雑談①
俺とフリード様が話をしているとレイチェルが、
「お父様は昔から女性が大好きでしたものね」
と言いながら、会話に参加してきた。
娘にそれを知られているのは嫌じゃないのだろうか。
「私のお母様だって平民の出だったのに浴場で押し倒しましたし」
そうだった。
レイチェルはそんなことを話していた。
フリード様は娘に色々と把握されている。
「ああ、セレナは本当に良い体をしていたな。そんな女性が浴場で薄い布の一枚でいるんだ。手を出すな、という方が無理じゃないか?」
今更だが、レイチェルが性的なことに抵抗が無い上、関心が強いのは父親の影響だろう。
「だから、二人の状況を聞いて絶対にもうヤってしまったと確信したのだがな。本当に何もしていないのかね?」
「何もしていないわけじゃないですよ。裸を見せたり、胸を揉ませたり、股間に顔を埋めたりはされました」
「レイチェル、二回も同じことを言わないでくれ!」
俺は思わずいつもの調子でレイチェルに突っ込みを入れてしまった。
「レイチェル?」とフリード様は首を傾げる。
「あっ、えっと、その……」
王族の娘を呼び捨てはまずい。
俺はさすがに怒られると思ったが、
「ああ、そうか。勇者としてはレイチェルで通していたな」
フリード様は思い出したように言う。
「レリアーナもレイチェルも今となっては私の大切な名前です。だから、アレックスが私のことをレイチェルと呼ぶことを許して欲しいのですが……」
「レリアーナがそうしてもらいたいなら、好きにすると良い。アレックス君、今まで通りに呼んであげてくれ」
「えっ、あ、はい。分かりました」
「不思議そうな顔をしているね」
「…………私は王族の方はもっと平民と壁を作っているものだと思っていました」
不興を買ってしまうかもしれない、とは思ったが聞かずにはいられなかった。
親しみやすいフリード様のことが気になってしまった。
「確かにそういった価値観を持つ王族や貴族がいるのは事実だ。私のような者が少数派だというのは自覚している。…………さっきも言ったが私は若い頃から身分を隠して街で遊んでいた。そこで人と接するうちには王族とか貴族とか平民とは所詮、身分でしかない、と思ったのだよ。人は所詮、人だ」
少し変わっているが、フリード様には好感が持てた。
「それにしても君は本当に意志が強いのだな。私がもし君くらいの歳で同じ状況なら『助けてやったんだ。お礼はどうすればいいか分かるよな?』と言って、襲っていたと思うぞ」
「…………」
「親の私が言うのも変だがレリアーナはかなり美人だと思うのだが? 確かに少しだけ胸は残念だが……」
「お父様、私と喧嘩をしますか?」
レイチェルの声は低かった。
レイチェルの胸が残念?
いや、普通にあると思ったけど、というか女性の胸を直に見たのなんてレイチェルが初めてだから比較ができない。
ジェーシと比べると確かに少しだけレイチェルの方が小さい気がするけど…………
「アレックス、何を見ているの?」
レイチェルは胸に自由になっている右手を持っていき、隠す。
「えっと、あはは……」
「まぁ、怒るな。レリアーナ、小さい胸というのも需要があるんだ。少し特殊な分野になるが……」
「娘を特殊な分野、って言わないでくれますか……私は別に小さくないです。たぶん……。お父様の周りの女性がみんな、胸が大きいだけです」
一体俺は何を見せられているのだろうか?
仲が良いのは喜ばしいが、親娘でそんな会話をされると反応に困る。
「レイチェル、お前だって子供の頃から胸の大きなメイドを見つけては揉んでいたじゃないか」
「私は女で、子供だったから大丈夫です」
いや、大丈夫じゃないだろう。
この親娘は昔からこんな調子だったのだろう。
「だからレイチェルがこんなことになっちゃったのか。分かった気がするな…………」
「こんな、って酷くないですか?」
レイチェルが俺の顔を不機嫌そうに覗き込んだ。
「えっ?」
どうやら口に出てしまったらしい。




