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イノセント・ランド  作者: ふぇにもーる
一章 白亜の栄光
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第13話 一章 ―白亜の栄光― 13 Final

 怪物の身体は見る見る内に冷え、急速に固まっていった。まるで溶岩が冷却されて石にでもなるように。地に埋まった身体からだんだんと、這うようにして石化が進んでゆく。

 まるで命を散らす時はこうなる事が決まっていたかのように、一つの街を壊滅の危機に追い込んだ怪物は完全に動きを止めた。

 落ちた右手も、持ち主の命と連動するかのように石になってゆく。生きていた痕跡すらも残さないかの如く。ロードオブバーミリオンであったその身体は、数分後には何も物申さない岩山のように変わっていた。

「終わった、か」

 レム隊長の安堵する声が街に静かに響いた。東側の被害は特に酷く、無事に残っている建物はほとんど無い。ほぼ全てが倒壊し、火災によって燃え尽くしている。建物が少なくなっているために、人の声は良く届いた。それだけ街の被害が大きい事が分かる。

 嵐の音に混じり、歓声があちこちから上がる。自警団も騎士団も、恐怖に震えていた街の住人も。足元も不安定な豪雨の中、濡れるのも気にせずに人々は家から思わず飛び出していた。東の空に浮かび上がる岩山のシルエットを見上げると、それぞれに恐怖心や怪物に対する文句を吐露した。

 キサラの手からは剣が落ちた。ただの棒切れのように、先ほどまでの力強さなど微塵も感じられない。石のタイルの上に転がったそれは、金属音を立てて静かに折れた。光を放ち切った鉱石の剣は、力を使い果たしてただの石塊と成り果てた。

 魔力を蓄える性質を持った鉱石でさえ、膨大なエネルギーに耐え切れなかった。ここまで巨大な怪物を一撃の下に捻じ伏せた威力である。使う相手を間違えば、一つの小都市くらいは消し飛ばせるほどだったかもしれない。

 地面に転がった剣を見つめ、その残骸を拾い上げる。細い刃は真ん中から二つに折れ、もう使い物にならなかった。

「悪いな。たった一撃しか使ってやれなかった」

「いいじゃねぇか。その剣も、隊長の鞘ン中でしょぼくれちまうんじゃなくて、最後にドカンと一発すげぇ事に使ってもらえたんだ。本望だろうよ」

 夜の嵐に混じって、ロバートの声がキサラには確かに聞こえていた。

「それに、俺も一緒にぶっ放したんだからな。あそこまで強ぇわけさ」

 キサラは視線を泳がせ、左右に姿を探した。

「どこにいるんですか!」

 姿など無いのは最初から分かりきっていたはずだった。ロバートの姿は、キサラの心の中にいたのだから。

 キサラの心の中からふっと温かい物が出でて、急に軽くなった。きっとその温かい物は、亡くなった彼の住んでいた場所であった。急な寂しさに襲われ、空を見上げる。

「今度こそ本当にさよなら……か」

 砕けた剣に視線を移す。

「いや、ありがとう。だな」

 二つに分かれた剣を持ち上げ、仲間の所に向かって踵を返す。

「ロバートさん」

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