表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/51

レーテ村へ向かう

 馬車を手に入れた生活はとても快適だった。

 足は痛くならないし、馬たちが頑張り、目的地まで俺たちを運んでくれる。


 とても快適だ…………まぁ、それは俺だけなんだけどね。


「ア、アレックス、ちょっと止めて…………」


 レイチェルは顔を真っ青にして言った。


 言われた通り俺が馬車を止める。

 するとレイチェルは俺の手を引っ張って、草むらへ向かった。


「おえぇぇぇ…………」


 そして、嘔吐した。


「大丈夫かい?」と言いながら、俺はレイチェルの背中を擦る。


「あ、ありがとう…………」


 レイチェルは少しだけ顔色が良くなった。

 水を手渡すと口の中を濯ぐ。


「馬車苦手だったの?」


「そんなことは無いと思ってた。式典とかで馬車に乗ったことがあったけど何ともなかったし……」


「今回みたいに長旅で、しかも整備がきちんとされていない街道だと駄目みたいだね。少し休もうか」


 馬たちにも休息が必要だろう。


 俺たちは少し歩いて移動し、川の傍までやって来た。


「食欲はないかい?」


 先ほど吐いたばかりだし、食べたくないと言われれると思ったが、

「ううん、歩いたら気分は良くなったし、お腹が空いた」

という返事が返ってきたので、俺は簡単な食事を作る。


 馬たちは近くの草を食べていた。


「平和だな」


 俺が作った料理を食べるレイチェルを見ながら、呟いていた。


「どうしたの?」


「いやさ、正直な話、魔王になんて勝てないと思っていた。あの戦いで俺は死ぬんだろうなってさ。それなのに生き延びただけじゃなくて、まさか勇者と旅をしているなんてさ」


「それを言ったら、私だってまさか魔王の呪いを無効にできる人に助けられるなんて思わなかったよ。…………ねぇ、私って迷惑だよね?」


 レイチェルは暗い表情になった。


「いきなりどうした?」


「だって、アレックスは戦いが終わって、本当ならゆっくりしたいでしょ? それなのに私に付き合わせちゃって…………」


「気にしないでくれ。俺が好きでやっていることだ」


「…………どうして、アレックスは私を助けてくれるの?」


「魔王を倒した勇者を助けるのは当然、っていうのは多分、建前だな。本音を言えば、凡人の優越感だよ」


「優越感?」


「凡人の俺を勇者が頼ってくれる。そういう風に思うと自己肯定が出来るからさ。がっかりした?」


 俺はあんまり善人だと思われたくない。

 立派な人間じゃないんだ。


「ううん、別にがっかりしないよ。私の為に色々してくれた事実は変わらないし、それに…………」


 レイチェルはズイッと顔を近づけた。


「アレックスはそんな優越感だけで私を助けたわけじゃないと思うな。それだけで助けた人が大した見返りも求めずに一緒に旅をしてくれるとは思えないもん。少なくとも肉体関係くらいは迫って来るんじゃないかな?」


 俺は持っていた器を落としそうになった。


「君は男を、いや、俺を何だと思っているんだい?」


「えっ、だって、私の読んだ本だと『助けてやったお礼はどうすればいいか分かるよな?』と言って、色々始まっていたよ?」


「小説と現実を一緒にするな」


「でも、少し傷付くな。アレックスは私とこんな生活をしているのに悶々としないの?」


 しないと言ったら、嘘になるが今の状態だとどうしようもない。

 レイチェルの言う小説のような展開を迫るわけにもいかないし…………


「変なことを聞かないでくれ」


 俺がそう答えるとレイチェルは笑った。


「どうした?」


「ううん、アレックスは正直だなって思ってさ。だって、無い、って答えなかった」


「あんまりからかうとおかわりが無くなるぞ?」


「うわっ! ごめんなさい!」


 レイチェルはそう言いながら、俺に器を差し出した。


 こうしていると普通の少女だ。

 よく笑って、よく食べて、好きなことを話す。

 魔王と戦った勇者なんて、忘れてしまいそうだ。


「あんまり食べ過ぎるとまた吐くぞ?」


「大丈夫、酔い止めの方法は考えたよ」


 レイチェルが言う酔い止めの方法は単純なもので、自身の体に身体、特に内臓へ対しての身体強化魔法を使った。


「こうして、馬車で旅をするのってなんかいいな」


 馬車酔いを克服し、レイチェルはご機嫌で旅を楽しんでいるようだった。


「小説みたいでか?」と俺が聞くとレイチェルは首を傾げる。


「そんな小説があるの?」


「いや、旅を題材にした小説は結構をあると思うよ。君だって、官能小説以外も読むでしょ?」


「えっ、あ、うん。そうだね。あはは…………っていうか、私が官能小説を読んているなんて一言も言ってはないはずだよ?」


 いや、今までの状況証拠で完璧に黒だろ。


「じゃあ、好きな小説のタイトルを言ってもらえるかな?」


 俺が提案するとレイチェルは顔を赤くした。


「私にそれを言わせるなんて、アレックスって変態だね」


「…………」


 一体にどんなタイトルを言うつもりなのだろうか?

 もう、それは官能小説を読んでるって認めているだろ?


 そんな風にのんびりと会話をしながら、馬車が街道を進んでいく。


 そして、三日後、俺たちはレーテ村へ到着した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 目や耳から入ってくる情報と脳が処理している情報の誤差が原因と言われてるからその対応は吐きそうになるけど耐えられる、とかいう結果になりそう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ