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異世界転生、ちょっと足りない  作者: 藍澤 建
第二章【その芽は未だ青くとも】
32/36

031『蒼き瞳』

総合500p達成しました!

って書こうと思ってたら600P行ってました!

いつもありがとうございます!

 走る、走る。

 森の中を、城崩し片手に走り回る。


 常に周囲へと意識を向けて。

 魔導書の気配を感じとり。

 後方からの、他の受験者との距離を測り。


 最速、最短。

 それで、より確実に魔導書を狩れる道筋をひた走る。


 前方に、魔導書が一冊。

 パタパタと開閉しつつ、宙を飛んでいる。

 狙いを定め、跳躍。


「ほっ!」


 すれ違いざまに、城崩しを振るう。

 森の中で振るえるよう、短く、細く、軽く、片手斧のように形状を変えた城崩し。

 切れ味は元より変わりなく、一切の抵抗を許さず魔導書を両断する。


 またひとつ、右手の甲の数字が増えた。


「よし」


 試験開始より、一時間弱が経過した。

 既に森の過半は索敵を終え。

 同時に、殲滅も済んでいる。


 手の甲には『921』との数字。

 数十冊は後ろから迫ってきてる殿下に盗られたし、他にも優秀な受験者が何冊か狩っているはず。そう考えると、残っているのは本当に何冊か、と言った程度だろう。


 索敵にも、ついに魔導書が引っかからなくなる。

 五感による索敵と、フォルスから教わった魔力を波のように飛ばして使う索敵。両方を併用して探している以上、見逃しはないと思うんだが……。


「……ま、これだけ狩れれば十分か」


 僕はそう結論づけると、足を止めて息を吐く。

 できることなら全て狩り尽くしたかったが、そこは、僕から獲物を奪った実力者たちを褒めるべきだろう。

 弓無しとはいえ、森の中で僕から数十冊も獲物を奪ったクラリス殿下なんて、大手柄もいいところだ。

 いくら鉢合わせないよう動いたとはいえ、どう考えても護衛が要らないレベルだ。


「……とはいえ、この先は危ないかもな」


 魔導書は、もう無い。

 なら、後に待つのは受験者同士の争いだ。

 その中で、数十ポイントを保有する殿下はいい獲物として受験者の目には映るだろう。

 特に、彼女の顔を知らない者にとってはな。


「上位貴族たちより、むしろ、彼女を知らない下位貴族や平民たちから狙われそうだな」


 そもそも、常日頃から命を狙われている殿下だ。

 学院側としても、それを防ぐために監視を設けているんだろうが……備えるに越したことはない。

 僕も念の為の護衛として、彼女の傍に居るとしよう。


 そうと決まったら、殿下と合流するか。

 気配を探れば、走って数分のところに彼女の気配が感じられた。随分と近い場所まで来てたんだな、と感心すると同時に。


「……ん?」


 殿下のいる側とは、また別の方向。

 そちらから、小さな魔力反応を検知する。

 五感の索敵には、微弱すぎて引っかからない。

 ただ、魔力の波の方に、ほんの僅かに引っかかる。


 ……それは、小さな違和感だ。


 脅威と呼ぶには、あまりにも小さなゆらぎ。

 加えて、僕からも殿下からも数キロ離れた場所でのことだ。それほどの距離で瞬いた、小指の爪ほど小さな魔法の『起こり』。


 ――それが、驚愕に変わったのは直後のこと。



「……っ!?」



 キィンと、鋭い耳鳴り。

 背筋に『死の気配』が走り抜ける。


 こんな場所では、有り得るはずのない感覚。


 されど、感じてしまった以上は迷うことはない。


 目を見開き驚くと同時に。

 直感的に、頭を振った。


 鋭い風切り音と共に。

 僕の頬を()()()()()()()が切り裂く。


「狙撃か……!」


 指で血を拭う。

 その時点で傷は反転し、癒えていた。

 だが、怪我は怪我だ。

 この僕が、なんにも分からず手傷を負わされた。

 しかも、この距離で、一方的に、だ。


「……参ったな」


 少し考えて、結論づける。

 今のを弓で真似しろと言われたら、まず無理だ。

 距離や腕前の問題じゃない。

 大前提として、そもそも射線が通らないんだ。

 これだけの木々が密集した森の中を、数キロ先まで見通せる奇跡的な『射線』がなければ、狙撃の大前提が成り立たない。


 成り立たない、はずなんだけど。


「魔法か。……そんな魔法、存在したかな」


 それを、相手は平然とやってきた。

 僕の位置を正確に読み取り、その上でこの距離を射線を無視して平然と狙撃可能とする魔法。

 言語化すればチートもいい所だな。

 ……読書の一環で過去に発現した魔法は一通り目を通したはずだが、思い返してみても該当する魔法は見つけられない。


「ま、なんにせよ。こいつは本物ってことだな」


 手傷を負わされた。

 死の気配を感じてしまった。

 以上を踏まえて、意識を切り替える。

 学生相手、という前提から。

 一歩間違えれば殺されかねない敵、という前提へ。


 殺さぬように、手加減を念頭に起きつつも。

 この試験が始まって、初めて戦いに真剣味を持つ。


 しかし、思考とは裏腹に頬は吊り上がる。


 待ち望んでいた。

 そうでなくては。

 この学園に来る意味が、やっと見つけられそうだ。


 そういった歓喜が心を揺らすも、深呼吸して動き出す。


「……まずは、殿下の安全確保だな」


 僕は駆け出した。

 それと同時に遠方での気配に動きがあったが、あまりにも動きが鈍かった。

 身体能力は低いのか。

 そう判断しつつ、全力で森を駆けること数分。

 前方に、金髪の少女の姿が見えた。


「殿下、ご無事ですか?」

「シュメル様!」


 彼女の前で足を止める。

 僕の名を呼ぶ彼女の顔に驚きは無い。

 ……ま、そうだよな。

 彼女の師匠もまた、フォルス・トゥなのだ。

 殿下とて、魔力を使った気配探知くらいは習得済みだろう。僕の気配なんて途中から察していたはずだ。


「どうしましたか? なにやら焦ったご様子ですが……」

「つい先程、他の受験者から狙撃されまして。相手の素性が知れない今、まずは殿下の安全が優先かと思い、駆けつけました」


 言ってる側から、遠方より魔力の気配。

 僕は咄嗟に殿下の肩を抱き寄せ、城崩しで『死の気配』を撃ち抜いた。

 相も変わらず、何も見えず、何も感じない。

 ただ、直前の風切り音と共に、城崩しを握る左手に強烈な衝撃が走った。


「……っ、結構な威力ですね。大丈夫ですか、殿下」

「ふひっ、ひひひ……!」

「大丈夫みたいですね」


 咄嗟に抱き寄せてしまったけれど……。

 これ幸いとばかりに僕の胸に顔を埋めている殿下を見て、余裕だなこの人、と内心呟く。

 僕は彼女の肩を掴んで体を離すと、殿下は女の子がしてはいけない表情を浮かべていた。

 僕は見て見ぬフリをした。


「殿下、どうやら相手は遠距離攻撃が得意なようですし、まずは距離を詰めてみようかと思います。相手の正体も知りたいので……殿下も来ますか?」

「はい! お供いたします!」


 即答だった。

 ……まぁ、僕も殿下が側にいた方が守りやすいし。

 なにより、僕に今の狙撃は二度と通じない。

 不可視の長距離狙撃弾。

 確かに脅威だし、火力も高い。

 だが、反応できない速度じゃない。

 僕はただ、嫌な気配がする場所を叩き切るだけ。

 それで現に防げたんだ。

 次からも、完璧に対応できる。


「じゃ、行きますよ殿下」


 おんぶに抱っこするほど弱くないでしょ?

 言外にそう告げて、僕は森を走り出す。

 ちらりと背後を見れば、クラリス殿下は僕の速さについて来ていた。

 身体も鍛えているようだが、それ以上に身体強化の練度が非常に高い。僕も全力では無いが、彼女も多少の余裕は残している様子だ。


 うん、これなら安心だな。

 そう判断して、前を向く。

 前方からは、僕目掛けて次々と弾丸が放たれていた。

 それらを城崩しで斬り捨て、弾く。


 ただ、それらの弾丸が殿下のことを狙うようなことは一度もなく、「狙いは、シュメル・ハート」とでも言わんばかりの徹底っぷりに、これなら殿下を連れてくる必要もなかったか、と苦笑する。


 そうこうする内に、距離は縮まり。

 やがて、僕と殿下は森の中に出来た花畑へと辿り着く。

 あまり広くは無いが、青い花が一面に咲き誇っている。

 木々や遮蔽物はなく。


 その中心に、一人の少年が立っていた。



「……誰だ、お前」



 これだけ狙ってきてたんだ。

 知り合いかと思ってたんだが、見事に知らない顔だ。


 青みがかった白髪に。

 その瞳は、夜空のように深い蒼色。

 覗き込めば、どこまでだって吸い込まれていきそうなほど、美しく、されど恐ろしい瞳。


 その『目』を見て、僕は思わず歯噛みした。


「……そういうことか」


 僕の位置を正確に読み取る索敵能力。

 あれほどの距離を正確無比に撃ち抜く神業。

 彼の『目』を見て、全てを理解する。


 たとえ、僕には難しいことであっても。


 ソレなら、可能な芸当だ。


「な……っ、あ、貴方は!」


 僕の背後で、クラリス殿下が驚きを見せた。


「……知り合いですか?」

「……ええ。彼は()()()()()()()()の長子です」


 公爵家。

 頬がピクピクと痙攣するのを感じた。

 そんな相手に喧嘩を売られていたのかと思うと同時に。


 僕が喉から手が出る程に欲しい【才能】を前にして。

 生まれて初めて、嫉妬がチラリと顔を出す。




「名を、リオ・カーティス」




 その少年は。

 あの魔女と同じく、【神の目】を持っていた。



神の目。

それは魔法使いの天敵である。

世界に流れる魔力のすべてを観測し。

そこから、未来予知に近しい精度で相手の魔法を先読みする。

そして何より、彼らには可能なのだ。


【攻撃対象の魔法を一時的に封じる】ことが。


すべてを読まれ。

一撃でも受けてしまえば、自らの魔法も効力を失う。

まさしく、天敵。

当然、魔法使いとしてでは相手にもならない。

ゆえに、君にとって挑む価値があるはずだ。

そう、魔女は一人微笑んだ。


「ほら、いつかは戦うことになる宿命なんだから」


いつか、英雄が魔女を殺せるように。

彼女はいつだって、小さな英雄を応援している。




次回【天才と非才】



すべてに恵まれ、ただ一つ神の目を得られなかった天才。

すべてに恵まれず、ただ一つ神の目だけに救われた非才。

たとえそこに、第三者の導きがなかったにせよ。

いずれ出会い、互いに「気に食わない」と顔をしかめる宿命だった。



次回、1/1(木)12:00~公開予定!

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― 新着の感想 ―
反転+才能×努力フィジカルvs神の目+努力フィジカルになるのかな?反転封じられてもフィジカルの差でかそうだけど、神の目も肉弾戦に何か活かせるとかかな
どっちも腐れ縁っていう友人になりそう(小並感)
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