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問答/謝罪

 生徒会室には授業が早くに終わったのか佐々山君がいた。

「お疲れ。今日は授業早く終わったの?」

 オレが尋ねると少し身を縮こまらせてから「そうです」と返ってきた。

「白縫さんは一緒じゃないんだね」

「クラスが違うんで……」

 そう言われてからそうだったと思い至った。

 佐々山君はオレの事を怖がっているからあまり自分からは話し掛けてこない。

 だからオレもこれ以上は何も言わずに仕事を始めた。


 届いて仕分けのされていない書類に目を通すと、オレは思わず眉根が寄った。

 その書類は会長の机のところに他の目を通してもらわないといけない書類とともに置いた。

 まだ初等部の授業も終わり切っていないからメンバーが揃うのはまだ後だろう。そう思い、自分の席で書類を処理し始めた。

 オレを含め生徒会室には二人の人がいるはずだが、シンとしていた。

 オレ自身はそれで構わないし、仕事が捗ると思っていた。

 だが、佐々山君の手はさっきから止まっている。

 どうしたのだろうと思いながらも手を動かしていると、佐々山君が珍しく話し掛けてきた。

「……なんであんたはいつもそんなに魔力を纏ってるんだ?」

 少し睨むような目でオレを見てくる。

「目上の人間に対してはもう少し言葉遣いを改めた方が良いと思うよ」

「それはそうかもしれないけど……。俺の質問には答えない気?」

 話し方を改める気はないようだ。

「はあ。君は他人が常に魔力を纏っていたら不都合なのかい?」

「ふ、不都合って言うか、なんて言うか……」

 ごにょごにょと言って歯切れが悪い。

「必要だから纏っているんだが、何か問題でもあるかい?」

「必要って、なんで必要なんだよ。あんたがそんなんだから文月だって怖がってるんだ。どうにかできないのかよ!」

 どうやら妹さんの為らしい。でも……。

「悪いが、それは君達の都合だろう。こちらとしてはそれで魔力を纏わないというわけにはいかない」

「なんでだよ!」

 佐々山君は立ち上がり、机をダンと鳴らす。

 オレは手を止め、それを真っ直ぐに見た。

「な、なんだよ」

 佐々山君はたじろぎ、椅子に足をぶつけた。

「君はどのくらい現状が見えている? 戦闘に必要な事、常日頃から気を付けておかないといけない事、本来、生徒会メンバーができていないといけない事。それらに関して君はどのくらい理解できている?」

 オレの問い掛けに佐々山君は黙る。オレはその様子に頭に手をやり溜め息を吐いた。

 その溜め息に佐々山君はビクリと肩を揺らした。

「君も今年入ってきたばかりだからまだ説明していない事が多いのはこちらとしても分かっている。でもね、全部が全部説明しているほど暇でもない。それに君たちの家だって安全な立場ではないから戦闘に関しては分かっているだろう? なら事前の備えが必要なのも分かっているはずだ。それを止めろというのは生徒会の役目を放棄する事にあたる。理解できるね?」

「で、でも、一般の生徒だって怖がってる! それにそんなん言ったら会長だって魔力を纏ってることになる。でも、あんたみたいな魔力を纏ってないじゃないか!」

 その言葉にオレは大きく溜め息を吐いた。

「あのねぇ。会長とオレでは役目が違うんだ。それに怖がっているっていうのは本来魔法を扱う学校で過ごす上ではおかしな事なんだよ。誰も自覚していないだけ。本当は常に気を張っておかないといけないんだよ。それに会長だって魔力は纏っているけど、役目が違うから君らの感じ方が違うだけだ」

「い、意味が分かんねぇんだよ!」

 佐々山君は震えながらも声を上げた。

 そのタイミングで外からノックが聞こえた。

 扉から入ってきたのは睦月野さんだった。

「お疲れさまです。外まで声響いてましたよ」

 淡々とした声が響く。

「佐々山君も仕事に戻って」

 オレがそう言うと佐々山君は何も言わず椅子に座った。

 それからはまた沈黙が流れた。


 二、三時間が経った頃、他のメンバーも生徒会室に集まってきた。霜月君は生徒会室に向かう途中生徒から反省文を手渡されたようで、ぶっきらぼうにオレにそれを渡してきた。

 そして最後にそろりと入ってきたのは会長だった。

 オレは会長の側に歩いて行った。

「会長」

 オレが声を掛けると会長は飛び上がった。

「は、葉月ちゃん。えっと……」

 会長の目線が泳いでいるのを他所にオレは頭を下げた。

「今朝はすみませんでした」

 オレが頭を下げると周りがざわついた。

「は、葉月ちゃん⁉ 葉月ちゃんが謝る事じゃないよ。私がお節介焼いて余計な事言ったから……」

「いえ、オレが今回は悪いです。八つ当たりのようにしてしまいすみませんでした」

「葉月ちゃんが頭下げる事じゃないよ。葉月ちゃんが悪いわけじゃないもん」

「いえ、声を荒げる必要もなかったのに、強く言ってしまいました。それに関しては完全に自分が悪いんです。それなのに、会長に謝らせてしまい、すみませんでした」

 謝り続けていると会長はふっと笑った。

「ふふふ。本当に葉月ちゃんって頑固だよね。自分が悪いと思ったら相手が何と言っても謝るんだもん」

「そりゃ、自分が悪いと思ったら謝りますよ」

 頭を上げ、そう言うと会長は柔らかく微笑んだ。

「本当に葉月ちゃんっていい子だよね」

「子って、二つしか離れていないじゃないですか。あと、ちゃん付で呼ぶのは止めてください」

「え~、だって、葉月ちゃんは葉月ちゃんだもん」

「なんですか、それ。あと、人が探査魔法で探してもそれを探査魔法を使って逃げるのは止めてください。お陰で探すのを途中で諦めましたよ」

 オレが呆れたように言うと会長は唇を尖らせ、人差し指同士を合わせて拗ねたような顔をした。

「だって~、葉月ちゃん怒ってたらヤだったし……」

「なんですか、それ。意味が分かりません。いつもは怒ってようがどうしようがお構いなしに近付いてくるじゃないですか」

 呆れた声で言うと会長がオレの顔を覗き込んできた。

「もしかして寂しかった?」

「全然。むしろ仕事が捗ります」

 きっぱりというと会長はいじけだした。

 大きな溜め息を吐くと、会長は少し恨めしそうな顔をしていた。

「会長、取りあえずもうこの話は終わりです。別件でお伝えしないといけない事があるんで」

 オレがそう言うと会長は首を傾げた。

 オレは会長の机に近付き、机の上にある書類を人差し指でトントンと叩いた。

 会長は促されるようにその書類を手に取り読んだ。するとオレと同じように眉根を寄せた。

「これって、本気? 本当にしないといけない?」

「オレは決定権は持っていないので会長が判断してください」

 オレは両手を上げ、首を振った。

 その様子を見た会長は他のメンバーをちらりと見た。

 メンバーはなんだという風に首を傾げていた。

「まあ、オレは職員室に提出書類持っていってくるんで考えておいてください」

 面倒ごとを投げてオレはさっさと生徒会室を出て行った。

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