1 覚醒
「ここは?」
頭に電気のような衝撃が走ったと思ったら、見たこともない場所に来ていた。確か交通事故で死んだはず。それに俺は20後半だが身体が子供になっている。
いや、ここはどこかわかるぞ。子供の記憶から今12歳の成人の儀式していて村長の家にいることがわかる。ここまで子供だった記憶と俺の記憶が融合しているのだろう、不思議な感覚だ。
成人の儀は個人の能力を調べる儀式を行う。手に聖水をふりかけ、特殊なゼリーの中に手を突っ込むことで、奥にある装置から個人の能力が紙に出力される。
「どうしたロアよ、ハハハ、少ししびれると言ったろう、大丈夫かい?」
「はい。では戻ります」
優しく声をかけてくれる村長さんに返事をして、後ろの席に移動する。後方にいる父さん母さんが心配そうにこちらを見ていた。隣に俺と同じ12歳の男の子が座っている。同い年の友達で彼も成人の儀を受けていた。
「結果は後に1人ずつ報告していく。家で待機していてくれ。では成人の儀を終わる」
村長宅から出ようとしたところで村長の息子とぶつかる。
「いってーだろ、くそガキ」
怒った様子で俺の腹を蹴ってくる息子。みぞおちに当たり、結構なダメージが入った。
「貴様というやつは! 子供になってことを!」
「はぁ~、うっせーな」
悪びれる様子もなく部屋に入っていく。彼はこの村随一の問題児。自己中心的な性格で仕事もせずに遊び呆けている。俺に謝りながら甘やかして育ててしまいこうなったと村長さんが言う。俺も、村の人も彼には慣れてしまっている。村長に挨拶をして同い年の男の子と話をしながら帰宅する。
「俺は長男で家の農業を継ぐから、向いているジョブは関係ないけどな」
戦闘職業のことをジョブという。成人の儀でわかるのは、向いているジョブ。剣を使う戦士や魔法使い等、戦いをおこなう職業。この世界では魔獣と呼ばれるモンスターがそこらをうろついている。そのためジョブはかなり需要がある。しかも人類の敵、魔族と戦争中。しかも泥沼の。
「ロアは3男だから出ていかないといけないんだよな。俺だったらジョブよりも一般的な仕事をしたいな。じゃあな」
手を振り別れる。戦闘職は死ぬからジョブがあっても、普通の仕事をする場合もある。
家に向かって歩いていると、長男が元気よく畑を耕している姿が見えた。筋肉隆々で、楽しそうに農業をする兄。良い後継ぎだ。
「ただいま」
「おかえり」
家に帰ると次男の兄さんが事務処理の仕事をしながら迎えてくれた。計算が得意なのでその系統の仕事に就いたようだ。彼もいずれ家を出ていくだろう。兄はジョブを持っていない。ジョブはなくても普通に食べていける。
ただ戦闘で食べていきたい場合はないときつい、もしくは無理。武器職は一応やれないことはないが、ジョブがあると武器技を覚えるので徐々に差がついてくる。魔法使いの場合はもっとひどく、なりたくてもジョブがなければ魔法が使えずそもそも魔法使いになれない。
「呼び出しがかかるまで家でゆっくりしていろ」
「うん」
12年間、ここで産まれて育った。男の子の記憶が俺の中に流れ込んでくる。どんな結果になるにせよ、最終的には家から出ることになるからな、寂しく感じる。
お昼を食べ終えてからすぐに村長さんの使いが家に来た。1人で村長宅へ向かう。1人で行くのは理由がある。稀にユニークスキルと言って特殊な能力を持って産まれてくる子がいる。親でも子供を悪用しようとする事例があった。そのため、有識者が子供の情報を見て相談することが義務付けられている。村長宅の部屋に通される。
「おうロア坊、よく来たな」
この村の有識者は、高齢で白髪に、立派な髭をはやしたフクルーツ爺さん。現在は村の衛兵をしている。とんでもなく強く元気で、この村で彼に敵う者は誰もいない。それもそのはず、彼は元勇者で、長い間魔族との戦いの最前線に立ってきた本物の強者。彼は後ろに置かれている斧槍を振るい戦ってきた。斧槍は先端が槍、巨大な斧がついている。全体が赤色黒色と子供心をくすぐる、ロアがよだれを垂らす一品。
今では元気な子供だが、小さな頃、身体が弱かったロアの話し相手によくなってくれた。爺さんの冒険談は迫力があって、とても楽しかったようだ。ロアにとっては憧れの爺さんだ。
「良かったなロア、お前には剣の才能があるぞ」
嬉しそうに説明をするロア爺さん。剣と言っても大剣使いや刀使い等、様々なジョブがある。俺のジョブは魔法剣士。両手握りの大きい剣を持ち、剣に魔法をまとわせ相手に攻撃する「魔法剣」を扱うジョブ。早速魔法剣を覚えているようだった。これに関しては後でためそうということに。
レベルについて。レベルは魔獣や魔人を倒すと上がり、その際に能力も上がる。ゲームでよくあるステータス、パラメータが上がるってやつだな。対人戦ではレベルも能力も上がらないが、現実世界のように立ち回り、技術があると強くなるのでまったくの無駄ではない。
「ほれ、この剣を持って集中し、目を瞑ってみろ。頭の中にHP、MPというものが出てきたな? 慣れれば意識せずとも見ることができるようになる」
HPは体力、これが0になると死亡する。MPはマナポイントの略で、武器技や魔法を使う場合このポイントを消費する。マナとは気のような神秘的なエネルギーのこと。これらは休むことで回復する。
「……やはり違うな」
爺さんは髭を触りながら独り言を言うと、急に後ろにおいてあった斧槍を握り、頭上で回転させ俺の喉元に槍部の先端を押し付ける。
「お前は誰だ?」