記念日
「でもララちゃんがあなたみたいになったら、グレンとのことも考えないといけないわね」
「ジェーシまで!? 酷いよ……」
俺たちの会話の外でララがグレン君に近づく。
「ねぇ、グレン、私たちの子供、ほしい?」
外から見たら、微笑ましい少女の発言だが、ララは子供の出来る仕組みをすでに理解してしまっている。
「俺たちの子供? うん、ほしい」
一方、グレン君は分かっていないようだ。
いや、まぁ、それが当然だよな。
「えっとね、じゃあ、あと三年くらい待ってね。そうしたら、準備が出来ると思うから」
「準備?」
ララの言う『準備』の意味が分からずにグレン君は難しい表情をした。
「準備っていうのは私の…………モガガ……」
俺はララの口を塞ぐ。
「何をするの、お父さん?」
「グレン君にあまり変なことを教えちゃいけないよ」
こういう知識も教えないといけないのだろうが、今はまだ早い気がする。
特にグレン君の教育に悪影響を及ぼしそうだ。
それに後でジェーシに怒られるのは俺なんだからさ。
「まぁ、恋愛をやることは大いに結構だが、さすがにもう少し待ってほしいな。俺もジェーシも三十を過ぎたばかりでお祖父さんや、お祖母さんになりたくない。アレックスやレイさんもそうだろ?」
ジャンが言う。
まぁ、確かにな。
でも、今の様子だと俺は四十代でお祖父さんになりそうだ。
「私は気にしないけど? 家族が増えるのは嬉しいし」
レイチェルが言う。
俺たち大人組は苦笑した。
「レイチェル、君はまったく……」
それはさすがにもう少し待ってほしい。
「さてと楽しい話はこれくらいにして、そろそろゴブリン討伐に行きたいんだが? 今日は早く終わらせたいだろ?」
ジャンが笑いながら言った。
「今日って、何かあるの?」とレイチェルが言う。
そういえば、レイチェルって記念日とかもあまり気にしないんだよなぁ。
「なんで自分たちの結婚記念日を忘れるのかしらね」
ジェーシが苦笑しながら言うとレイチェルが「あっ」と言う。
「ご、ごめん、アレックス! 私ったら…………!」
「君らしくて安心するよ。今日は鳥肉たっぷりのシチューの他に鳥の丸焼きも作る予定さ。あっ、鶏肉が被るのは嫌かな?」
「ううん、私はどっちも大好き」
「それは良かった。この前、お義父さんと会った時、君が好きなワインをもらったんだ。それも開けようか。食後にはアップルパイも用意するからね」
それを聞くとララとリリーが「お父さんのアップルパイ!」と口を揃えて喜んだ。
グレン君は複雑な表情になる。
「大丈夫、グレン君も一緒に食べようか」
俺が言うとグレン君も嬉しそうに「うん!」と答えた。
「この子ったら、私の料理よりもアレックスの料理の方が好きなのよね」
ジェーシは不満そうだった。
「まぁ、結婚したばかりの時は本当に酷かったからな。戦場の飯の方がマシだった」
ジャンが当時を思い出し、苦い表情になる。
「んっ? あなたのご飯、明日から黒パンだけにしようか?」
「おっと、悪い悪い。それよりもグレンだけ招待、ってわけじゃないよな、親友?」
ジャンが俺に肩を組む。
「もちろん、君たちも一緒だよ。てか、最初から俺たちが断るなんて思ってないだろ?」
ジェーシは食材の入った籠を持ってきていた。
「さすがにただでご馳走になるわけにはいかないでしょ。ベーコンとか、チーズとか、あとお酒もね」
「結構な量になりそうだね」
「私がいれば、大丈夫です」
レイチェルは胸を張る。
その姿を見て、俺たちは笑った。
「さてと、じゃあ、行ってくるぞ、ジェーシ」とジャンが言う。
「私も行ってきますね、アレックス」
レイチェルは言いながら、俺にキスをした。
ララの視線を感じる。
でも、俺が見るとララはジェーシへ視線を移した。
「ジェーシさんはジャンさんと行ってきますの、キスをしないの」
ジェーシはララと視線を合わせる為にしゃがんだ。
「ララちゃん、あなたの両親は頭の中がお花畑だから、人前でああいうことをするけど、普通はしないのよ」
などとジェーシに酷いことを言われてしまった。
「確かにジェーシが甘えるのは俺と二人の時だけ……ぐふっ!?」
ジェーシがジャンに肘打ちをする。
「あなたは余計なことを言わなくていいのよ」
ジェーシは少し顔を赤くした。
「ふふふ、ジェーシだって、人のことを言えないね」
「あなたと一緒にしないでよ」
ジェーシはレイチェルに抗議する。
「さて、じゃあ、ゴブリン討伐は頼んだよ。俺はジェーシと料理を作って待っているからさ」
俺の言葉にジャンは「おう」と言い、レイチェルは「「うん!」と言って出発した。




