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センドの街

 俺たちはレイチェルの故郷『センド』の街へ向かう旅を再開する。


 俺もレイチェルも呪いについてはあまり口にしようとはしなかった。

 深く考えて、これ以上、気持ちが沈むのは嫌だし、楽観して「大丈夫」なんて言えることでもない。


 幸い、レイチェルはそこまで暗くならなかった。

 普通に食事をするし、会話もする。

 まぁ、ちょっと油断すると会話が小説の話になるのは正直反応に困るけどさ。


 というか、レイチェルは官能小説にしか興味が無いらしく、俺が士官学校時代に読んだ有名な小説のタイトルをいくつか挙げてみたが、まったく分からないようだった。


 一体どうすれば、普通の小説を経由しないで官能小説に辿り着くのだろうか?



 レーテ村を出発してから十日後、俺たちはゴシユア王国領のセンドの街へ到着する。

 正直、俺はこのゴシユア王国のことをあまり知らない。


 知っているのは列強の中で二番目の国力を有している強国で、センドの街が王都の次に栄えている第二の都市であることぐらいだ。


 そして、ここで一つ、問題が発生する。


「街にどうやって入ろうか?」


 ここまで村や街、関所には何度か寄ったが通行料を納めれば、問題無く入ることが出来た。


 これは戦争による各国共同体制が形成されたからだ。


 しかし、ゴシユア王国の重要都市ならそれなりに警備は厳重だろう。



 悩む俺に対して、「心配ないですよ」とレイチェルが言った。


 確かにゴシユア王国の勇者であるレイチェルなら、街へ入る権利はある。


 しかし、死んだはずのレイチェルが生きていたら、大騒ぎになるだろう。

 そうならない為にここまで俺たちは正体を隠して移動してきたのだ。


 今も魔法で容姿は変えているし、今更、正体を明かすことはしないと思う。

 だとしたら…………


「もしかして、強硬突破とか考えていないよね?」


 俺が言うとレイチェルはムスッとした。


「私がそんなことをする狂戦士に見える?」


 どうやら違うらしい。


「だったら、どんな作戦で城門を突破するんだい?」


「正面から行きますよ。大丈夫、私に任せてください」


 レイチェルは自信があるようなので、任せることにした。


 馬車を引いて街へ入る門前まで進む。


「身分を証明できるものを提示せよ」


 門前では少しだけ高圧的な衛兵が俺たちの対応をする。


 本当に大丈夫か?

 小細工が通用しそうな相手じゃ無さそうだぞ。


「これで良いですか?」


 レイチェルはスッと宝石の埋め込まれた短剣を衛兵に手渡した。


 渡された衛兵は表情を変える。


「これはあなたの私物ですか? しかし、これを持っているのは…………」


 衛兵は動揺していた。


「はい、私の私物です。理由があって、顔を変えています。ギースさん」


 レイチェルは名乗ってもいない衛兵の名前を呼んだ。

 それは当たっているらしく、衛兵のギースさんは背過ぎを伸ばす。


「騒ぎを起こしたくありません。通ってもよろしいですか? それから私たちは馬車を引いて、ゆっくりと進みますから、屋敷への連絡を頼めますか?」


「か、かしこまりました」


 ギースさんは声を小さくして、頭を下げた。

 そして、馬を使って、街の中へ駆けていく。


「さてと私たちも行こう?」


「君はやっぱり貴族なのかい?」


 衛兵の態度の変化を考えると自然とそういう結論に辿り着く。


「前にもちょっと言ったけど、貴族……みたいなものかな。でも、まぁ……あとで話すね。それから私の正体を知っても今まで通りに接してほしいかな」


 レイチェルは少し心配そうに言った。


 俺たちは街の中を進んでいく。

 街にも魔王打倒の報は届いているようで祝勝の雰囲気で溢れていた。


 それとは別に死んだことになっている勇者レイチェルを偲ぶ様子も伺える。


「変な気分……」


 レイチェルは周囲に防音の魔法をかけてから、俺に話しかける。


「私は生きているのに死んだことになっている」


 レイチェルは悲しんでいるとか、怒っているとかではなく、ただただ不思議そうだった。


 そして、俺たちはゆっくり歩き、街の中心までやって来た。

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― 新着の感想 ―
[一言] 文章を読む習慣はあったけど娯楽小説や文学を読むことは無かった、といったところに父親の蔵書の官能小説を発見とからなら読書歴が官能小説から始まる?
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