近くの獲得だ。

 他の奴らから見れば逃げない『はぐれメタル』みたいなもの。

 見逃すわけが無い。

 ……そう、見逃すわけが無いのだが。


「逃げ切ってくれたかな」


 あの後、戦闘が一度もなかったとは思わない。

 それでも僕が次席である以上……リオはあの後も必死こいてポイントを守りきったのだと判断する。

 ――まぁ、リオから千ポイントを横取りした奴がいて、そいつが首席になってる……とかなら話は別だ。

 だが、()()()()()()()()()()()()()()()()

 なんせ、学園は『欲しいと思わせた受験者』を合格とすると聞いている。

 にもかかわらず、疲労困憊のリオからただポイントを奪い取っただけの何者かを、僕や彼を差し置いて首席にするだなんて……そんなことはあって欲しくない。


「ま、何はともあれお祝いだね。さっき、上でクラリス殿下からも合格したって話があったし……」

「そっか。殿下も大丈夫だったんだね」


 と、噂をすれば何とやら。

 殿下が(なぜか)泊まっている上の階からドタドタと足音が。

 ついでに、侍女さんの悲鳴に近い『ちょ、殿下!?』という叫び声。そして数秒と立たず、部屋の扉が勢いよく開かれた。


「お呼びでしょうかシュメル様!」


 今日も元気いっぱいな、クラリス殿下だ。

 相変わらず、王族とは思えない行動力。

 そしてなぜ僕の言葉に反応したのか……。

 えっ、もしかして盗聴器とか仕掛けられてます?

 思わずブルっと身震いし、短く否定する。


「いや、特には」

「……はて? 呼ばれたような気がしたのですが」


 気がした、の割には正確過ぎやしないかな……。

 思わず苦笑するのと同時に、息を切らせた侍女さんが扉の向こうから姿を見せた。


「はぁっ、はぁ……っ、く、クラリス殿下! し、シュメル様のことになると猪突猛進するの、や、やめてくださいと、言っているはずですよ……!」

「そうですね……今回は私の気のせいだったようです。お騒がせして申し訳ございません、シュメル様」

「いえ、なんだか慣れましたので」


 と、そんなことを話していると、偶然か殿下の手に僕と同じ『合格通知書』が握られていることに気づく。

 殿下も僕の視線に気づいたのか、笑顔でこちらに駆け寄ってきた。


「まだまだシュメル様と比べると劣るかと思いますが、こちら、私の今回の通知書となります」


 そうして手渡してきた合格通知書。

 差し出されたまま内容を確認し、目を見張る。



 ☆☆☆



 受験者名:クラリス・クローズ

 筆記試験

 歴史……100点

 数学……100点

 魔法学……100点

 記述……98点

 実技試験

 獲得ポイント……306点


 総評――合格(三席)


 厳選な審査の結果、クラリス・クローズ様の能力を高く評価し、入学試験の合格を決定いたしました。



 ☆☆☆



「……流石ですね。筆記試験は完敗です」


 すごいな……。

 いくら勉強不足と言え、魔法学、普通に難しく感じたんだけど。それを、あっさりと満点とか。

 しかも、記述問題もほぼ満点。

 その上、実技試験の獲得点数も僕と大差はないと来た。

 だが、この点数差……。

 僕は少し申し訳なく思いつつ、通知書を殿下にお返しする。


「……申し訳ないです、変に連れ回したせいで、僕が次席になってしまって」


 実技試験は、ほぼ100点差。

 筆記試験も含めれば、もっと差は少ない。

 少なくとも、僕がリオの元まで彼女を連れていかず、別行動を取っていれば……あるいは、彼女なら覆せたかもしれない得点差だ。

 いや、彼女なら覆せたのだろう。

 それだけの技量と実力が彼女にはある。

 ……の、だけれど。


「謝罪は不要ですよシュメル様! なにせ、シュメル様が私の元へ来なくとも、おそらく私はシュメル様の方へと向かっていたでしょうから!」


 彼女の発言を受け、それもそうかと苦笑する。

 彼女も試験は真面目に受けていたはず。

 ただ……彼女の最優先は『シュメル・ハートの勇姿を一番近くで見守ること』なんだよな、そういえば。

 学科試験でこれだけ高得点を取っていれば、そりゃ学業より趣味に走ったってお釣りが来るだろう。

 現に、走った結果で第三席だしね。


「なので、申し訳なく思う必要はございません! それに、どさくさに紛れてシュメル様の匂いを嗅げたので、私としては大満足ですありがとうございました!」

「……殿下?」

「おっと失言でした」


 ギロリと侍女に睨まれ口を抑える殿下。

 だが、すぐに気を取り直した様子で笑顔を見せた。


「それに、合格基準は『どれだけ欲しいと思わせたか』です。首席と次席は、間違いなくシュメル様とリオ・カーティスでしょう。そうでなくては納得できません」

「ま、だろうね。話を聞く限り」


 殿下の話をフォルスが肯定する。


「初手でほぼ全ての魔導書を狩ったシュメルと、ルールの中でしっかりと君に勝ったリオとやら。そりゃ、まず一番と二番はこの二人だとも」

「……うん。そういうことにしておくよ」


 たぶん、殿下も意見を曲げないだろうし。

 なんやかんや言っても、結果は結果だ。

 次席も三席も結果は変わらない。

 なら、結果を踏まえて努力して。もっと強くなって。

 次は、申し訳なさを思う余地もない成果を出せばいい。


「ふむ。話が流れていたが、改めてお祝いじゃな」

「そうですね! シュメル様の次席のお祝い――」

「と、殿下の三席お祝いも含めて、ですよ」

「そうだねぇ。せっかくなら二人まとめてお祝いしちゃおうか」


 フォルスがそう締めて。

 侍女さんが、待ってましたと笑顔を見せる。


「こんなこともあろうかと、準備は進めております。間もなく準備も終わるかと思いますので、皆様食堂へとお集まり頂けますか?」

「流石なのです! ではシュメル様、参りましょう!」


 僕は殿下に手を引かれ、食堂へと歩き出す。




 ☆☆☆




 ……ただ、その時の僕はまだ想像もしていなかった。


 僕を負かした相手、リオ・カーティス。

 学園での彼との再会が……あんなことになるなんて。



【豆知識】

〇主席と次席の判断基準。

入学試験の合格基準は『どれだけほしいと思わせたか』。

ただ、その基準でいうと「二人とも等しくほしい」という結論になりました。

そのため、主席と自席の差は単純に合計獲得点数の比較になります。

シュメルは学科試験(100+100+67+87)+実技試験(427)で、合計781点

対するリオは、実技試験で921ポイント所持のシュメルに勝利しており、自分のポイントも含め、最低でも922点以上が確定しております。それに学科試験の内容も加味すると、間違いなくシュメル以上の獲得点数となります。

そのため学園長は、合計獲得点数の比較でのみ主席と次席を決定しています。


「次席は、自分で自分の首を絞めたのぉ。結果からみれば、の話じゃが」


とは、学園長の感想。

シュメルは、森の中であまりにも優秀すぎた。

他の受験者との実力差が、隔絶しすぎていた。

だからこその結果であり、仮に初期段階で6~700体程度しか狩れていなかったのなら、主席はシュメルになっていたかもしれない。



☆☆☆



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― 新着の感想 ―
接戦じゃーーー! 最後不穏な終わり方だったけど大丈夫かな? 残念ながら本人の優秀が仇になったのね これからぜひとも二人で切磋琢磨してほしい。見るのが楽しみ
リオって努力する才能がないなら筆記点数良くなさそうなのにシュメルと首席争いできるのは何故でしょうか? 筆記は足切り用で入学時の点数は二次試験の実技のみを反映するとかかな 既出だったらすみません
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