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親娘の言い争い

「少しだけ気持ちを整理させてくれ」


 解呪師たちが帰った後、フリード様がそう言い残し、部屋から出て行く。


「お父様、お話したいことがあります」


「分かった。気持ちに整理が出来たら、お前の部屋を訪ねる。それで良いか?」


 レイチェルは「分かりました」と返した。


 俺たちも一旦、レイチェルの部屋へ戻った。

 かける言葉が見つからない。


 この結末は予想できた。

 でも、いざ現実になるとどんな言葉も慰めにすらならない気がした。


「やっぱりこうなっちゃった」


 レイチェルは部屋に戻るとベッドに座った。

 当事者の彼女の方が俺やフリード様より淡々としている。


「もう、お父様もアレックスも沈み過ぎだよ」


「そうだな……」と言ったが、俺自身で驚くほど声に力が無かった。


「じゃあさ……」


「!?」


 レイチェルは俺の腕を思いっきり引っ張った。


「気分転換に良いことする?」


 レイチェルはそのまま俺をベッドに押し倒し、馬乗りでそんなことを言った。

 

「また君は…………!」


 俺はレイチェルの悲しそうな表情を見て、言葉を止めてしまった。


 レイチェルは馬乗りの体勢からうつ伏せに倒れて、完全に俺と体を密着させた。


「ふざけてない、よ。私、アレックスなら良いよ……ほら、ここまで連れて来てくれたお礼ってことでさ」


 囁くレイチェルの声は震えていた。

 俺はこの状況が分からなかった。


 なんでレイチェルはいきなりこんなことを言い出しだんだ!?


「レイチェル、一旦落ち着こう! いつ、フリード様が来るか分からないし、今は君も俺も動揺しているんだと思う。だからさ…………」


「そう、だよね……ごめん」


 レイチェルはゴロンと体を半回転させて、俺の上から退いた。

 そして、俺の横で仰向けになる。


「ねぇ、アレックス?」


「なんだい」


「お父様と話をしている間、アレックスの周囲に『防音の魔法』をかけても良いかな? ちょっとお父様と二人で話がしたいの」


「分かったよ。じゃあ、俺はその間、レイチェルと背中合わせになっているね」


「うん、ありがとう」


 俺たちは無言で仰向けになっていた。


 どれだけ時間がったのだろうか。

 やがて、部屋のドアがノックされる。


「入って良いか?」とフリード様の声がした。


 レイチェルが「どうぞ」と言い、ドアが開く。


 深刻な表情のフリード様が入って来た。


「椅子に掛けてください」


 レイチェルに言われ、フリード様が椅子に座る。


 同時にレイチェルが『防音の魔法』を使ったらしく、俺の周りが静かになる。


 俺はレイチェルと背中合わせになった。

 会話は聞こえないし、二人の表情も見えない。


 レイチェルがしゃべる時の僅かな震動だけを背中越しに感じる。


 最初は穏やかに話しているようだった。


 しかし、途中から声を荒げているのが分かる。


 気まずかったし、気にもなったが親娘のやり取りを勝手に見るわけにはいかない。


「!?」


 突然、背中に衝撃が走った。


(なんだ!?)


 さすがに振り向いてしまった。


 するとフリード様がレイチェルの両肩を掴んでいた。

 様子から察するに怒鳴っているようだ。


 一瞬だけフリード様と視線が合ったが、すぐに俺は振り向いた。


 この光景は絶対に見ちゃいけない。


 その後も怒鳴り合っている気配がした。

 絶対に振り向かなかった。


 この仲の良い親娘がここまでの言い合いをするなんて尋常じゃない。


 かなり激しく、そして長く言い争いは続いた。

 長く感じた、と言うだけではなく、本当に長い時間、日が沈むまで二人は言い争いをしていた。


 そして、俺の世界に音が戻った時、フリード様はすでに部屋の中にはいなかった。


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