ジェーシ
ジェーシは俺たちを客間に通す。
そして、椅子に座った。
「で、その子は何なのかしら?」
ジェーシはレイチェルに視線を向ける。
「そんな露出の多い服を着ているのはアレックスの趣味? それともその子の趣味?」
「どっちでもない。レイチェル、変身を解いてくれるか?」
俺はレイチェルのことを本名で呼んだ。
レイチェルは驚く。
「大丈夫、ジェーシは失礼な奴だけど、信用は出来るからさ」
俺がそう説明するとレイチェルは変身を解いた。
レイチェルの素顔を見て、ジェーシは首を傾げる。
「どこかで見たことがあるわね」
「この子は〝御旗の勇者〟レイチェルだよ」
俺が言うとジェーシは手をパンと叩いた。
「そうだわ。レイチェル様だわ。…………ええぅ!?」
さすがにジェーシも驚いたようだった。
俺はジェーシへここまでの経緯を説明する。
「なるほどね。なんて面白いことになっているのかしら!」
…………おい。
今の話を聞いてよくそんな感想が言えたな。
「あの、出来れば、、もっと気軽に話してくれませんか? アレックスにもそうお願いしているので」
ジェーシは少しだけ沈黙し、
「分かったわ。でも、一方的なのは嫌だから、あなたのも気軽にジェーシと呼んでくれるかしら?」
「またこの展開ですか。いえ、またこの展開…………分かった」
レイチェルは俺の時よりもすんなりジェーシと打ち解けた。
やはり同性の方が接しやすいのだろう。
「さてと……それにしてもアレックス、あなたもやるわね。勇者と結婚したら、将来安泰よ。レイチェル、あなた、勇者ってことは結構、お金を持っているんでしょ?」
おい、ジェーシ、レイチェルは気軽に話して欲しいってお願いしただけで、失礼なことを言っていいとは言ってないぞ!
「えっと、はい、結構、お金は持ってます」
レイチェルは正直に話さなくていいから!
「アレックス、これであなた、お金持ちになれるわね。まさか、童貞のあんたのところにこんな美人で、強くて、お金持ちのお嫁さんが来るなんて!」
どこからそんな話になった!?
「おい、俺は説明したよな!? 俺はレイチェルの呪いを無効にするために一緒にいるんだよ!」
俺が抗議するとジェーシはレイチェルを見て、溜息をついた。
「あんたって昔からそうよね?」
「な、何が?」
「そんなんだから、いつまで経っても童貞なのよ。好機に気付けずにさ」
「?」
俺にはジェーシの言葉の意味が分からなかったが、一瞬だけレイチェルが強く手を握った気がした。
「まぁ、いいわ。それよりも解呪方法が知りたいのね」
ジェーシは呆れているようだが、俺にはその理由が良く分からない。
「失礼するわね」と言い、ジェーシはレイチェルに触れる。
「…………確かに強い呪いを受けているわね。レイチェル、ちょっと準備するから待ってて」
ジェーシは一度、客間から出て行く。
戻ってくると二つの魔道具を持って来た。
「三つ、提供してもらいたいものがあるわ」
ジェーシは言いながら、二つの魔道具を机の上に置く。
「こっちの魔道具には魔力を流してくれるかしら。で、こっちは指を中に入れると小さな針が出るようになっていて、血液を採取できるようになっているの。ちょっとチクッとするから覚悟してね」
ジェーシはすぐに魔力を流して、一つ目のノルマを達成する。
「…………」
ジェーシが俺の手をギュッと握っていることから、血液の採取を少しだけ躊躇していることが分かった。
それでも大きく息を吸って、魔道具に指を入れる。
チクッとしたらしく、レイチェルの体がビクンとなった。
「はい、ありがとうね」
ジェーシは二つの魔道具をさげる。
「もう一つは何ですか?」
レイチェルは俺と握っている手に力を入れている。
「身構えなくていいわよ。髪の毛を一本もらうわ」
それを聞いたレイチェルは安心し、手から力が抜けた。
髪の毛を一本だけ抜き、ジェーシに渡す。
「解析までには少しだけ時間をもらうわ。明日の朝には分かると思うから、またその時に…………」
会話の途中で、
ドンドン、とドアが叩かれた。
俺たちは顔を見合わせる。
ドアの叩き方が尋常ではなく、何かが起きたと直感した。
「ジェーシ、大変だ!」
ジャンのおじさんの声がした。
俺たちは客間を飛び出す。
そして、家の入り口のドアを開けるとおじさんが頭から血を流していた。
「お義父さん、大変だわ! 早く手当てを……」
「俺なんてどうだって良い! 大変だ! 西の畑にオークが出たんだ!」
おじさんはそう訴えた。




