二日酔いの朝
次の日、起きると頭がとても痛かった。
「二日酔いになるまで飲むなんてらしくないな……」
昨日のことを覚えている。
それを思うと恥ずかしくなった。
レイチェルに冷たくしてしまった。
謝ろう…………んっ?
俺の右手首には昨日、フリード様からもらった魔法薬が塗られているらしく、レイチェルの手を完全にくっついていた。
俺が酔い潰れた後にレイチェルが塗ってくれたのかと思ったら、さらに情けなくなった。
レイチェルはというと少し無理な態勢で俺に背中を向けていた。
なんだか、右手を必死に動かしているようだった。
…………まさか。
「ア、アレックス!?」
俺が目を覚ましたのに気付いたレイチェルは素早く何かをベッドの下へ隠した。
「アレックス、絶対にベッドの下は見ちゃ駄目だよ」
「うん、分かったよ」
俺は気まずくなって視線を逸らした。
するとレイチェルはさらに焦ったようで、
「アレックス、勘違いしている! 私、アレックスが考えているようなことを今はしてないよ! ほら、手だって綺麗でしょ!」
今回、俺の予想が外れたようだ。
もし、またレイチェルが一人でお楽しみだったら、こんなに堂々と手を見せてこないだろう。
…………んっ?
でも、手は奇麗じゃないな。
「これはインクかな?」
レイチェルの手が少しだけ黒くなっていた。
じゃあ、手紙を書いていたってことか。
「これは気にしないで。それから絶対にベッドの下は見ちゃ駄目だよ」
レイチェルは念を押す。
誰かに向けた手紙だろうか。
もしかしたら、レイチェルの思い人とか……
そんなことを考えたところで俺は頭を振った。
昨日からどうも考えが歪んでいる気がする。
「アレックス、どうしたの?」
「ううん、何でもないよ。分かった。下手に色々な場所を見て、またとんでもないものを見つけたりしたくないからね」
俺がベッドから起き上がろうとした時だった。
ベッドから何かがゴトン、と床に落ちる。
「…………」
「…………」
とても既視感があった。
それを見て俺たちは硬直する。
方や、見られたくないモノを見られてしまい、方や、衝撃的なものを見て、絶句してだ。
「待って……!」
レイチェルが止める前に俺は床に落ちた「それ」を拾った。
それとは男性器の形をした魔道具だ。
士官学校時代に面白半分で宿舎に持ち込んだ悪友がいたので知っていた。
これって確か、魔力を流すと…………
俺の記憶は正しかったようで、魔力を流された魔道具は「ブゥゥゥゥ」という音を立てて、震動し始めた。
「これなら手は汚れないね」
やっぱり、と言うべきだろう。
レイチェルは昨日、俺の裸を見たはずだ。
新鮮なオカズを入荷したのに何もしないなんてありえなかった。
「アレックスは勘違いしているよ。私は朝はしていない。夜にやったの!」
「それ、言い訳にもなっていないからな」
むしろ、単純な自供ではないだろうか。
「それにしてもこれが入るなら、俺のなんて…………」
俺は途中で言葉を止める。
さすが言い過ぎたと思った。
怒られるかと思って、レイチェルの顔色を窺うと、
「それは中に挿れてないから! 中には何も入れたことないよ! 膜は無事だよ!」
などと言い始めた。
「気まずくなることを言わないでくれるかな!?」
「とにかく返して! 匂いを嗅いだりしたら許さないからね!」
レイチェルは俺に迫った。
「するはずないだろ! おい、返すからやめ……」
俺たちはバランスを崩して、ベッドから転げ落ちた。
間が悪いことにそのタイミングでレイチェルの部屋のドアが開く。
「やぁ、二人とも私が朝食の出来たと伝えに来たぞ!」
フリード様が勢いよく入って来た。
「「「…………」」」
三人とも固まる。
フリード様の後ろではブラッドさんが視線を逸らしていた。
メイドさん二人は好奇の視線を俺とレイチェルに送って来る。
「あ……すまない。朝食は、ことが終わった後で良いからな」
「お父様、部屋に入る時はノックをしてください!」
「おっ、小説でよくある台詞だな。なるほど、実際に言われるとこんな感じなのか。ゆっくりでいいからな。慎重にやるんだぞ」
フリード様は言いながら、そっとドアを閉じた。
「ちょっと待ってください! 誤解なんです!」
その後、俺はフリード様の誤解を解くために必死に説明した。
その結果、誤解は解けたのだが、
「なんだ、もっと面白い展開を期待していたのにな」
と言われてしまった。
理不尽過ぎる……