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これは夢の中の話……と思って安請け合いするのは止めましょう

 私、土屋リセは趣味で乙女ゲームをするのが好きだった。

 そんな私がある日、【ゆりかごの海で】という乙女ゲームをやっていた時の事である。

 全ルート記憶するくらいやりこんだ、RPG要素もあるゲームである。


 登場人物の裏話も雑誌や公式ファンブックなどで読み込む程度に大好きだった。

 そんな私だからか、それとも同じ発音の【名前】にもひかれたか、私は異世界に召喚された。

 異世界に呼ばれるのは【特別な人】というイメージがある。


 物語でも何らかの能力を持っている人が多いからだ。

 つまり私にも何か特別な能力が!? という期待もあったが、すぐにこれは夢だと私は思った。

 だってこんな事が現実に起こるなんて思えない。

 

 そうか夢かと思いながら暗い空間の中で目の前にいる、ゲームのキャラクター、悪役令嬢のリセ・ハートマインドの顔を見ながら私は、


「いいわ、手伝ってあげる。ゲームの知識はあるしフラグの箇所も覚えているもの」

「本当ですか!? ありがとうございます」


 嬉しそうな彼女を見て、夢の中ならもう少し楽しんでもいいしお手伝いしてもいいかなと思ったのだ。

 すでにゲーム内容は知っているし、この子に対して私は悪い感情は無い。

 先ほどから話している彼女、リセ・ハートマインドは公爵令嬢である。


 綺麗な銀髪に赤い瞳、きめの細かな肌。

 その姿は立っているだけで花咲く百合のようだとか、真珠のようだとか、宝石やら何やらに喩えられるかが焼ける美少女である。

 また天才的な魔法使いでもあり勉強もできる文武両道であるらしい。


 そしてその一方で貴族らしい高慢さも持ち合わせているという。

 というのが簡単な彼女の設定だ。

 特に銀髪に赤い瞳というのが私たちの世界では人気だった記憶がある。


 それは置いておくとして、この子の裏設定は、簡単にまとめるとポンコツ天然ボケドジっ娘である。

 天然ボケで誤解され、ドジを踏んでも彼女ならば工ではと誤解され、知識以外では結構ポンコツな所がある……それが巡って悪役令嬢と影で呼ばれるようになっていたりする。

 ちなみに公爵家と王家は仲が悪いが、その家の子供である私たちは実は仲が良くて、よく一緒にこっそり冒険にったり遊んだりしていたらしい。


 その王家の姫が、聖女とこの世界で呼ばれるクレアだ。

 その辺りの話を一通り反芻し、彼女の提案を私は飲んだ。

 だがそこで、憑依の関係上彼女の記憶を私は共有してみて気づいた事がある。


 つまり、


「! ちょっと待て、今のこの状況って、バッドエンドフラグ全部立て終わった後じゃないの!」


 もうどうにもならないゲームエンディング終了間近。

 完全に積みになるちょっと前。

 ちなみにこの後残っているイベントは婚約破棄だが、そこに選択肢はない。


 実際にゲームのような選択肢が出てくるかは別として、とりあえず修正可能な選択肢は…そこになければ無いですね?


「どうするの! 完全に積みというかもう少し早く呼べなかったの!?」

「ふ、ふえええ、じ、自分で何とかしようとしたのですが何故かこんな事に……」

「何故かってどういう……ああもう、時間がない、どうする、どうする……」


 私は狼狽しながら思い出す。

 人間切羽詰まると、それなりのアイデアが生まれることもある。

 因みに生まれなければ出来ないだけなのだが。


「もうそこしかないか。シナリオにないルートを選択する」

「未来予測ですか?」

「何が?」

「異世界の【物語】に準ずるものには、【未来予測】と言えるものがあるそうです。例えば、卵と牛乳とホットケーキミックスがあれば同じようなホットケーキ、つまりは似た結果という果実が得られる。だから未来予測になるとかなんとか。もしかしてそれもあって貴方を召喚できたのかしら」


 ほわわんとしたように言う彼女。

 今一この状況が分かっていなさそうだが、元々の召喚目的にズレがあるのでそれは当然かもしれない。

 それに彼女が言うには、同じような人物配置(ホットケーキの材料)、調理(ホットケーキの調理)、によって、似たような状況(出来上がったホットケーキ)が出来るという事を言っているらしい。


 並行世界なども含めて沢山ある物語の中にはそういったものも存在する……という事だ。

 もっとも今はそれどころではない。

 では、どうする? 


 彼女の話によると憑依によってこの体の支配権は私に強く移るらしい。

 私が悪人だったらどうするのか、という気持ちもしたが、そうまでして彼女はやり遂げたいことがあったらしい。

 その前に自分の事についても考えて対策白と言いたい気が私にしたが。


 でも。


「バッドエンドルートは、【意図的に】選ばなければそちらのルートに行かないはず。その【意図】がこのポンコツ令嬢だからで、【選ぶ】事になるのかしら?」


 それに引っ掛かりを覚える。

 引っ掛かりを覚えるという事は、何か問題がある可能性がある。

 勘のようなものだが、実は意外とこれは馬鹿にならない。


 けれど今は悩んでいても仕方がない。

 これから舞踏会で婚約破棄イベントだ。

 起こる事はゲームですでに学習済みだから、気分が悪いけれど、まあ、大丈夫だろうと思った私が甘かった。


「こんな状況になるまで放っておく婚約者がいるかぁあああああ」

「うぎょぼあぶえぇぇぇ」


 ついかっとなって私よりも二センチくらい背の高い婚約者の頭を鷲掴みにして持ち上げた。

 おかしな声を上げるのを聞きながらすぐに気絶した婚約者を見て、


「ふん」


 そう鼻で笑ってから、何だこいつ、と思いながら床に落としてその会場を後にした。

 とりあえずちょっとはすっきりした私は、


「これであとは、バッドエンドフラグルートを別の物に変えないといけないけれど……それで、聖女のクレアちゃんて何処にいるのかしら? ああ、あそこね。じゃあ、一緒に【家出】のお誘いでもしに行きましょうか」


 と、中でどうするんですかと焦るリセ・ハートマインドの声を聞きながら、何とかするわよと私は答える。

 そして悪役令嬢リセ・ハートマインドは、親友で聖女、クレアに会いに行くことになったのだった。


評価、ブックマークありがとうございます。評価、ブックマークは作者のやる気につながっております。気に入りましたら、よろしくお願いいたします。


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