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幼馴染とメロウ #おさメロ

作者: kopfkino.

 ――三月二十五日。大学入学式の一週間前のこと。


 リビングにて、ゴロンとソファーに転がっている同居人の女がテレビを見ていた。

 スクリーンを見ると、その番組はオレも知っていた。

 『幼馴染の再会に、全国が泣いた』と絶賛話題の青春ドラマである。

 残念ながらオレは番組を追っておらず、現在放送中のエピソードは話題の感動シーンを過ぎた後。とはいえ、今日が最終回ということもあり、SNSではトレンドに乗っているのを今しがた目にした。


「面白かったか? それ」


 オレが問うと、女は身体を九十度回転させ、肘掛けを枕替わりにして仰向けになった。

 夜も更け始め仕方のない話だが、目を細めてだらしない顔。

 まるでウトウトし始めた猫のようだ。


「ふぁああっ。うん。でもラストは微妙かなぁ」

「……欠伸が出るほどか」

「それは生理現象だから~」

「あ、そう」

「うん、そう」


 今のはオレが余計なことを言ったのかもしれないが、彼女も一々反応する意味はなかった。

 オレ――かしくては言い返す意味がないとわかっていた。

 彼女――さらさくも、同じくわかっていた。

 お互い、わかっているから、そこから言い合いには発展しない。


「で、微妙だったのか。ネットではハッピーエンドって話題になっているみたいけど?」


 ハッピーエンドと言ったものの、実際にはまだ放映途中であり、終わっていない。

 だけど、『主人公とヒロインがそれぞれ自分達の進む道を見つけて、別々の行きたい大学へ進学する』という概ねのラストはもぅ目に見ていた。

 どうやら、それがお気に召さないらしい。


「まぁさ、私思うんだよ。ドラマはやっぱり最後のオチというか締め括りが大事なんだろうなって」

「……出たな。急に長々と語りだす」

「好きなものは語ってなんぼでしょ」


 これだから男は、と余計な言葉を零す女。

 昔からオレの幼馴染はよく喋る。


「視聴者はさ、このドラマに青春を求めているわけ。自分のやりたい事を見つけて離ればなれになるって、青春ドラマとしてどうなん?」

「高校生のまま、続きを仄めかして終わってほしかったってことか?」

「違う。エピローグって、その先の登場人物の人生をほんの数分に凝縮しているんだよ。たった数分が、主人公とヒロインのこれからの全部なの」


 小説に置き換えれば、物語が終わった後の数行。

 『この先、彼らは幸せになりました』などと綴られるアレのことだ。

 確かにストーリーというものが登場人物の人生を切り取りしたものだと捉えると、そのたった数行、たった数分は、途轍もない効力を持っている。

 故に『俺たちの旅はこれからだ』みたいなラストは、敬遠されがちなのだ。


「やっぱり無理言ってでも『お前について行く』って言うべきだったよね。この主人公ダサくない?」

「……なるほどな」


 オレはそのシーンを見ていないので、カッコよかったのかダサかったのかよくわからない。

 けどSNSでは少なくとも、『よく言った主人公!』と絶賛だった。

 もちろん、咲琉と同じ考えも点在しているので、個人の感性による違いかもしれない。


「はい、その『なるほどな』って適当言ったね」

「ばれたか」


 むしろ幼馴染相手に、誤魔化せると思ったことが傲慢だったのかもしれない。

 でも、他に応え方がなかったのだ。


「はぁ……湫にもわかりやすく言うと、仕事を優先するのか、女を優先するのかの違いってわけ。私は、こういう時に女を優先してほしいの。私、女だから」


 何故か咲琉がそこでドヤ顔をする。

 女としての誇りを持っていることはわかったけど、この先その考えで貰い手が現れるのかは心配ものである。


「そう考えるとオレ達って、行きたい大学が一致した訳だし、咲琉の思うハッピーエンドなのかもな?」

「ばーか。恥ずかしいこと言わないの」


 咲琉はそう言うと、くるりと身体を回転させ、テレビの方へ顔を向ける。

 昔にも同じようなやりとりをしたことがある。

 当時、咲琉から言われた言葉は「死ね。気持ち悪いこと言わないの」だった。

 あの頃に比べたら、咲琉も大分性格が丸くなったと思う。


「はいはい」


 確かにハッピーエンドではなかったな。

 大学生活は、まだ始まってすらいないのだから。

 ご機嫌を損ねてしまった彼女の為、オレはキッチンへと赴き、コーヒーを淹れることにした。



 オレ達は同居している。

 所謂シェアハウスというやつだ。

 幼馴染もとい腐れ縁という関係のオレ達は、偶然にも同じ東京の大学へ進学することが決まり、引っ越してきた。

 仲良く同居こそしているものの、お互いに恋愛感情はない。

 強いて言えば、お互いが余ったらお互いで妥協しようという程度である。

 大学生活には期待も不安もなく、オレ達の日常はいつも通りで変わらない。


 ただほんの少し――ほんの少しだけ、二人でいる空間が落ち着くのは、果たして気のせいなのだろうか。

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