小説の内容と誤解
冒頭部分はレイチェルの父親の小説の内容になっております。
ご了承ください。
ローブを脱がしたら、もうリエルは何も着ていなかったのだ。
「やっぱり気付いていなかったな?」
リエルは自身の裸体を胸は両腕で、下の方は脚を交差させて隠す。
「リ、リエル、お、お前……お前……! は、裸……!」
俺は突然のことで何を言えばいいか分からなくなった。
「動揺し過ぎ。私とハヤテはこれからもっと凄いことをするんだろ?」
リエルは真っ赤な顔でニカッと笑った。
「あっ…………えっ…………そう、だな…………」
リエルからこんな奇襲を受けるとは思わなかった。
こんなことが出来るとは思っていなかった。
「…………ブルムが夜に会いたいって言った時からこういうことを予想していた。ううん、期待していた。もし、何もせずに帰ろうとしたら、私の方から迫るつもりだったからな。だから、私の準備は出来ているぞ…………」
言い終えるとリエルは深呼吸をしてから後ろに倒れた。
そして、ゆっくりと胸を隠していた両手をどけ、交差させていた脚を開く。
二つの小さな膨らみと秘部が露になる。
「今、私、ブルムに裸を見せてる……」
右手でシーツを掴み、左腕で顔の上半分を隠した。
リエルの肌は白くて、とても奇麗で…………
…………って、これ、官能小説じゃないか!!
レイチェルも隣で小説を覗き込んでいた。
「お父様、この二人って処女と童貞ですか?」
おい、レイチェル、父親になんて質問をしているんだ!?
「そうだ、これは童貞と処女の初体験だ」
おい……じゃなくて、あのフリード様、娘になんて返答をしているんですか!?
「初体験を物語の終盤に持ってくるということは今回の小説は純愛なのですか?」
「そうだぞ。これは異世界から現れた青年が偶然に森で奴隷のハーフエルフと出会うところから始まり、ハーレムを作るんだ」
「でも、お父様の小説、ハーレムを作ったら、その後はすぐにまぐわう展開じゃないですか?」
まぐわう、なんて言葉、普通はすぐに出てこないし、実の父親に言う言葉じゃないぞ!
「だから、この小説は新しい挑戦なんだよ。お色気展開はあっても、中々一線を越えない。そのもどかしい部分に小説の大半を使って、最後に爆発させるんだ。で、どうだった?」
フリード様は俺に感想を求めて来た。
「い、いや、だとしたら、情事の部分だけ読んでも魅力が半減してしまうのではないですか?」
相手は王族と言うことが俺に突っ込みを思い留まらせた。
「いやいや、君に聞いているのは小説の感想じゃなくて、童貞を捨てた時のリアルさについてだよ」
…………ん?
何を言い出した?
「私は十三の時にメイドと色事に及んで、童貞を捨ててしまったんだ。だから、大人になってから、童貞を捨てるという感覚や価値観がどうも分からなくてね」
おい、こいつ……じゃなかった。
この方は娘の前で何を言い出したんだ。
「キュリナおばさんのことですよね。今も奇麗ですものね。子供の頃のお父様が劣情を抱くのも分かります」
レイチェルが言う。
どうやらレイチェルも知っているようだ。
もう嫌だ、親娘…………
「で、どうだい? この童貞卒業はリアルに書けているかな?」
フリード様は俺に真剣な視線を送って来た。
「そんなことを聞かれても困ります。だって…………」
童貞、と言いかけて言葉が詰まった。
それを宣言するのは恥ずかしい。
「お父様、アレックスは童貞です。感想は聞けませんよ」
レイチェルが要らない説明をしてくれた。
なんで俺の個人情報を勝手に公開したんだ!
「い、いや、レリアーナ、彼は軍人なのだろ? 軍人と言えば、娼婦の館で夜を過ごすものじゃないのか?」
どうやら、フリード様には情報の偏りがあるようだ。
「そう言う人もいます。でも、俺……私はちょっと仕送りとかをしていて……」
俺の育った村の主な収入源は畑の作物や森で取れる動植物だが、不作になると小さな村なので一気に厳しくなる。
それに魔物からの襲撃もあるので村を囲う策なども必要だ。
色々と行うには金が要る。
「そうだったのか。若いのに献身的な青年だ。…………だが、金を払わなくても性交は出来るだろう?」
ずいずいと来るな……
「残念ながら、そんな機会はありませんでした」
俺がそう答えるとフリード様は首を傾げる。
「まさか、そんなことは無いだろう。なぁ、レリアーナ?」
フリード様はレイチェルに視線を向けた。
……え?
なんで?
レイチェルは話を振られた理由が分かっているようだった。
「さっきも言いましたが、アレックスは童貞です」
……二回刺された。
「私とも何もありません」
……あっ、フリード様は俺がレイチェルに手を出したと思っているのか!?
「間違いないのか?」とレイチェルが聞くと
「はい、間違いないです」
レイチェルは即答した。
レイチェルが宣言するとフリード様の視線は再び俺に向けられた。
その視線は怒っているようだ。
えっ、なんで!?
「ここへ来るまで色々とあったはずなのになぜ手を出さない? アレックス君、私の娘はそんなに魅力が無いのかね? 手を出す価値が無いと?」
なんか変な怒り方をしている!
「いえ、そんなわけではありません! でも、付き合ってもいない内にそういうことをすべきではないかと……」
「男が何を言っているんだ! 私が君くらいの年の頃は身分を隠して街へ遊びに行き、女性に声をかけ、朝まで一緒に過ごしたものだ」
それはあんたが特殊なんだよ! と声が出そうになってしまった。




