ジャイアントオーク戦
正面に立つとジャイアントオークの大きさに圧倒される。
情けない話、足が震えた。
駄目だ、これじゃ動きを合わせるどころか、一歩も動けない。
それに比べて、レイチェルは平然としている。
「アレックス……?」
握っている手が震えていることにレイチェルが気付いたらしい。
「情けないと思ったよな?」と言いながら、俺は俯いてしまった。
「思わないよ。だってアレックスはこうやって戦ったことは無いでしょ?」
庇ってくれたのか、素直な言葉なのかは分からないけど、情けないことには違いない。
「でも、その足じゃ転びそうだね」
レイチェルは震える足を見て言う。
「ごめん」
謝っている場合じゃないのは分かっている。
この情けなく震える足をどうにかしないと…………
「こういうのはどう?」
レイチェルはいきなり俺の自由になっている左手を掴んだ。
「な、ななっ!?」
そして、自分の胸に俺の手を持っていく。
その感触はとても柔らかい……って、感想を思っている場合じゃない!
「何のつもりだい!?」
「小説で戦う前に緊張を解く為、こういうことをする展開があったから効果あるかなって」
レイチェルは少しだけ恥ずかしそうだった。
「なんて短絡的で、単純な行動なんだ…………」
「でも、足の震えは止まったね」
どうやら俺は単純らしい。
「私の小説の知識もたまには役に立つでしょ? アレックスをちゃんと立たせることが出来たよ」
「…………」
多分、深い意味はないけど、レイチェルの読んでいる小説のことを考えると「立たせる」が別の意味に聞こえてしまう、と連想する時点で俺も大分、毒されているのかな?
「ヴォオオオ!」
ジャイアントオークが俺たちを威嚇した。
恐らく、俺はともかくレイチェルの出す雰囲気から危機を感じたのだろう。
正直、そのまま逃げてくれ、と思ったがそういう展開にはならなかった。
ジャイアントオークは俺たちに襲い掛かる。
レイチェルが俺というハンデを背負って、どう戦うのかと思っていたら、
「アレックス、飛ぶよ」
と宣言して、ジャンプした。
俺もレイチェルにつられて、飛んだ。
レイチェルが引っ張ってくれたのもあるが、俺は自分の能力では出来ないほど高く飛躍した。
「これがレイチェルの力か……」
俺の倍以上の体格があるジャイアントオークの頭上まで飛ぶ。
「アレックス、私の腰を掴める?」
言われて俺は何とか体を移動させた。
両腕でレイチェルの腰を掴んだ。
彼女の服はかなり軽装で肌に触れるのには苦労しない。
でも、その代わり防御力は皆無だ。
「ヴォオオオ!」
再びジャイアントオークが叫んだ。
そして、丸太のような腕を振り回し、俺たちを攻撃しようとする。
空中で身動きが取れない。
レイチェルはどうするつもりなんだ?
そう思っているとレイチェルが剣を振った。
「えっ?」
レイチェルは一振りで丸太のようなオークの腕を両断する。
「グァアアアア!」
ジャイアントオークは怯んだ。
レイチェルはその隙を見逃さない。
次の一振りでジャイアントオークの首を斬り飛ばした。
一瞬の出来事だった。
「凄い…………」
俺は勇者の力を目の当たりにした。
普通なら熟練の冒険者が複数人で討伐するジャイアントオークをたった一人で、しかも俺というハンデを背負いながら倒してしまった。
「えっ、あっ、アレックス、このままだと着地出来ない!」
レイチェルの表情から凛々しさが消えた。
あたふたとする。
あっ、そうか俺が腰に巻きついているから足が上手く使えないのか。
「とりあえず、手を繋ごう!」
レイチェルが手を伸ばす。
俺はその手を掴んだ。
すぐにレイチェルが『接着の魔法』を使って、お互いが離れないようにする。
しかし、地面は目前に迫っていた。
鈍い音がして俺たちは地面に激突する。
俺は背中から落ちた。
幸い畑で地面が柔らかかったので怪我は無さそうだ。
でも、なぜか仰向けのはずなのに視界が真っ暗だ。
「ひゃうん!」
レイチェルの嬌声が聞こえる。
それを聞いて俺は嫌な予感がした。
俺の視界を遮っていた原因が俺の頭部から退いて、視界が回復する。
顔を真っ赤にしたレイチェルが俺の腹部に騎乗した。
「私の股間に顔を埋めた……小説みたいなことをした」
「事故だ!」
というか、早く退いてくれ!
みんなが戻って来たら、一体どうするつもりなんだ!?