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イノセント・ランド  作者: ふぇにもーる
二章 劣妖と人外と追跡者と&スペシャル1、2
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第17話 二章 ―劣妖と人外と追跡者と― 4

 岩肌の露出した地面が続く、歩きにくい地形だった。靴でも履いていなければ簡単に怪我をするだろう。キサラ達は荒野で休息を取っていたキャラバン隊のキャンプに来ていた。どうやら近くに鉱山があるらしく、そこから流れてくる鉱水が綺麗なために商人達の間では良く休憩ポイントとして使われているらしい。どうやら彼らは数日後に漁村へと移動し、他国へ渡る予定だという。

 水場には商人達の家族と思われる女子供が多く、それも大規模であった。近くには数百にも上ると思われる数のラバが休んでおり、餌を順々に食べていた。食事時らしく、タナトス王国には無い料理の独特な匂いが周囲には漂っていた。

 キャラバン隊の中を進んでゆくと、金属の鎧姿をして矛槍を手に携えている、何ともこの場に不釣り合いな青年が成人男性と話をしているのを見つけた。恐らく成人男性はキャラバン隊の隊長らしい人であり、風格が違う。一方、話をしている鎧の男は酷く華奢な雰囲気で、ひょろ長い。あの体格で良く矛槍を扱えるなとキサラは呟く。

 どうやら隊長らしき男性と鎧の男は口論をしているようであり、周囲にまで鎧の男の苛立った声が撒き散らされている。周囲にはほとんど人が寄り付いていない。キサラ達も遠くからその様子を見守っていたが、鎧の男はキサラに気付くとずかずかと近寄ってきた。

「貴様、何の用だ」

 首元に突然矛槍を突き付け、威嚇した。突然の無粋な態度にキサラも瞬時に沸点に達し、剣を抜いて矛槍を弾き飛ばす。

「随分なご挨拶だな。先に名乗れ、てめぇは誰だ」

 重い矛槍を弾き飛ばされ、鎧の男は体勢を崩してよろめく。その動きからしてあまり矛槍を使い慣れている様子でもない。周りの人達は突然武器を抜いた事で騒然となった。周囲から少しずつ人が引けてゆく。やがてキャラバンの人々は円陣となり、彼らを遠巻きに見た。

 敵かどうかも判明しないためにキサラとしても斬りかかるわけにもいかない。

「どうした、さっさと名乗れ!」

「そうよ。通行人にいきなり武器を突き付けて威圧するなんて、まともじゃないわ。貴方、礼儀って言葉知ってる?」

「ハッ、何を言うか。私は栄光あるセント・ベルクラント公国槍騎士、リィン・ゼシックス。貴様が誰なのかは分かっているぞ。その革の鎧、貴様はタナトス王国のキサラ・L・シグムントだな。ここで会ったが運命。その命、貰い受ける」

 キサラはとぼけた。

「誰だよそれ」

 非常に好戦的な態度を見せた相手だが、恐らく戦いに関しては素人だ。先ほどの槍を扱う動きを見ればキサラには理解できた。こちらが上手に出ても問題は無いだろう。ただ、素人であるが故に何をしてくるかが分からない。突然、思いもよらない行動に出る場合もある。それを考慮しておかなくてはならない。

「そうよ、キサラって誰? この人の名前はジャック・ワトソンよ」

 セシルも調子を合わせてきた。普段から無表情であるだけに、こういった芝居は金を取れるほどに上手い。全く冗談だという雰囲気が出ない。ありのままを話しているといった様子だ。

「な、何だと。ジャック・ワトソン? だが、確かにその顔にその鎧は――」

 鎧の男は簡単に怯んだ。見れば育ちの良さそうな顔付きをしている。歳もキサラより少々上のようだが、経験は浅そうだ。恐らくベルクラント公国内の貴族の家系か何かの出身なのだろう。

「はぁ。俺はジャックだって何度言えば分かるんだ。アホ」

「ア、アホだと……」

 鎧の男は早速返す言葉を失った。

「そうだよ、何度言わせれば気が済むんだ。アホ。大体、何で俺がお前にケンカ売られなきゃなんないんだよ。俺とお前は初対面。今さっき初めて顔を合わせたばかりだ。恨みを買った覚えは無いし、俺が恨んでいるわけでも無い。お前なんか俺にはどうでもいいんだよ。この場でやり合う理由が正直分からねぇがな」

「う、うるさい。貴様は敵国の兵士。何がジャックだ、ふざけるな。貴様はキサラだろう。それだけで戦う理由がある!」

 二人は別の意味で返す言葉を失った。依然として矛槍を突き付けている。だがその手は微妙に震え、矛先は太陽光を重く反射して鈍色にぎらついていた。先端はキサラの喉元を今にも切り裂かんとばかりに鋭利で、岩盤でさえも貫きそうなほどに研ぎ澄まされている。

「呆れた」

 セシルの声はもう終了の合図であった。吐き捨てるようにリィンに言葉を叩き付ける。

「貴方死ぬわよ。せっかく見逃してもらえるチャンスだったのに、自分から死にに来るなんて馬鹿みたい。自殺願望者かしら?」

「な、何を。元はと言えば、貴様らがちゃんとあの女を捕まえておけばこんな事には。行くぞ、聖槍セントハルバード。私に力を貸せ。この敵国の犬に思い知らせてやる」

 矛槍は生きているかのように淡く光を発し、心臓のように一瞬強く鼓動してブレたように見えた。キサラも剣を構え、身構える。

「その矛槍、お前には身に余る代物だ。身分不相応な物を使ってると火傷するぜ」

「黙れ!」

 まるで子供の憤怒のように、リィンは槍を振り下ろした。

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