タコ星人
ある日、タコ星人がやってきた。
タコ星人は人型のタコといった見た目をしている。『タコ星人』という名前は正式名称ではなく、我々地球人がそう呼んでいるに過ぎない。彼らの正式名称は、地球人の口では発せない、大変複雑なものだった。だから、便宜的に『タコ星人』と称したのである。
タコ星人は当初、比較的友好的な種族だった。この前やってきたウニ星人は、問答無用で攻めてきたが、タコ星人はそんなこともなく、対話することができた。
「我々の目的は、地球人類がタコを食らうことをやめさせることである」
「タコ、ですか……?」
「さよう」
「どうしてでしょう?」
「タコという生物は、我々○△□(タコ星人)の遠い遠い親戚なのである。よって、タコを焼いたり、茹でたりすることは我々が許さぬ」
一方的な宣言であった。
タコを食べない人間にとってはどうでもいいことであった。しかし、タコを日常的に食す人々にとっては死活問題であった。
とくにタコ焼き屋の経営者は大いに困った。このままではタコ焼きという料理がなくなってしまう。中に入れるものをタコからイカなんかに変えればいいのでは、と思うかもしれないが、それをしてしまうと、それはもはやタコ焼きではなくてイカ焼きである。ただ、イカ焼きという料理は別にあるので、いささかややこしいことになる。
タコの入っていないタコ焼きはタコ焼きとは言えず、つまりタコ焼きアイデンティティーの崩壊である。
困りきったタコ焼き屋の経営者は、タコ星人にタコ焼きの魅力をアピールすることにした。彼らにタコ焼きを食べさせて、その美味しさを知ってもらおう、といった算段である。そして、タコを食べるの禁止という馬鹿げた意見を撤回させるのである。
タコ焼き屋の経営者は早速タコ焼きを作り、それをタコ星人にごちそうした。
「この料理は何かな?」
「焼き焼きと申します」
まさか、タコ焼きと言うことはできないので、適当な名前をでっち上げた。
タコ星人はタコ焼きを口の中に投げ入れた。
「うまい!」
彼らは次々にタコ焼きを食べていく。
タコ焼き屋の経営者はほくそ笑んだ。タコ星人はタコ焼きのおいしさに魅了されている。今なら、ネタばらしをしても構わないだろう。
「実はこの料理……名をタコ焼きと言いまして」
ぴたり、とタコ星人の手が止まる。
タコ焼きをじっと眺めてから、憤怒の表情でタコ焼き屋の経営者のことを睨みつける。
「タコ焼き……だと!? 貴様、我々にタコを食べさせたのか!?」
「いや、でも……おいしかったでしょう? ですから、タコを食べるの禁止というのを――」
「ゆ、許せん! この星を滅ぼしてやる!」
こうして、地球はタコ星人によって滅ぼされた。
人々は自分たちがどうして滅ぼされたのか、最後まで知ることはなかった。タコ焼き屋の経営者を除いて。