拝啓 お父様、お母様
透明なマナクリスタルにガリガリと模様を刻み込む。一部分だけ見ればただの傷、しかし繋げれば巨大かつ緻密な絵画。
床も壁も天井も、板状に整えられたマナクリスタルが隙間なく覆い隠す。ろうそくの火に照らされて、部屋中がキラキラとまばゆい光を放つ。薄ぼんやりと見えるのは、全てのマナクリスタルに刻まれた細かい文様。
この量のマナクリスタルを集めるのには苦労した。それなりに希少なものなのに、品質の基準を満たすものとなると更にその数は減る。そしてそれらすべてを加工して、魔法陣を刻み込むのも大変な作業。一度でも間違えればその部分は剥がしてやり直し。絶対やり遂げると思い立って始めたこの作業は既に三十年かかっている。
今向かい合っているのは部屋の出入り口があった場所。仕上げのために塞がれたこれを使うことは二度とない。既にマナクリスタルを埋め込んだことで機能を失ったドアは、ノブを嵌め込む口すらない。
最後の一文字を丁寧に刻み込む。最初は綺麗に彫れなかったものの、三十年も続ければ熟練の職人級。
ガリ、という音と共に、既存の文様と繋がる。ただの傷が、魔法陣へと至った瞬間だった。
「できた……!」
拝啓 お父様、お母様
あなた方が見捨てた娘は三十年かけて立派な魔女になりました。そして今日、私は――
――聖女へと生まれ変わります。