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第57話



 後は槍が落ちてくるのを待っているだけ。

 巨人がここまで辿り着く前に、槍が真上から巨人を貫きそれで終わるはず。


 しかしここにきてトラブルが起きた。


「――あっ!」


 そのとき、不意にシルリィが何かに気づいて声を張り上げた。


「まだ巨人の近くに残ってる人がいる! 女の子だよ! 泣いて立ち止まってる! どこに逃げればいいかわからないんだ!」


 予想外の展開に彼女たちの表情に再び緊張が走る。


「どうしよう! このままじゃ巻き込んじゃう!」

「避難は済んだはずじゃねえのか?」

「あの辺りは混乱の最中にあった。騎士たちも慌てていた。見つけきれなかったんだ……!」


 大半の住民は巨人が現れた時点ですでに逃げ始めていた。それにグウィレミナのいる騎士軍が周辺住民の避難を誘導しあの辺りは無人のはずだった。


 だが中には避難の指示を無視し隠れてやり過ごそうとする馬鹿な人間もいるものだ。特に子どもは恐怖が先立ち予想外の行動を起こす。何か異変を感じ取って隠れていた場所から出てきたのだろう。

 残念だが助けてやる暇はない。強大なる破壊にはわずかな犠牲はつきものだ。


 巨人の出現によってすでに数え切れないほどの犠牲は出ているのだ。今さらたかが少女一人のために現人類が持ちうる最高火力まで高められた槍を止められる状況ではない。


 そもそも、槍はもはや誰であろうと止めようがないほどに高い位置にある。

 私は口を挟まず、彼女たちの騒ぐままに任せた。


 これも、いずれは必要になる花嫁たちが成長するための淘汰である。


「――あたしが行く!」


 私は自分の目を疑った。あの愚か者めがっ!!


 イグセリカが両腕に大きなエンジンを形成し超音速で飛びだしていったのだ。私が制止する暇もなく。


 よりにもよってトール・ライフルの着弾地点に向かっていく阿呆がどこにいる!


 着弾までまだ幾何かの猶予があるとはいえ、あまりに無謀が過ぎる。

 イグセリカはエンジンを形成し巨人の周囲をぐるりと飛び、少女を探している。引き返せと怒鳴りたかったが、もはやここからでは声も届かず誰も彼女のスピードには追いつけない。


 終わらせない。終わらせるものか。

 イグセリカの動きが変わった。巨人の進行方向からわずかに右に逸れた場所に急降下して着地する。少女を見つけたのだろう。


 同時に、まだ小さな針の穴のような大きさだが、私の目にも落下してくる槍が見えてきた。

 イグセリカももはや飛んでそこから離れるには時間がないと判断したのだろう。少女を自分の身体で庇うように抱え蹲り、魔力を繭のようにドーム状に形成し少女と自分を包み込み防御態勢を取る。


 トール・ライフルの衝撃をあれで凌ぐつもりなのか。甘く見過ぎだ。相変わらずの浅はかさにいい加減私の悪態を直に聞かせてやりたい。


 イグセリカを救出しなければならない。だが時間がない。


 重力加速度とグウィレミナの引き寄せる力が加わった槍は、一撃目と比べものにならないほどの推進力を得て突き進む。


 未熟な花嫁たちの技に私のアレンジを加えた、二段階式トール・ライフル。

 槍は稲妻のごとく巨人へと落ちていく。


 巨人は今度こそ倒れるだろう。巨人の内包している魔力は一気に解放され爆発を起こし、加えて槍の衝撃により周辺一帯を跡形もなく消し飛ばす。


 イグセリカ一人にそれに耐えうる力はない。少女を庇いに飛び出したつもりだろうが、もろとも吹き飛び自滅するために無思慮に突っ込んだだけだ。


 シルリィたちでは槍が着弾する前にイグセリカを救出する手段はない。

 もはや迷いの余地はない。ここまできてイグセリカを見捨てる択は私は持ち得なかった。


 花嫁たちは十全な仕事をこなしてくれた。あとは私が彼女たちを生かすだけだ。

 そのためには、致し方ない。


 私は、魔王としての力の一部を開放した。





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