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第11話



「そこだよ! アルトくん! いけぇー! ああ! 惜しい! もうちょっと上の方だったら勝負が決まってたかもなのに!」


 シルリィリアが腕を振り回して叫び。


「あちゃあ! アルト、狙いはしっかりつけろってあれほど教えたのに!」


 イグセリカが両手で顔を覆って本気で悔しがる。


「ねえこれ、アルトくん、勝っちゃうんじゃない!? もしかして!」

「さすがあたしのおとう……弟子だ!」


 二人で頷きあって、ふと気づいて見合う。 


「でも、失敗させるんじゃなかったの?」

「いや、うん。つい……アルトが頑張ってるの嬉しくなっちゃって」

「わかるけどおー。本当に勝っちゃったらどうするの? 一緒に連れていくの?」

「うーん……。でもなあ……さすがに今のアルトにバジリコックを倒せるだけの魔力刃が作れるとは思わないし」

「何か策があるのかもしれないよ。あのお利口なアルトくんだもん! ほら、今もなにかこう、後ろに退がりつつバジリコックを誘き出してるような感じするよ」

「そうなのか? 参ったな。アルトが勝ったら嬉しいけど困るし、負けたら悔しいけど助かるし……」

「ジレンマだよね!」

「仕方がない。少しでも危なそうになったらあたしが先に仕留める。多少わざとらしくなるかもしれないけど、あたしがなんとか言いくるめるさ。出る準備をするから、合図を頼んだよ」

「わかったよ!」


 イグセリカはその場で軽く準備運動をして筋肉をほぐしてから、シルリィリアのいる位置から数メートル後ろにさがった。

 呼吸を整え、皮膚感覚を広げる。

 自らの魔力が自分の肉体を超えて周囲の空間に及ぶイメージを強く造り上げる。神経の伝達が空間に満ちた自らの魔力にも及ぶ感覚。

 前傾姿勢になり腕を拡げ後方に伸ばす。イグセリカの白銀色の魔力は、彼女の背後で翼のように広がっていく。

 次第にイグセリカの魔力は円筒形の形状を造り上げ、断続的な音を鳴らしだした。

 火の燃焼音が圧縮されていくような、ゴオオオオと。それは別の世界線では、航空機に搭載されるジェット噴流の燃焼機関の音によく似ていた。


 イグセリカが得意とする、魔力を形態変化させたそれを、彼女はスレイプニル・エンジンと呼んだ。

 最近、盟王都で開発されているという内燃機関の構造を村に来た詩人から聞いてヒントにして作り上げた、イグセリカ独自の高機動魔力機構。


「準備完了。いつでもいけるよ。シルリィ」

「…………あ、待って!」

「どうした?」


 振り返るシルリィリアの顔は、本気で焦っていた。


「アルトくんが立ち止まってる!」

「そこに誘き出したとかじゃなくて?」

「広い場所だし罠なんて何もないよ! わたしからもアルトくんの周りには何も見えない!」

「じゃあ……」

「魔力切れだよ! アルトくん、もう逃げられなくなったんだ!」


 シルリィリアは悲鳴のようにイグセリカを振り返って自分に見えている状況を伝えた。

 弟子のピンチ。予定通りだ。予定通り、だが。

 当初予期していた状況とはいえ、いざアルトが窮地に陥った瞬間、イグセリカの顔には焦燥が強く浮かんだ。

 アルトなら魔力がなくても十秒くらいは逃げられる。それだけあれば駆けつけられる自信がイグセリカにはあった。

 その幾何かの余裕を打ち砕いたのはシルリィリアだ。


「ねえ、おかしいよ! アルトくん、自分からバジリコックの前に出て行ってる!」

「ええ? あのアルトがそんな馬鹿なことするわけ……」

「してるもん! あんなことしたら、自分から食べられにいってるようなものだよ!」


 真に迫ったシルリィリアの声に、それが冗談ではないとわかってイグセリカは息を呑んだ。


「アルト!」


 イグセリカが叫ぶのと同時、周囲一帯に爆轟の衝撃音が轟くとともに大地が揺れる。その余りの勢いに、周囲の木や枝がバキバキと音を立てて折れた。

 スレイプニル・エンジンによって高密度に圧縮された魔力が推進力となり、イグセリカの身体を音速を超える速さで撃ち飛ばした。






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