表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生、ちょっと足りない  作者: 藍澤 建
第一章【生まれ出ずるは英雄の芽】
2/18

001『転生』

 王道のようで、何かがおかしい。

 第一章を通してそんな違和感の正体を見つけることができたなら。

 きっと、この物語はまるで『別物』に映るでしょう。

 半田(はんだ)(るい)は、凡人である。


 自分で言っていて、少し悲しくなるけれど。

 これといった特技もないし。

 これだけは誰にも負けない、という分野もない。

 それなりにはオタクだったし、アニメやラノベといった方面には詳しかったけれど、あくまでも平凡なサラリーマンとしての域を出ないだろう。

 ……他には?

 しいて言うなら、我慢強さとか?

 もう、それくらいしか絞り出せないほどの平凡っぷりさ。


 結論としては。

 僕、半田累はどこにでもありふれた一般人であり。


 ……まがり間違っても、こんな奇想天外に巻き込まれるような人間ではない。




【あなたは死にました。転生しますか? YES/NO】




 前後左右、すべて真っ白な空間で。

 当たり前のように空中に浮かぶ黒い文字。

 否応なしに、この場所に来る直前の光景が頭に浮かぶ。


 死因としては、なんだったのだろう。

 ショック死? あるいは普通に出血死、圧死か?

 少なくとも、思い出せるのは一つだけ

 会社からの帰路、ふと明るくなって空を見上げたら。

 なんか、燃え盛って墜落してくる飛行機が突っ込んできた。


 直撃したのか、墜落後の衝撃で死んだのか。

 そこらへんは分からないが……まあ、あの飛行機が原因だろう。

 ……大丈夫かな。たぶん、たくさん人乗ってただろうし。

 なんだったら住宅街だったし、周囲にもひどい影響があったはず。

 死者が僕一人だけ、なんてことはないだろう。


 ……まあ、ここにきているのは僕一人だけみたいだけど。


「……とりあえず、YES」


 両親は死んでいるし、僕は独身だし、兄弟もいない。

 死んだといわれたところで、必要以上のショックはなかった。

 というより、一度死んでもオタク根性は変わらなかったのだろう。


『楽しそう』

『面白そう』


 そんな子供っぽい冒険心がひょっこりと顔を出し。

 深く考えることもなく、僕は『YES』に手を伸ばす。


 その瞬間、ジリリと白い世界全体へと、ノイズが走る。

 されど、それは一瞬。

 気が付いた時には、目の前から転生の文字が消え。

 新しく、見覚えのない【ガチャ画面】と、続きの文章が浮かんでいた。




【死者数682名。その598名が魂の欠損過多により、意思疎通が不能と判断】


【残存、84名の内、37名が転生を拒否】


【残存、47名の内、15歳未満の12名を精神未発達につき対象より除外】


【残存、35名の内、悪性と判断した18名を除外】


【残存、17名より抽選を開始】


【――おめでとうございます。半田累】


【682名より、あなたが転生対象へと選ばれました】


【682回の抽選権が与えられます】




「……転生対象、……選ばれ、た?」


 最後に現れた一文を復唱し。

 その前に現れてはすぐに消えていった文章を思い出し。

 僕はしばし、思考が止まっていたけれど。

 思い出すにつれて、一気に胃液が上ってくる。


「う……っ」


 自分が死んだ、その事実にはさほど動揺しなかった。

 けれど、自分が気軽に『転生する』を選んだせいで。

 僕の選択のせいで……他に転生を選んだ数十名の『道』が潰えた。

 そう思うと、重責に思わず吐いてしまいそうになる。


 けれど、なんとか胃液を我慢して。

 このまま、思考放棄してはいけないと。

 必死になって、目の前のガチャ画面へと視線を戻す。


「……落ち着け、そういうのは転生後に考えろ」


 後悔はいつでもできる。

 でも、転生のチャンスは一度きりだ。

 それに……少し酷い言い方にはなるが。

 名も知らない人たちの事故死と、今後何十年にもなるだろう僕の人生。

 今この瞬間、どっちが大切だ。


 そう自分に問いかけて、無理矢理に心を再起させる。

 こうして彼らを割り切ったこと。

 ……たぶん、転生後に死ぬほど後悔するんだろうな。

 そうは思いつつも、大きく深呼吸すれば、吐き気は少し収まった。


 682回の抽選券。

 その文字を最後に、次の文章は浮かんでこない。

 その回数は……今回の事故で死んだ人たちと同じ回数だ。

 本来であれば、一人につき一度の抽選機会が与えられていたところ、ほかの全員が抽選から外れたことで、すべての権利が僕に集約した……とか、そんなところか。

 いや、考えれば考えるほど気持ち悪くなるな。

 僕は詳細を考えることを放棄し、とりあえず一度、画面に触れてみる。


 すると、するするとガチャ画面は進み。

 次には、一つの画面が現れる。



【名前】アレン・ジョルダン

【性別】男

【能力】魔弾[F]

【魔力量】D-

【身体能力】B-


 残り回数、681回




「……名前、性別はわかるとして。能力、魔力、身体能力か」


 転生後にこの人として生まれますよ、ってことか?

 画面には、決定しますか? という文字と、またYES/NOが書かれている。

 とりあえずそちらには一切触れず、魔弾という部分を長押ししてみる。

 すると案の定、能力に対する説明が出てきた。




【能力】魔弾[F]

 自身の魔力を弾丸とし、放つ能力。

 殺傷能力は極めて低い。

 最低位に位置する能力。




「……F、って隣に書いてあるしな」


 やっぱり弱いのか、この能力。

 しかも、能力に対して魔力量がかなり低そうだ。

 Dランク、それもマイナス、となっている。

 これならば、とNOを押すと、次のガチャが回っていた。



【名前】クレタ

【性別】女

【能力】身体強化[D]

【魔力量】C

【身体能力】C


 残り回数、680回



「今度は女性……しかも、名前が短い」


 ってことは、あれか。

 さっきのアレン君は、貴族だったってことか?

 確定ではないけれど、そんな気がする。

 にしても……貴族生活かぁ。

 あんまり想像できないな。

 あと、性転換は望みません。


 とりあえず、僕は名前はスルーすることにして。

 性別、能力、魔力量、身体能力。

 それらをざっと眺めて、次に進んだ。



【能力】魔弾[F]

【魔力量】S

【身体能力】B


 残り回数、679回



 魔力量、なんとSランク。

 もしかしたら最高ランクなのかも。

 そう思ったが、能力が魔弾である。

 これは宝の持ち腐れ、とみて次に行く。



【能力】回復魔法[B]

【魔力量】B

【身体能力】F


 残り回数、678回



 回復魔法。魔力もそこそこ。

 だが身体能力がひどい。

 あと、これは女性だった。

 なので次。



【能力】魔弾[F]

【魔力量】F

【身体能力】F


 残り回数、677回



 ……いうことは無かったので、次。


 その後も何度か繰り返し。

 けれど、なんだかパッとしたものもなく。

 繰り返すこと、数十回。


 ついに、その時がやってくる。



【能力】剣帝[SS]

【魔力量】F

【身体能力】S


 残り回数、597回



「おおっ!?」


 思わず鳥肌が立ち、腕をさする。

 震える指先で、その能力名を長押し。

 目の前に現れた説明文を見て、喉が鳴った。



【能力】剣帝[SS]

 剣術を扱う能力の最上位に位置する能力。

 そのひと太刀は山を断ち、海を裂く。

 習熟こそ難しいが、極めれば個で軍をも超える力量を手にするだろう。



「つ、強すぎる……っ」


 まじかよ、大当たりなんじゃないのか、これ。

 震える手が、おのずと【決定】のほうへと進んでしまう。

 だが、だが。

 本当に大丈夫かと。

 改めて、その転生先を確認して。




【名前】アイサ・クローズ

【性別】女




 僕は断腸の思いで、【NO】を押した。


「くっ、ぎ……っ、こ、この……ぉ!」


 押してから、とても大きな後悔の波に飲み込まれる。

 ああ、最高だったさ。

 能力はSSランク、身体能力はSランク。

 文句なしだ。

 これ以上他人の命でガチャ引くなんて真似もしなくていいし……。

 もう、これで決めてしまいたかった。


 けど女性。


 たったそれだけ、とはいえ性別。

 転生後は、一生付き合っていかなきゃいけない問題だ。

 そこを、妥協するわけにはいかない。


「……それに、生まれを選べるのなら妥協はしたくないし」


 そう考えて、僕は後悔しそうになる思考を放棄した。



 そして再び、延々と続くガチャ地獄。



 楽しい?

 面白い?

 そんな感情はなかったよ。

 ただ、他人の命でガチャを引く。


 どこかのガチャ廃人も言っていた。


『どんな気持ちでガチャを引いていますか?』

『早く出てくれ。それだけです』


 引くたびに、残り回数を見るたびに。

 自分が生きるために犠牲になってしまった人の数を思い出し。

 そして、さっきの転生先を選んだほうがよかったんじゃないのか、と。

 多少は妥協したっていいんじゃないか、と。

 いやな思考が、じわりじわりと背筋を這い上がってくる。


 ……つらい、つらすぎる。

 人生を賭けたガチャってこんなにつらいのか。


 しかし、回せど回せど。


【能力】魔弾[F]

 残り471回


【能力】魔弾[F]

 残り423回


【能力】魔弾[F]

 残り312回


【能力】魔弾[F]

 残り247回



【能力】魔弾[F]


【能力】魔弾[F]


【能力】魔弾[F]


【能力】魔弾[F]


【能力】魔弾[F]

【能力】魔弾[F]

【能力】魔弾[F]




 ――残り97回。




「は、はは、ははは……」



 爆死も爆死、とんでもねぇ大爆死だ。

 僕は思わず笑ってしまった。

 魔弾?

 なにそれおいしいの?

 もしかして魔弾になれと天が言っているのか?

 最初のほうに出た大当たりなど、夢だったのかと幾度も思ったさ。


 だが、現実は残酷で。

 あれも現実だし、これも現実だ。


『筐体の中には大当たりは一個しかありませんよぉ』

『その一つ、さっき捨てちゃいましたからねぇ』

『もう、魔弾しかのこってないんじゃないですかぁ?』


 いい加減、そんな幻覚が聞こえてきそうだった。


「…………もう、無理なのかな」


 これ以上は、望めないのかな。

 ぽつり、ぽつりとあきらめの感情が浮かんでは、また消えて。

 それでも指先では、引き続きガチャ画面を回し続ける。


 死んだ目をして、残り回数だけを気にしながら回すガチャ。


 きっと今回も魔弾だろ。

 ……もう、次から魔弾でも、魔力と身体能力がそれなりで、あと性別だけあってればいいや。


 そんなことを思い始めた。



 ――そんな時だった。




「………………はっ?」




【名前】シュメル・ハート

【性別】男

【能力】反転(アンリアル)[SSS]

【魔力量】F

【身体能力】F


 残り回数、37回





「はっ、はっ、は……っ、こ、これ……っ」


 指先に、かつてないほどの震えを感じる。

 貴族……だけど、男性で。

 魔力量、身体能力ともに最弱。

 だが、この……能力【反転】、SSSランク。

 600回以上回してきて、一度としてみたことのないランクだ。


 震える手で、その能力名を長押しする。




【能力】反転(アンリアル)[SSS]

 歴史上、ただ一人、過去の英雄だけが保有していたとされる伝説の能力。

 その力は、万象すべてを反転させ、現実と虚構を支配する。




「こ、これだ……これ、しかない!」


 予感があった。

 残り、37回。

 これを逃せば……もう、魔弾しか引ける気がしない、と。


 しかし、魔力と身体能力が最底辺。

 最強の能力に対して、あまりにも足を引っ張るその二点。

 思わず、思わず決定の前で指先が止まる。


 けれど。


「魔弾よりはずっといい……魔弾よりかは、ずっといい!」


 魔弾。

 あの最低保証地獄のような光景を思い出し。

 僕は、迷いを振り切って決定ボタンを指でタップする。



 その瞬間、世界が明滅したのがはっきり分かった。



【転生先が決定されました】


【シュメル・ハート】


【異界の徒に、祝福を】


【《反転(アンリアル)》を授けます】


【37もの未使用リソースの確認】


【身体能力、魔力量にリソースを割り振ります】


【魔力量F→魔力量B+】


【身体能力F→身体能力S】


【――さようなら、半田累】


()()()使()()()()()()()()()()()()だが】


【まあ、君が選んだのであれば、拒みはしないさ】





 その瞬間、いくつか文字が浮かんだ気がして。


 その文章を理解するより早く――ぶつりと、意識が途絶えた。




 ☆☆☆




 そして、僕はすぐに知ることになる。


 せっかくの異世界転生。


 間違いなく世界最強の能力。


 史上最高の潜在能力。


 それを秘めておきながら――僕の転生は、ちょっとだけ、必要なものが足りなかったのだと。

次回『はじまり』


新たな人生の始まりは、痛みとともに訪れる。

それは希望の幕開けか、あるいは――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ