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「そんな風になっても辞めないって、ドMですか?」

 鍛冶君はドン引いた顔をしていた。

「違うから。オレ、ワーカーホリックでもなければ、そんな変態でもないから。そんな風に言わないで。て言うか、鍛冶君、本当に酷い事平気で言うよね」

「いや、だって、普通そんな環境だったら逃げ出すでしょう。しかも、一般家庭の子供がそんな環境にいる必要性全くないですよね?

 まだ、会長みたいに自分の家が関わるような状況なら分かりますけど、副会長は辞めたからといって、家に迷惑が掛かるわけでもないでしょう?」

「まあ、確かにそうなんだけど、半分意地みたいなものだったからね」

「意地?」

 そうは言っても、意地だけで続けられるのかと言われそうだが、オレの負けず嫌いで意地っ張りな性格が一番の原因だ。

「オレ、負けず嫌いなところがあるんだよ」

「はあ……」

 突然の事に鍛冶君が呆けた返事をした。

「しかも意地っ張りなんだ」

「そう、なんですね。なんとなく分からなくはないですけど、何でもサラッと遣って退けそうな感じの方が強いですけどね」

「今はそう見られがちみたいだね。でも、小さい頃はできない事の方が多くてね。悔しい思いはかなりしてきたよ」

 鍛冶君も加山さんも意外そうな顔をしている。

 実際に見た事のない人にとっては、どうも信じられない話のようだ。

「今も偶に言われるけど『一般人のくせに』って言われると、どうしても、能力は家柄で決まるものじゃないのにって思うんだよ。

 それで見返してやろうって思うところはあるんだよね。だから努力もするし、時間を掛けてどうにかできるんだったらいくらでも掛けるし、結果さえ出せれば誰も何も言ってこれなくなる。それを知ってるからこそ、途中で逃げだすって選択肢はほとんどないんだよ。

 勿論、戦略的に一時撤退っていうのはあるんだろうけどね」

 一般人のくせにという言葉に加山さんは、耳が痛いといった表情をしたが、仕方ないだろう。

 この世の中ではそう思う人達が多い。大人達なんかは特にだ。

 でも、努力して、結果を見せれば何も言ってこない。

 しんどくても、『じゃあ、貴方達はできますか?』って言えば、大人だって押し黙る人がほとんどだ。

 それならば、逃げる必要は全くないだろう。

「そりゃ、逃げたくなる時はいくらでもあったけど、結局は意地だよ。意地がなければここまでは残ってなかったんじゃないかな」

「……なんとなく分かりましたよ。でも、同じ状況にいても留まるのなんて、きっと副会長くらいですよ。普通の人間なら逃げ出してますよ」

「そう? 案外他にもいるかもしれないよ」

 もっと効率よくやれる人なら、ここまでしんどくもなかっただろうし、平然と熟していただろう。

 内海先輩なんかはそんなタイプだと思う。

 余計な事はせず、効率よく熟すタイプだ。

 見極めが上手ければ、オレのように時間ばっかり掛けて大変な目に遭う事はないんだろう。

「仮に他にいたとしても、どのみち特殊ですよ」

「本当に君は失礼だね。で、たいぶと長居させてしまったようだけど、君達はここにいて大丈夫なの?」

 だいぶと話し込んでしまった。いくら時間を見つけてここに来ていたとしても、だらだらとし続けるわけにはいかないだろう。

 鍛冶君も加山さんもハッとして、少し慌てた表情を浮かべていた。

「すみません、もう少しだけいいですか?」

 時間は気になるようだが、それでも聞きたい事はまだあるらしく、鍛冶君が尋ねてきた。

「何?」

「今回、ここで話した件は他言無用と言っていましたし、話すべきでないのは分かりましたけど、先生達はご存知なんですか?」

 鍛冶君は真っ直ぐな目を向けてきた。

「……ある程度はね。と言うより、先生達も調べているんだよ。だから、生徒会の会長・副会長を含めた定例会議で報告はし合っている。そうは言っても、不明瞭な事は多い。だからこそ、下手に動けないのと、さっきも話したけど、各学校で軍事力を持つわけにはいかないから、戦えるのは生徒のみ。教員は戦う資格がないから、下手に動けないのも確かなんだよ。

 あと、他言無用と言っているから君達は話さないと思うけど、もし話そうとしたら仕掛けている魔法が発動するから気を付けて」

「仕掛けている魔法?」

「そう。元々この生徒会室に掛かっている魔法。まあ、どういう仕組みなのかはオレもよく分からないけど、許可なく重要事項を話した時のみ発動するみたいだから、別に重要事項でなければ話しても問題はないから」

「それの判断基準って?」

「それに関しては如月の血族が継いでいるらしい。だから今は理事長の判断の元って事。だから君達が外で話してはいけない事を話した場合はこちらとしても責任は取れないからね」

 オレも実のところ詳しくは知らない。けど、過去に教員が箝口令を敷かれていたにも拘らず、話した時は電流が流れて病院送りになったらしい。

 命に別状はなくとも、痛い目を見るのは確かだ。

「……つまり、判断基準はその時の情勢によっても変わってくるって事ですか」

「まあ、そうだね。だから、もし色んな事に決着がつけば、過去にはこんな事があったって話しても問題なくなるかもしれないね」

「了解しました。あっ、あと……」

 まだあるのかと思ってしまい、軽く溜め息を吐いてしまった。

 その瞬間に、鍛冶君は少し肩を揺らした。

「あっ、すみません。えっと、このノートを部の方には持って行ってもいいですか?」

「いいけど、絶対に持ち帰らないでよ」

 オレはそう言ってノートに触れて魔法を掛けた。

「なんですか?」

 どんな魔法を掛けたのかまでは分からなかったのか、鍛冶君が首を傾げた。

「持ち出す事ができないように魔法を掛けたんだよ。無理に持ち出そうとしても、ここの敷地をこのノートが越えられないように移動制限の魔法を掛けたんだ」

「よくもまあ、そんな上級の魔法をひょいひょいと……。まあ、うっかり持ち帰っても大変ですもんね。では、お借りします」

「うん。まあ、オレが卒業するまでには返してくれるとありがたいかな」

「了解しました。長々とすみませんでした」

 鍛冶君は丁寧に一礼すると生徒会室を後にした。

「では、自分も失礼します。あっ、ちゃんと先生にはカラーコーンの件、伝えておくんで安心してください」

 そう言って加山さんは出ていった。だが、何となく不安は拭えなかった。

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