4 戦闘
目を覚まし、辺りを見回す、夢か。現在は深夜、そのままもう一度寝た。
朝起きて村の広場へ。力が入らない、急すぎるぜ、爺さん。 はぁ、悲しいが爺さんが元気な俺を見せてくれって言ってるしな。気持ちの整理をしなくては。
そう、これからは独り立ちしなくてはならない。ジョブを持っていたので、冒険者になるといいと爺さんが勧めていた。ロアとしても爺さんの冒険譚を楽しみにしていて、憧れて冒険者になりたかったから丁度いいかも。
この村にはないが、基本どこの街にも冒険者ギルドがあり、冒険者ならそこで仕事をもらいお金を稼ぐことが出来る。仕事も豊富だから食べていくのは楽だろうと。爺さんの力はできるだけ使わず、自分の力を鍛えていかなくては。
悲しいことが起こるといつもこの場所に来ていた。いつも家族や友達が心配してここへ来てくれていたな。今は皆忙しいから誰も来ない。ちょっと寂しいけれどずっと甘えているわけにはいかない。大人にならなくてはな、ロアよ。
「あの馬鹿は馬を持ち出してどこへ消えたんだ!」
遠くから怒鳴り声が聞こえてきた。村長さんが怒っている。昨日出掛けてからからまだ帰ってないのか。ホントあの人は。ため息をつきやれやれと首を振っていると、広場にエルフの女の子が入ってきた。
「はー、せっかく見つけたのに病気だなんて」
そうか彼女は死んだことを知らないか。爺さんの死はいつ公表されるのやら。急だったから時間がかかるかも。
「ん? ふふ、エルフは珍しい?」
彼女を見ているとこちらに声をかけてきた。杖を持っていてローブを羽織っている、魔法使いかな。確かエルフの国はここからかなりの距離があったはず。余程の理由があるのかな。
「昨日もいたね。エルフのお姉さんがどうしてこんな辺境の村に?」
昔、彼女が住むエルフの村が魔族に襲われたとき、爺さんがあらわれて退治したそうだ。旅に出ても良い年になったから爺さんに一言お礼を言うためにここまで来たとのこと。
「本当にかっこよかったよ。1人で魔獣の大群を押し返していって」
身振り手振りの大立ち回り、話に熱が入る女の子。なるほど、ロアと一緒か。良かったな爺さん、かわいいファンが出来てさ。
「俺も爺さんの話が好きでね」
彼女と爺さん談義で盛り上がっていると、退いてくれという叫び声が村の南側から聞こえてきた。何事かと2人で声がした方を見ると、馬に乗った男性が慌てた様子で村長さんの家へ。
「大変だ、魔族が攻めてきた! 魔獣の群れが集結してこちらに向かっているぞ!」
爺さんが念のためにと斥候を村の西側と南側に置いていた。皆も一応従っていたが、内心何も起きはしないと思っていた。しかしこうして、魔族が南からこの村に向かって進軍をしている。爺さんの予感は的中してしまった。一体どうやって、と今はそんな事を考えている場合ではない。ここから逃げなくては。
「お姉さんも逃げたほうがいいよ」
「ええっ、どうなってるの」
家族がいる家へ駆け出す、女の子も北側へ走っていった。家ではすでに逃げる準備を終えていた。
「ロア、来たか。わかっているな、逃げるぞ」
特に何も持たず家から出て、村から脱出。近くにある北の街に到着。村の人達もこの街に来ているようだ。だが、この街もすぐに捨て、更に逃げなくてはいけなくなるだろう。この街は村から近く、外敵を防ぐような壁すらなくて防衛は不十分。問題なのは軍備が揃った街はかなりの距離があること。このままではいずれ追いつかれ全滅だ。
「俺がやるしかないか」
街からひっそりと抜け出し、爺さんの力を使って村へ戻る。街道は人目につくな、森の中を移動しよう。
(ん、あの子はまさか村へ戻ろうとしている? 止めなくちゃ。んん? あの速度、とてもただの子供には見えないけど)
速い速い、あっという間に村に到着。まだ魔獣達は村に来ていないようだ。そうだ、爺さんの武器を借りよう。家の前には誰もいない。家の中へ。
白い布が爺さんの体にかかっていた。手を合わせ祈る。武器はどうやら金属のカードに収納してあるようだった。
「借りるよ、爺さん」
(持っていけ、お前のものだ)
「そうか、それなら遠慮はしないよ」
爺さんの声が聞こえた気がした。気のせい、かもな。家から出ると、急いで村の南側へ。外から凄まじい振動が。魔獣達の大群が見えてきた。いよいよ村の近くまで迫っているようだ。村を少し出たところで、魔獣と接敵することになりそうだな。初手で相手を飲み込むべし、爺さんの戦術より。頭と口元に布を撒き、正体を隠すと、大群の前に立ち止まり武器を持ち構える。
ここは地獄か。魔獣達が一心不乱に進軍している。大地からは地響きが、空にも多数の魔獣達が奇声を上げながら突き進む。地の揺れ、音が俺の心を揺さぶる。気持ちで負けては駄目だ。深呼吸をして心を落ち着ける。
引き付けてからスキルを放った。
「スピリットファイア」
たちまち前方の魔獣がちぎれ飛ぶ。何が起きたというようなわめき声が聞こえたが進軍速度が鈍くなるだけでまだ止まる様子はない。
「一気に行くか。バーサーク」