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第59話



 さて、ウィチャード・ラグナーの英雄デュラハンが消滅し、イグセリカがトール・ライフルに巻き込まれるのを防いだのは結構なことだが、私にとっては少々都合の悪い展開だ。


「一体、さっきの力は何だったんだ?」


 イグセリカと共に戻るなり、ドラヴィオラの追及が始まった。


「……」

「てめえ、この期に及んでまだ答えねえつもりか」

「異質な魔力だった……。今まで見たことのない。人にも、獣にも見たことないような、でも、獣魔でもないような……」


 シルリィまでもが私から距離を取り、化け物を見るような視線を向けてくる。


「だけど、アルトはあたしを助けてくれたんだ」


 その中で、イグセリカだけが私を庇うように割って入った。

 決まりが悪そうにドラヴィオラが頭を掻く。


「こいつがワタシたちの敵じゃないってのはわかるさ。じゃなきゃわざわざあの巨人を倒すことに手を貸したりはしないだろうからな。だが、それとこれとは別の話だ」

「でも……」

「てめえだって思うところはあるんだろ? さっきの赤黒い魔力、――下手すりゃワタシたち以上だ」

「それは……。けどアルトにだって事情があるに違いないんだ。それをあたしたちが無理やりに引き出すのは……」

「都合のいいタイミングなんか待ってたっていつまでもやってこねえよ。特に隠し事をしてるやつ相手にはな。別の言い訳を考える時間をやってるようなもんだ」

「わたしも純粋に興味がある。彼がいなければあの巨人だって倒せていたかわからない」


 グウィレミナの加勢も加わり、流れが一層私には都合の悪い方に変わってきた。


 仕方のない部分もあるとはいえ、さすがに力を見せすぎた。嘘をついたとしても誤魔化しきれるものではない。


「ワタシたちはお前の言うことに従った。なら今度はお前がワタシたちに応える番だ」

「あれだけの力を持ちながら、なぜわたしたちだけに倒させたのかも気になる。君の力添えがあれば、もっと楽にあの巨人を倒せていたのではないか?」

「作戦を考えたのはアルトだ。力添えという意味ならアルトだって十分やってくれてる」

「だからそんな組み合わせをこんな急場で拵えられるのが怪しいってんだろ。そこの騎士女なんか、こいつと会ったのはほんの数時間前なんだぜ?」

「だからそれは、アルトはあたしたち三人が戦ったのを見ていたからで……」

「ワタシがまだ見せてもいない技をこいつは組み込んでたんだ。予測にしたってできすぎだ。かなり前からワタシたちのことを知っていたと考えた方がずっと自然だろ」

「切羽詰まっていた分頷くしかなかったが、今になってみればやはり不自然な部分は多い。近くにいた君たちは慣れているのかもしれないがな。あ、いや、君たちが身内贔屓をしていると言いたいわけじゃないが」

「十分贔屓だろ。ここまでくるとさっきの出生の話も、本当かどうか疑わしいぜ」


「……わかった」

「だけど、どんな真実が隠れていたとしても、アルトくんを責めたりはしない。それだけは誓って」

「別に拷問して糾弾しようってわけじゃねえよ。ワタシたちはただ、納得したいだけだ」


 納得したいだけ。もやもやを晴らしたいだけ。


 それは今の彼女たちの共通の心情なのだろう。

 皮肉なことに、これまでバラバラだった花嫁たちの心は、私の正体を知りたいという気持ちでここにきて初めて一致したのだ。


 私の無能ゆえに彼女らに違和感を与え続け、完全に疑われてしまった。

 しかし他にやりようがなかった。ウィチャード・ラグナーを殺した上で、四人の花嫁たちを生かしておくための他のやり方が。


「さあ、お前の『本当の正体』をワタシたちに教えろ。アルトゥール・リープマン」

 四人の目が、私一点に集中する。







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