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能力の欠陥

「約束は守ってよ。私が言ったんだから、アレックスも言って」


 レイチェルは少し怒ったように言う。

 勇者を呼び捨てにするなんて、違和感があるけど約束は約束だ。


「これからよろしく頼むよ、レイチェル」


 俺がさらっと言うとレイチェルは顔を赤くした。


「なんだか、急に距離が縮まったみたいで照れるなぁ…………」


 レイチェルは体をもじもじさせる。


「実は俺もだよ。おかわりはいるかい?」


 俺が言うとレイチェルは器を前に出す。


「うん、まだ食べる」


 その後、レイチェルは二回おかわりをした。


「うん、空腹はどうにかなった」とレイチェルはだらしなく横になる。


「行儀が悪いな」


「行儀は習ってないもん」とレイチェルは笑いながら言った。


 勇者とは高潔な人種かと思ったが、こう見ると普通の少女だ。


 …………さてと、これから起きる問題点をそろそろ説明しないといけない。


「さて、レイチェル、大事な話をしないといけない」


「んっ?」


 レイチェルは眠気に襲われたらしく、気の抜けた返事をする。


「俺の能力は俺と君の体の一部が触れていないと発動しない。もし、今握っているこの手を放せば、君は周囲の全てを枯らす災厄になってしまうだろう」


「それは分かってる。だから、私は今もアレックスと手を握っている」


「そう、だから、手を放せない」


「うん」


「食事の時も」


「うん」


「寝る時も」


「うん……」


「トイレの時も」


「……うん?」


「体を洗う時も」


「うん??」


「何をする時も俺たちは二人で離れることが出来ないんだ」


「う~~ん???」


 レイチェルはやっぱりそこまで考えていないようだった。


「ちょ、ちょっと待って! アレックスの能力って少しでも離れると駄目なの!?」


「残念ながら、凡人の俺が持っているのはこの程度の能力なんだ」


「そ、そんな…………ねぇ、アレックス、意識したらトイレに行きたくなった……………!」


 レイチェルの顔から血の気が引き、青くなった。


「えっと、じゃあ、森の方でどうぞ。あっ、紙ならあるよ」


 俺は魔法鞄の中から使い捨ての紙を取り出す。


「紙の心配はしてないよ! もっと大きな問題があるでしょ!」


 レイチェルの顔は真っ赤だった。


「大丈夫、俺は女の子の排泄で興奮するような変態じゃない」


「アレックスが変態かはともかく、私が恥ずかしいの!」


 最もな意見が返ってきた。


「ううぅ…………」


 レイチェルは体をもじもじとさせる。


「諦めたらどうだ? 慰めになるか分からないけど、俺だってトイレとかお風呂を見られるわけだし…………」


「本当に慰めになってないね!」


 それからしばらくレイチェルはどうするかを考えていたが、結局限界が来たようで俺を引っ張って、森の方へ走っていた。


 ただし、レイチェルは俺に対して音を遮断する魔法をかけた上で目隠しをした。

 その為、何があったかは分からなかったが、目隠しを取ったら、レイチェルは顔を真っ赤にした。


「人の……しかも男性の前で私は……もうお嫁に行けない……」


 などとかなり落ち込んでいた。


「ごめん、立て込んでいるところ悪いんだけど、俺もトイレをしたいんだけど?」


「えっ、あっ、うん。いいよ」


「…………」


「どうしたの?」


「君がトイレをする時は目隠しをして、しかも音まで遮断したのに俺は何も無しかい? 音を遮断する魔法が使えないから、せめて目隠しだけしてもらっても良いかな?」


「えっ、アレックスは女の子に目隠しをさせて、トイレをする変態なの?」


「……君はどうあっても俺を変態にしたいのかい? 一応、恩人だと思うんだけど? 俺だって恥ずかしいんだよ。女の子に見られながらしたことなんてないし」


「いきなり童貞宣言?」


 間違っちゃいないが、失礼だな。

 レイチェルの性格を少し誤解していたかもしれない。


「レイチェル、君は少し道徳を学んだ方が良いかもしれないな。とにかく、目隠しを要求する」


 俺が目隠し用の布を出すとレイチェルは考える。

 そして、笑顔になった。


「そうだ、私は周囲を警戒する為に視界を遮るわけにはいかないの」


 どうやら、目隠しをしない理由を閃いたようだ。


「もっともだが、さっきは俺、目隠しされたよな?」


 すると、ふふん、と得意げな顔になる。


「アレックスは弱い。私は強い」


「んっ?」


「だから、もし、突然、魔物に襲われたら、私が対処することによね? よって、私は目隠しをしない!」


 レイチェルは力強く宣言する。

 というか…………


「レイチェル、君、まさか男の体に興味があったりするのかい?」


 俺が言うとレイチェルは視線を逸らした。


 …………おい。


「17歳の私が男の体に興味を持つことは自然なこと!」


 開き直りやがった。


「英雄や勇者は古来から色を好むって言うけど本当みたいだね」


「その言い方はやめて! 私、別に男性経験ない! だから、見たい気持ちが強くて…………あっ」


 勝手に白状した。


「あ~~、そうなんですね」


「やめて。敬語に戻らないで!」


「レイチェルさん、今日ももう遅いですから、明日、軍に合流しましょうか」


「謝るから! 見ないから! 距離を置かないで! アレックスは初めて出来た異性の友達なの!」


 結局、レイチェルには目隠しをしてもらうことになった。

 そもそも、レイチェルほどの強さがあれば、目が見えなくてもその辺の魔物くらいならどうにかしてしまうだろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 多分真の問題は風呂かな 片手使えないからどうしても十分に体を洗うには相手の協力がいる
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