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勇者からのお願い(二回目)

 問題は発生したが、お互いにどうにか体を洗い終えた。 


「あっ、服、どうしよう…………」とレイチェルが言う。


 レイチェルが先ほどまで着ていた服は川で洗った為、まだ乾いてない。


「これで良ければ」と言いながら、俺は予備の服をレイチェルに貸した。


 レイチェルが俺の服を着ると明らかに大きく、ブカブカだった。

 なんだか、やってしまった感がある。


「なんだか、とても事後っぽい」


 レイチェルが呟いた。


「君ってどこでそんな言葉を覚えてくるんだい?」


「しょ、小説で……」


 そういえば、さっきも「小説みたいに……」とか言っていたな?

 …………ちょっと待て。

 それって普通の小説か?


「レイチェル、君が読んでいる小説って、頭に『官能』って付くのかい?」


「………………」


 レイチェルは視線を逸らした。


 勇者っていうやつは世間でいうほど高潔な者でもないらしいな。

 年相応に思春期だ。


「あっ、何笑っているの? ふしだらな女だって思ったんでしょ?」


 ふしだらな女、って単語、普通は出てこないだろ。

 レイチェルはどれだけ官能小説を読んでいるんだ?


「そこまでは思ってない。思春期だな、くらいには思っているよ」


 俺がからかうように言うとレイチェルは「む~~」と声を出し、頬を膨らませる。


「子供扱いをしないでくれるかな? あっ、でも、だからって、『じゃあ、大人になろっか?』みたいな展開はちょっと急すぎるっていうか…………」


「…………とりあえず、小説と現実の区別を付けようか? 現実は君が読んでいる小説みたいな展開にはならないよ」


 俺が冷静に言うとレイチェルは顔を赤くして「分かってる!」と言った。


「とにかく、早く寝ようか。明日、軍に合流してこの呪いをどうにかしてもらおう」


 俺が言うとレイチェルは急に真面目な表情になった。


「アレックス、我儘を言ってもいい?」


 レイチェルは緊張していた。


「なんだい?」


「軍に戻らず、このまま実家に向かって欲しいの」


 レイチェルは握っている手をギュッとした。


「こんな無茶を言ってごめんなさい。でも、もし願いを叶えてくれたら、お礼はする。私の全財産を上げてもいい。多分、アレックスが一生暮らせるくらいのお金があると思う」


「君を実家に送るだけでその報酬は過剰だと思う。…………そんなことを言う理由を聞いてもいい?」


「もし、このまま軍に戻ったら、私だけでなく、アレックスも軍に拘束されるかもしれない。それに呪いを使って、碌でもないことが起きるかも…………」


「どういうことだ?」


「多国籍軍は魔王を討伐する為に集まったけど、一枚岩じゃないの。魔王打倒は新しい火種になる」


 少し子供っぽいと思っていたレイチェルが今度は大人の表情になる。


 勇首とは各国が一人保有している戦力であり、今回の戦いでその拮抗が崩れてしまった。

 それが原因で起きる各国の軋轢をレイチェルは警戒しているようだ。 


「そうか、分かったよ」


 俺があっさりと了承するとレイチェルは驚いて目を丸くする。


「拒否しないの?」


「君は拒否されると思ったことをお願いしたのかい? 俺が勝手に首を突っ込んだ。最後まで付き合うよ。ほら、猫とか犬を拾ってきたら、最後まで面倒を見るのと同じさ」


「子供扱いの次はついにペット扱い!? …………あっ! もしかして、アレックスには女の子をペットにしたいっていう願望があるの!?」


「ごめん、少しからかうつもりが、そんな返しが来るとは思わなかったよ。君って、どれだけ多種多様の小説を見ているんだい?」


「い、一般教養程度だよ…………」


 レイチェルは視線を逸らす。


「いや、一般常識では咄嗟に『女の子をペットにする』なんて言葉出てこないよ」


「それはアレックスが誘導したから言っちゃったの!」


 俺って、そんな誘導したか?

 いや、してないよな?


「と、とにかく、ありがとう」


 レイチェルはそう言って、強引に話を終わらせた。


「さてとそろそろ早く寝るか。その前にこれで縛らないとな」


 俺は長いタオルを取り出す。


「ど、どこを縛る気!?」


「逆に聞くけど、お互いが握っている手以外に縛る場所があるかい?」


 俺は答えるとスーッと真顔になった。


「ウン、ソレ以外ナイネ」


 なぜかレイチェルの話し方がぎこちなくなった。

 また、碌でもない妄想をしたな。


 もう疲れたから、突っ込まないけど…………


 俺たちは自由に使えるお互いの片手ずつを使って、どうにか握っている手をタオルで縛った。


「ねぇ、縛った後に言うことじゃないけど、アレックスの右手を縛っちゃって大丈夫なの?」


 レイチェルはそんな心配をした。


 俺もレイチェルも右利きだ。

 食事の時とか、俺が左手で食事をしたので苦労したが、別に寝る時は何も問題無い。


「ほら、さっき体を洗った時、アレックスのアレックスが、こうじゃなくて、こうなって、私のお尻に当たったでしょ?」


 レイチェルは自由に動かせる右腕を横から縦にした。

 おい、その動き止めろ。


「起ったら、処理しないと何でしょ? 大丈夫、私、隣でアレックスの息が荒くなっても聞かないふりをするから!」


 起つとかいうな!

 それに聞かないふりって、聞くつもりじゃねーか!


「余計なお世話だ! もう静まったし、問題無い!」


「えっ、抜かなくても鎮まるなの!?」


 抜くとか言うな!


「とにかく、大丈夫だからもう寝るぞ!」


 俺はこれ以上の会話を拒否して横になる。


「うわっ!」


 レイチェルも引っ張られて、横になった。


「………………!」

「………………!」


 お互いの顔が至近になり、恥ずかしくなって二人とも逆を向いた。


「…………ねぇ、この後、何も起こらないよね?」


 レイチェルは少し不安そうに言う。


「ああ、何も起こらない」


 俺は即答した。


「…………そっか」


 レイチェルの言葉を最後に俺たちは会話を止めた。


 こんな状態で寝れるか心配だったが、緊張よりも疲労が強かったらしい。

 いつの間に寝てしまっていた。


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