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異世界転生、ちょっと足りない  作者: 藍澤 建
第二章【その芽は未だ青くとも】
33/36

032『天才と非才』

シュメル・ハート。

ありとあらゆる才能に恵まれ。

ただ一つ、その目だけを得られなかった天才。


――そんな英雄の卵とは、正反対に生きてきた。

 リオ・カーティス。

 

 私は公爵家の長子として生まれ。

 そして、出来損ないとして育った。


 私は生まれながらに体が弱かった。

 生まれて間もなく、鳴き声をあげれなかった。

 物心つくより早く、幾度となく高熱に倒れた。

 二足で歩けるようになるまで、二年以上が必要で。

 三歳を迎えるより早く死ぬだろうと、医者からは通達を受けていたとか。

 ……まぁ、こうして生きているがな。


 私は生まれながらに魔力量が少なかった。

 ただ少ない、という話ではない。

 限りなく【皆無】に近い、()()()、なのだ。

 平民の赤子ですら、私より魔力量が多い。

 あまりにも魔力量が少ないため、身体強化などあってないようなもの。誤差と言って差し支えない。

 当然、満足に魔法など使えるはずもなく。

 私は生まれながらに、魔法使いとして欠陥していた。


 私もね。

 幼少期は足掻いていたのさ。

 自分がどれだけ恵まれていないのかも分からず。

 こんな自分を愛してくれた両親の期待に応えようと、子供ながらに頑張っていたと思う。


 けれど。

 三歳になって、洗礼の儀を受けて。


 ()()()()()を授かって。



『……神よ、そこまで私が嫌いか。憎いか』



 私の心は、ポッキリと折れた。


 その日以来、私は努力するのを辞めた。

 頑張ったところで、運命なんて変わらない。

 私の努力は身を結ばず。

 体も弱く。

 魔力も少なく。

 吐き捨てるような魔法を授かり。

 絶望に次ぐ絶望を前に、私は頑張ることをやめた。


 だって、頑張らなくとも。

 私には、この目があれば十分だったから。

 努力せず、胡座をかいて、ひたすら『目』に頼りきって生きてきた。

 それ以外に、頼れる【才】などなかったから。


 だから、なのかな。



 私には、お前が眩しくて仕方がない。



 黒い魔力をした異質の子。

 誰もが認める天賦の才を持ち。

 その上に、努力を重ねられた小さな英雄。



 私とは、根っから違う人種の男。



 ……あまり、認めたくは無いけれど。


 生まれて初めて。


 私は他人に、心の底から嫉妬している。




 ☆☆☆




 神の目。


 魔力を直接視認できる特異体質。

 完全先天性なものであり、後天的にはどう足掻いたところで得られるはずのない、生まれ持っての才覚。……僕が、得られなかったモノだ。


『稀とはいえ、時代に一つは必ず生まれる才覚だからね。敵にしろ味方にしろ、いつかシュメルも【神の目】を持つ相手と出会うことがあるだろう』


 そんな目を持つ白い魔女は、以前、奇跡的な確率を何故か断言した。


『だから、神の目を持つ私が、ちょっとしたお守り程度のアドバイスを贈ろう』


 お守り程度のアドバイス。

 ずいぶん頼りないなと、当時の僕も思っただろう。

 今も同じ思いだから間違いない。


『魔力を視認できる体質。故に魔力操作は完璧であり、それに伴って魔力も消費することは無い。ってことは教えたよね』

『あぁ。実質的な無限の魔力、ってやつだろ?』

『そ。神の目保有者に【魔力切れ】なんてのは、まず有り得ないと見ていいよ』


 その言葉を聞いて、顔を顰めたのを今でも覚えている。

 僕が血反吐を吐いて増やした魔力も。

 鍛えに鍛えた反転による肉体蘇生も。

 ただその目を持って生まれたという『先天性』に、継戦能力という面で遠く及ばない。


 僕の魔力や体力は、いずれ戦いの中で尽きるもの。

 対して神の目に、尽きる魔力は存在しない。


『君の場合は魔力も体力も多いし、それなりには噛み付いていけるだろうけど……』

『……勝算は薄いよね。有限と無限だ。そりゃ、長く戦えば戦うだけ不利になるさ』


 持久戦になればなるだけ、不利になる。

 相手の魔力量が多い、少ないという問題では無い。

 大前提として【減らない】のだから、無限なのだ。


『それに、前にも語っただろう? 神の目とは、魔法使いの天敵なのさ』

『……魔法を封じられる、ってやつか』


 修行を開始して間もないころ、僕はフォルスに『神の目』の恐ろしさを教えられた。

 神の目所有者相手には、魔法を、僕で言う『回復手段』を奪われる可能性がある。

 僕の戦士としての戦い方が『無限回復ゾンビアタック』なため、魔法使いとしても、戦士としても、未だ『神の目』は僕の天敵であり続けている。


『そう、だから改めて伝えておこう。君の反転が最強なのは、あくまで極めた後のこと』



 ――純粋な魔法使いとして、君はいまだ『神の目』の足元にも及ばない。



「……ほんと、羨ましい目だよ」



 リオ・カーティス。

 蒼い瞳の公子を前に、僕は歯噛みする。


「フォルス様の瞳の方が素敵だと思います!」

「そういう話じゃないんですよ殿下」


 殿下は元気いっぱいに僕を肯定してくれたけど、そういう話じゃないのよね。


 僕はその少年から、目を離せないでいる。


 魔力量は極めて少ない、と思う。

 僕の魔力による探知がそう告げている。

 この距離だ、それが誤認とは思えない。


 その上、肉体的にもさほど脅威とは思えない。

 一目で『鍛えられていない』と分かった。

 体幹は揺れ、全身が隙だらけだ。

 間違っても近接戦闘ができるような肉体では無い。


 以上、魔力面。肉体面。

 いずれをとっても、僕よりずっと劣る相手。


 それなのに、僕は動けないでいる。


 だって僕はよく知っている。

 その目を。

 その目を持つ人間の、強さを。静けさを。


 完璧に支配された()()()()を。


 僕は、よく知っている。


「先に謝罪しておこう。貴様には喧嘩を売るような真似をした。申し訳ない」


 素直な謝罪。

 されど、その目は真っ直ぐに僕を見つめていた。

 その目に灯った感情を見透かし、思わず笑った。

 奇遇だな、公子。

 きっと僕の目にも、似た感情が渦巻いているはずだよ。


「……いえ。私も貴方には興味が湧いてきましたので。呼んでくださったこと、心から感謝いたします」


 偶然ではあるけれど。

 運命だと思わずにはいられない。

 相対して、相手の才能を見透かしてしまって。

 ……否、見透かせる程度の才能しか見えなくて。

 だからこそ。

 僕は、その少年に強い興味を引かれている。


「シュメル・ハート。……貴様は魔力量に恵まれ、肉体に恵まれ、魔法に恵まれ、師に恵まれ。多くに恵まれ、多くを持って生まれた天才だ」


 リオ・カーティスは、僕をそう称し。


「対する私は、ありとあらゆるモノ全てに恵まれず、ただ、お前の持たない【目】だけ持って生まれた非才」


 彼自身を、そう評価した。


「全てに恵まれていながら、多くの努力を積み重ねた貴様と。何も恵まれず、故に努力を無用と切り捨てた私。……偶然と呼ぶには、あまりにも出来すぎた二人だと思ってな」


 才能の上に努力を重ねた僕と。

 非才の上に怠惰を重ねた彼と。

 ただ一つ『目』に恵まれなかった僕と。

 ただ一つ『目』だけに救われた彼と。


 ……聞けば聞くほど、正反対。

 笑っちゃうほど逆向きだ。


 けれどね。

 だからこそ、試したいんだ。



 僕が恵まれなかった『ひとつ』を持つリオ・カーティスを。


 彼が得られなかった『すべて』を持つシュメル・ハートを。



「殿下。個人的にこの人と戦ってみたくなりました。せっかく連れてきてなんですが、手出無用でお願いします」

「は、はい!」


 周囲には気配は無い。

 問題視していた狙撃者、リオ・カーティスも、狙いは僕だと今確信した。なら、殿下を過剰に守りながら戦う必要は無い。


 ……いや、そんな余裕もないのかな。


 才能もない。

 努力もしない。

 リオ・カーティスという人物が彼が語った通りなら、僕が負ける可能性は万が一つにもありえない。

 だが、そう確信が深まるほどに。


 かつての魔女の言葉が過ぎるのだ。



『万が一の奇跡を読み解けるのが、神の目なのさ』



 僕はを目を細め。

 リオは、僕の様子を見て満足気に笑う。


「貴様は、私を前にして油断してくれないのだな」

「油断できる要素、どっかにありましたっけ?」


 非才、怠慢。

 されど、神の目。

 あれだけの狙撃を見せられた直後だ。

 僕に『死』を感じさせた以上、油断なんて無い。


 小手調べなんて、無いよ。

 本気ではなくとも全開で。

 戦士として、お前を打ち砕く。


「ありがとう。貴様は良い奴だな、シュメル」


 キィン、と鋭い耳鳴り。死の気配。


 眼前へと斧を振るう。

 衝撃と共に不可視の弾丸が弾き飛ぶ。

 手に返った衝撃を噛み締め、僕も破顔する。


「ほら、強いじゃねぇか」


 贈るでもなく呟いて、僕は走り出す。

 彼我の距離は、ほんのわずか。

 一息で詰められる程度の短距離だ。

 彼の身体能力じゃ、間違っても対応できない。


 そう確信しての、最初の一歩は。

 されど、鋭い耳鳴りと共に中断を余儀なくされる。


「……っ!?」


 咄嗟に横方向へと身を投げる。

 花畑に転がると同時に、鋭い風切り音。

 前髪が大きく揺れ、衝撃に目を見張り。

 先程まで自分が立っていた場所を見て、背筋が凍る。


「斬撃……!?」


 僕の立っていた場所には、花畑に一筋の()()()()が残っている。


 リオ・カーティス。

 僕もその名は聞いたことがある。

 この国で一番有名な貴族の長子であり。

 ()()()()()()にしている珍しい人物。

 強い魔法なのか、弱い魔法なのか。

 戦えるものなのか、補助に特化したものなのか。

 彼は何ひとつとして公表していない。


 ……って言っても、さっきの狙撃があったからな。

 おそらく、魔力を弾丸として放つ魔法なのだろうと僕は仮定していた。

 パッと思いつくのは転生リセマラ時に嫌な思い出を残してくれた【魔弾】だが……アレはこの世界でも一、二を争うハズレ魔法だ。

 魔弾であれだけの精度と威力は難しい。

 そのため、おそらくリオの魔法は魔弾と同種、上位互換に当たる魔法なのだろう、と。


 そう、考えていたのに。


「……ッ」


 その仮定が、完全に崩れる。


 再びの死の気配。

 舞い散る花びらが、斬撃の形を薄らと映し出す。

 見間違いなんかじゃない。

 間違いなく、アレは斬撃だ。


 僕は城崩しで斬撃を相殺する。

 威力は、さっきの弾丸の方が上。

 アレと比べれば、手に返る衝撃は少し小さい。

 ……だが、直撃すれば死も有り得る。


「……面倒だな」


 あれだけの超遠距離狙撃から近距離の斬撃まで使える上、どっちも不可視とか……それどういう魔法だよ。

 不可視の斬撃なら武闘会で戦った記憶もあるが、リオの魔法はあの人とはまるで別種なのだと確信がある。

 必死になって記憶を漁るが、まるで見当もつかず。


「考え事か、余裕だな」


 はっと目を見開いた視線の先で、リオは腕を薙ぎ払う。

 それは到底僕には当たらぬような、間合いの外での行動。にも関わらず、僕の全身へと衝撃が抜けた。


「ぐ……!?」


 吹き飛ばされた先で着地し、理解を図る。

 リオの腕には当たってない。当たるはずもない。

 なのに衝撃もあったし、ダメージもあった。

 しかも、直撃面積もかなり大きい。

 まるで緑竜に真横から突撃されたみたいだ。

 今の打撃は死期察知が発動しない程度の弱い威力ではあったが……それでも、無視していいものでは無い。


「狙撃、斬撃……次は打撃か」


 いよいよ意味がわからなくなってきたな。

 個々としてなら有り得る能力。

 だが、それを複合して保有しているのが意味不明だ。

 何をどうすれば、そんな芸当が可能なのか。

 しかも、だ。


「……嫌になってくるな。またこの感覚か」


 かつて、幼少期にも味わった『魔力が使えない』感覚。


 あの時と比べればだいぶ弱いものだが、確かに、身体強化の効きが悪い。

 今の打撃が原因か? 

 たった一撃だが、それでも全力の七割程まで強化幅が減衰している。

 以前は、しばらく放置すればこの状態も回復したが……今回も同じかは分からない。


 魔法も不明。

 絶妙に死期察知も働かない。

 なのに受ければ身体強化が衰えていく。


 ――つくづく、天敵。


 いっそ笑えてくるくらいの苦戦っぷりだが。


「……でも良かった。退屈はしなさそうだ」


 歓喜と共に、僕は邪魔くさい思考を全部まとめて放棄する。


 記憶を遡って相手の魔法を探るのも、戦闘中にできる程度は限られる。

 これだけ探して見当たらないなら、多分無理だ。

 引っかかりすら覚えてない時点で、きっと僕は彼の魔法をそもそも知らない。

 僕には彼の魔法を探り当てられるだけの知識がない。


 だから、スッパリと諦めて。


「……はぁぁ」


 深く、息を吐いて。

 僕は、集中力をさらに一段階上へと押し上げる。


 分からないものは仕方ない。

 好奇心には、蓋をする。

 こっから先は、勝利のために思考を割り振ろう。


 リオの魔法がなにか、ではなく。

 どうすれば勝利まで持って行けるか。

 残り時間は……一時間もないよな。


 相手の手札にもよるけれど、時間との勝負だな。


 弾丸、斬撃、打撃。

 それだけとは言わせないし、考えない。


 必ず他にもあるだろう『何か』を探りつつ、出させつつ。

 その上で攻撃には当たることなく、対応した一手を叩き込み続ける。



「僕の攻略が先か、時間切れが先か」



 視線の先で。

 リオの頬に、一筋の汗が伝った。


相手は神の目。

苦戦は必至。

されど視点を変えてみれば、その光景は裏返る。


「……怪物が」


公子は、眼前の男を見据え吐き捨てる。

目の当たりにするのは異次元な強さ。

おおよそ同世代ではありえない。

そう断言できるほど、目の前の男は戦士として完成されていた。


こちらの決めに行った攻撃は掠りもせず。

逆に、相手の攻撃はどんなものでも一撃必殺。

噂にたがわぬ『竜の膂力』を持ってすれば、一瞬で擦り潰される。

魔力もたった一撃では封じきれず。

たとえ一撃が入ったとしても、すぐに直され歩みは止まらず。

どうあがいても止まらない狂戦士を前にしているようで。


相対したその瞬間から。

リオ・カーティスは、恐怖の中で戦っていた。




次回【怪物】



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リオいい人そうで安心(?)
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