討伐成功
「私の股間に顔を埋めて興奮した?」
レイチェルが返答に困ることを聞いてくる。
なぜか楽しそうだった。
「……黙秘する」
「ふ~~ん、じゃあ、こっちで確認しようかな?」
レイチェルは体をスーッと俺の下半身の方へ体を移動させる…………って、俺の何で確認するつもりだ!?
「おい、馬鹿なことはやめろ!」
「無駄だよ」
俺が体に力を入れても騎乗しているレイチェルはビクともしない。
身体能力の差を思い知らされる。
「あなたたち、ジャイアントオークの死体の前で何をしているのかしら?」
ジェーシの声がした。
首を動かすとジェーシが視界に入る。
少し呆れているようだ。
「これは事故なんだ! というか助けてくれ!」
「アレックスが私の股間に顔を埋めた」
おい、思春期少女!
俺の立場が悪くなることを言うんじゃない!
「へぇ~~、童貞のくせに随分と積極的になったわね。童貞のくせに」
「おい、ジェーシ、何で二回刺した!? それにレイチェルは早く退いてくれ」
「えっ、これ以上の発展はなし?」
「あるわけないだろ!」
ジャイアントオークの死体が転がる畑で、ジェーシに見られながら、とかレベルが高すぎるだろ!
「別に私は構わないわよ」
おい、ジェーシ、レイチェル側に立つんじゃない!
「そういえば、今度は私がアレックスの股間に顔を埋める権利はあるよね?」
「そんな下品な等価交換あるはずないだろ!」
これ以上、状況がややこしくなることを言わないでくれ。
「アレックス、あなた、実はやっぱりこの子とヤッちゃったんでしょ? 大丈夫、お姉さん、誰にも言わないから、こっそり教えて」
「いつからお前は俺のお姉さんになったんだよ! 本当にやってない! レイチェルもいい加減にしてくれ!」
「む~~、また私だけ損した……」
レイチェルは不満そうに俺の上から退いた。
俺も立ち上がり、三人でジャイアントオークの死体に近づく。
ジェーシが切断されたジャイアントオークの首を確認した。
「一振りでオークの首を斬ったのかしら?」
レイチェルは頷いた。
「さすが勇者、って感じね。ただの思春期エロ娘じゃないってわけね」
「あれ? 今、私、凄く馬鹿にされた気がする」
うん、そうだね。
でも、それは君が悪いよ。
しばらくして、村の人たちがぞろぞろと戻ってきた。
その中にはジャンのおじさんもいた。
「凄い。お嬢ちゃんがやったのかい!? 何者だい!?」
おじさんが詰め寄るとレイチェルは「あっ」とか「えっと」とか口にして困ってしまう。
「彼女は王都で有名な冒険者なんですよ。魔王軍との戦いの為に参加して、それでちょっとした呪いを受けたので俺がこうして手を繋いで王都まで連れて行く予定です」
村の人たちを騙すのは心苦しいが、本当のことを言うわけにはいかない。
「そうなのか、そいつは大変だな」とおじさんは言い、それ以上の追及はしなかった。
俺もレイチェルも安心する。
「村を救ってくれたお礼だ。今日は村に泊まっていくといい。大したものは無いが、出来る限りのもてなしをする」
この誘いには俺もレイチェルも困ってしまった。
万が一、俺とレイチェルが手を放したら、大惨事になる。
だから、一番手が離れるリスクがある就寝中は人から離れたかった。
「お義父さん、さっき、私は呪いのことを聞いたわ。ちょっと面倒な呪いみたいなのよ。だから、この村からは離れていた方が良いわね」
ジェーシが説明を始めた。
レイチェルは焦っているようだが、俺と視線を合わせたジェーシはウィンクをする。
どうやら考えがあるようだ。
「もし、二人が手を放すと鳥を呼び寄せるらしいのよ」
ジェーシは平然と嘘をついた。
「鳥だって?」
おじさんたちはキョトンとする。
「そう、鳥。しかも大きな鳥を大量に呼び寄せるの。そんなことになって畑をこれ以上荒されたら大変でしょ?」
ジェーシはジャイアントオークに荒された畑に視線を移した。
「それはそうだが、だからといって何もしないというのは…………」
「食事くらいは良いじゃないの?」
ジェーシは俺たちを見た。
俺はレイチェルと顔を合わせて頷く。
「そうですね。食事を頂きます」とレイチェルが答えた。
「そうかい! だったら、せめて好きなだけ食べてくれ」
「いや、おじさん、レイチェルはこう見えて大食いなんだ。そんなこと言ったら、村の備蓄が無くなるよ」
俺が言うとレイチェルは手をぎゅ~~と握った。
「ごめん、痛いって!」
謝るとレイチェルは俺の耳元で、
「私だって、加減は出来るんですよ」
と囁いた。
俺たちは夕食をご馳走になる。
レイチェルはそれなりに食べたが、確かに加減はしているようだった。
街で金銭を払って食べる際は遠慮が無いが、こうやって無料で出されると気が引けるらしい。
夕食を食べ終えると俺たちは一旦、村を離れた。




