終わり、そして蘇る
その日、杷国で一人の女が息を引き取った。女の遺体は一気に燃え上がり、視界を奪うほどの光を発した。
だが、それも短い間のこと。紫や緑の光の混ざった赤い炎は一瞬にして肉を灰へと変えると、跡形もなく消え去った。
全てを焼き尽くすような光だった。けれど燃えたのは遺体だけ。彼女が横たわっていた布団も、着ていた着物もそのまま残っている。着物の中では人ひとり分の灰が赤く燻り、その灰を周囲で男達が見守っていた。
一分にも満たない、短い静寂。その静寂を破ったのは、灰の動く音だった。
「おおっ……!」
男達の中から、小さな歓声が上がる。彼らが食い入るように見つめる灰の中で、もぞりもぞりと、何かが動く。
動いているのは小さな塊だ。動くたびにその塊は大きくなって、着物の胸元あたり、はだけたその場所に小さな灰山を作った。
灰山の成長が止まったのは、それが人間の赤子ほどの大きさになった頃。もぞりと動けば、大きくなる代わりに固まった灰に罅が入る。まるで卵の殻のように罅は幾筋も灰の表面に伸びていって、ぱらりと破片が一つ崩れ落ちると、そこからふっくらとした肌が姿を見せた。
「おぎゃあっ……おぎゃあっ……」
灰山の中から、赤子の産声が響く。
「彗国の使者は?」
「ここに」
問いかけた男はその声に頷くと、灰の中から赤子を抱き上げた。すかさず別の者が上等な生地のおくるみを差し出し、壊れ物を扱うかのようにそっと赤子をその中に収める。
「これより、この方は〝朱華様〟だ」
そうして、彗国の使者を名乗った男に赤子を差し出した。
「紅胡様に感謝を。そして〝朱華様〟に幸多からんことを」
男の言葉と共に、その場にいた者達が頭を下げる。使者の腕の中で産声を上げる赤子は、ただただ泣き続けていた。