魔王との決戦
「武器が無い? 医療品が無い? 食料が無い? そりゃ、消費すれば無くなるのは当然だろ! 俺が無限に物資の出る魔法の箱でも持っていれば、問題は解決するかもな。そんなものないけどさ!」
後方の補給部隊の部隊長を務める俺は愚痴を言いながら、僅かに残った物資をなるべく効率的に配分していく。
長きに渡る人間連合軍と魔王軍の戦い。
追い詰められた人間連合軍は起死回生を狙い、勇者たちの魔王城奇襲作戦を実行した。
俺たち凡人の役割は少しでも魔王軍の注意を引くことだ。
その為に残存兵力の全てを投入して、このマドヴェルド平原に進出した。
戦力差は1:3と言ったところで、敗色濃厚だ。
人間連合軍はすでに人材が枯渇している。
何しろ、二十歳で大した才能もない俺が補給部隊の部隊長になっている状況だ。
だが、そんな状況ももうすぐ終わるだろう。
勇者が勝利し、人類が生き残るか。
魔王が勝ち、人類が滅ぶか。
命運は勇者たちに託された。
勇者とは並外れた力を持つ人間に与えられる称号だ。
彼ら彼女らがいなければ、人間側はとっくに敗北していただろう。
そんな人たちが集結して、今は魔王城で決戦を行っている。
だから、俺たちは別に負けてもいい。
捨て駒だ。
勇者たちが勝てば、全てが解決する。
「終わったか……」
戦線が崩壊したらしく、後方部隊の布陣している場所まで魔王軍の怒号が聞こえてきた。
「子供の頃は勇者になることを夢見ていたが、結局は凡人。俺はここで死ぬのかな」
俺は自分でも驚くほど冷静に覚悟を決める。
しかし、突然、魔王軍は進軍を止めた。
それどころか退却を始める。
「どうしたんだ?」
困惑したのは俺だけじゃない。
敗走していた兵士たちも状況が分からずに困惑する。
「報告! 勇者たちが魔王の討伐に成功! 繰り返す! 勇者たちが魔王の打倒に成功!! 人間の勝利! 繰り返す! 人間の勝利! 俺たちは勝ったんだ!!」
直後、小型の竜に乗った伝令係が声を拡散させる魔道具で戦場一帯へ吉報を届けた。
それを聞いて、俺は地面に座り込む。
「勝ったのか? やっぱり勇者っていうのは凄いな」
命運を賭けた戦いは俺の知らないところで決着した。
「なんで俺がこんなことをしているんだ?」
俺は魔王軍の撤退した居城の調査を行っている。
人間連合軍は勝利したが、被害は甚大だった。
軍の七割の戦力を失い、さらに十人いた勇者の内、九人の死亡が確認され、一人が行方不明になっている。
人類の代表ともいえる勇者が十人も集まって、魔王と相打ちだった。
恐らく、想像を絶する戦いだったのだろう。
それにしても人数は圧倒的に足りない。
俺は一人で中庭の調査を始めた。
「もし、残党が残っていたら、俺なんか瞬殺されるぞ」
残念なことに俺は攻撃手段になる魔法を使えない。
まったく才能が無かった。
「なんだ、ここは?」
愚痴を言いながら、中庭を歩いていると周りの草木が枯れている場所を見つける。
魔物や魔人の反応が無いことを確認してから、俺は不自然に枯れた草木を確認した。
「魔法、いや、呪いの類だな。…………んっ? これは転移結晶か?」
俺は落ちている転移結晶を見つけた。
転移結晶は名前通り、魔法空間を介して転移できる魔道具だ。
転移結晶を覗き込むと向こうの様子が少しだけ分かった。
「えっ?」
結晶に映し出された向こう側では女の子が倒れている。
どうやら、首から血を流しているようだ。
大変だ、助けに行こう! ……と、英雄や勇者なら即決するかもしれない。
しかし、凡人の俺はどこかも分からない転移先に行くことを躊躇った。
そうだ、まずは誰かに報告しよう。
そして、戦える人間が行くべきだ。
…………でも、あの出血量、早く止血しないと死んでしまうじゃないか。
転移先の女の子の出血は普通ではない。
生死を左右するほどのもだろう。
「でも、俺には…………」
それでもなお、躊躇う俺が見たのは少女の涙だった。
「………………はぁ」
事情はまったく分からない。
でも、後悔する決断はしなくなった。
「ああ、もう! なるようになれ!」
俺は転移結晶に魔力を込める。
すると結晶は反応し、俺は少女の元へと転移した。
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