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呪いの解析結果

 俺たちは川で水浴びをして、朝食を食べてから再び村へ向かう。

 そして、ジェーシの家を訪ねた。


「やぁ、お二人さん、昨日はお楽しみだった…………?」


 ジェーシの言葉に昨日のキレはなかった。

 眼の下に酷いクマが出来ている。


 いや、お楽しみだったのはレイチェルだけで…………いたた!


 別に何も言っていないのに、レイチェルは俺の足を踏んでいた。


 俺を睨みつける。

 大丈夫だって、ジェーシに言うわけないだろ。


「二人とも仲が良さそう。私は若い体を持て余しているのに…………」


 ジェーシは恨みの籠った声で言った。


「その様子だと徹夜したのかい?」


「そうよ。一睡もしてないわ」


「……それは悪いことをしたね」


「気にしないでくれるかしら、あなたからの頼みを断ったりはしないわ。…………解析結果は中で話すわね」


 ジェーシの声が少し暗くなった気がした。


 俺たちは客間へと通されるのだが、俺はレイチェルと一緒にそのまま台所へ向かう。


 そして、コーヒー豆を見つけた。

 俺はコーヒーを三人分淹れて、客間へ戻る。


「どうぞ」


「ありがとう」とジェーシがコーヒーを受け取り、口を付けた。


「相変わらず、あなたの淹れるコーヒーは美味しいわね」


「そりゃ、どうも。……でもレイチェルの口にはあわなかったみたいだね」


 レイチェルは苦々しい表情をしていた。


「そ、そんなことないよ。お、おいしいな……」


 とは言ったが、二口目を付けることに躊躇っているようだった。


 俺はクスリと笑い、砂糖の入った小瓶をレイチェルの目の前に置く。


「別にいらないよ」とレイチェルはムスッとした様子で答えた。


「そう? 俺は使うけどね」


「そ、そうなの?」


「別に普通だよ」


 俺が砂糖を入れるとレイチェルも真似して、砂糖を入れる。


 今度は好みの味になったようで頬が緩んでいた。


「まったく仲が良いわね。あなたたち、このまま一生、手を繋いでいた方が良いじゃないの?」


 コーヒーを飲んだからか、少しだけ眠気が解消されたジェーシが言う。


「そういうわけにもいかないだろ」


「そう、よね……」


 ジェーシの声がまた暗くなる。


「どうしたんだい?」と俺が尋ねるとジェーシはコーヒーを一気に飲み干した。


「二人とも落ち着いて聞いて頂戴」


 ジェーシは俺を真っ直ぐに見た。

 俺は直感で悪いことを言われると感じる。


「恐らく、この呪いはどうやっても解呪できないわ」


 ジェーシは勿体ぶることも無く、遠回しな言い方もせず、単純明快な結論を言った。


 俺は即座に何かを言えなかった。


「アレックス?」とジェーシが俺の顔を覗く。


「大丈夫、聞こえているよ。ジェーシ、その結論に訂正の可能性はないかい?」


「ないわ。アレックス、レイチェル、あなたたちは魔王にかけられた呪いが一つだけだと思っているみたいだけれど、違うのよ。呪いは二つ、かけられているわ」


「二つだって?」


「そう、二つ、一つ目はもう気付いていると思うけど、周辺の生き物の全ての生気を吸い取ってしまうもの。そして、もう一つは、一つ目の呪いを解呪した時にレイチェルの魔力を暴走させる呪いよ」


「二つ目の呪いが発動したら、私はどうなるの?」


 レイチェルの声は少しだけ震えていた。


「あなたほどの魔力を持つ人が暴走すれば、周囲は焦土と化すでしょうね。被害範囲は予想できないわ」


「そうですか……」


 レイチェルは俺と繋いでいる手をギュッと握った。


「二つ同時に呪いを解くことは出来ないのか?」


 俺が言うとジェーシは首を横に振る。


「魔王の呪いは一つずつだって、最上級の解呪師が集まらないと無理だと思うわ。それを同時に二つなんて不可能よ」


「そうか……」


 俺たちは少しの間、沈黙する。


「もし、私の言ったことが信じられないなら、他の人を当たってみてくれるかしら」


 ジェーシはそう言うが、彼女の呪いに対する知識と技術のことは知っている。

 俺はジェーシが間違っているとは思えなかった。


「そうですね。私の実家へ到着したら、もう一度、お父様の紹介で呪いの分析をしてもらいます」


「そうね。私一人の意見よりもその方が良いわ。でも、レイチェル、あなたはもし結論が変わらなかったら、どうするつもりなのかしら?」


 ジェーシは心配そうに言う。


「大丈夫です。実は解決方法はもう考えています」


 レイチェルは苦笑した。


「そう、なのね……」


 レイチェルとジェーシの二人は言葉以外で何かのやり取りをしたようだった。


「アレックス、レイチェルの離すんじゃないわよ」


 ジェーシの口調は強かった。


「ああ、大丈夫だよ。ジェーシ、突然押しかけて、無茶を頼んで悪かったね」


「良いのよ」とレイチェルは言い、机でうつ伏せになる。

 

 どうやら限界のようだ。


 俺は毛布を背中にかけて、ジェーシの家を出ようとした。


「アレックス、たまには即決しなさい。そうしないといけないこともあるわよ」


 立ち去る寸前にジェーシが言った。


「どういうことだい?」


「…………」


 本当に寝たのか、寝たふりなのか分からないが、ジェーシはそれ以上何も言わなかった。


 村を出る時、村の人たちからジャイアントオークを倒したお礼として、色々なものを持たされた。

 ほとんどは食料だが、レイチェルの食欲を考えるとありがたかった。


「戦争は終わったんだ。今度はゆっくり戻って来いよ。もしかしたら、そっちのお嬢さんはお嫁さんになっているかもしれないな!」


 おじさんはガハハ、と豪快に笑う。


 村の人たちに別れを告げて、俺たちはレイチェルの故郷を目指して再出発した。

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