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雰囲気クラッシャー 2

「少し話を戻してもいいですか?」

 鍛冶君がほんの少し真面目な顔をして尋ねてきた。

「どうぞ」

「副会長はここを卒業されたらどうするんですか? 政府派に裏切りがいるのなら、大半の魔法大学への入学は抵抗があるんじゃないですか?」

 鍛冶君のその質問に周囲の空気がぴりついた。

「まあ、国立の魔法大学は政府派だからね。あまり良くはないだろうね」

「それに国立ならさっき言っていたように、家柄重視だから入学自体厳しいですよね?

 中立派はほとんど私立ですけど、デモや学生運動が盛んな分、危険ですよね。今でさえ、危険なところで生きているのに、大学もとなったら流石に親御さん泣きません?」

「まあ、親の事考えたらね。本当にそう考えると、魔法大学の入学は難しくなると思うよ」

 鍛冶君は本当に案外鋭い。

「それなら一般の大学の方が良いんでしょうね。一般の大学出身でも、魔法に絶対携われないわけでもないですし、錬金術の資格があるのなら特例もありますよ。まあ、狭き門ですけど……」

「そうだね。狭き門だよ。どこに行ってもという感じはあるけどね」

「確かにそうでしょうね。ただ、先生達としては副会長のような人を一般大学には入れたくないでしょうね。魔法大学を勧められませんか?」

「勧められるよ。でも、もう少しそれに関しては保留にしてるよ。焦って考えてもね。

 それにオレまだ高校一年だよ。高校に上がったばっかりで、大学っていうのも少しばかり早いかもね」

「まあ、そうかもしれませんけど……。でも、案外あっという間じゃないですか? 副会長なんか特に忙しそうですし」

「それなりにはね。まあ、今年は資格取得に力を入れようと思っているから、進路はぼちぼち考えるよ。それにその時には情勢が変わっている可能性がないとも言い切れないしね」

「そう、ですね。余計な事聞いてすみません。しかし、資格って何取る気なんですか?」

 鍛冶君のその質問に答えようとした途端に、加山さんが思い出しように声をあげた。

「そう言えば、魔法具製作管理者の資格取得されたそうですね。おめでとうございます」

「ありがとうございます……って、なんでご存知なんですか?」

 取得した事を知らせた人はそんなに多くはない。なのに、何故、加山さんが知っているんだ?

「この間、父に付いて社交界に参加したんです。その時に会長もいらっしゃって、話してるのを聞きました」

 その言葉に、オレはじとりと会長を見た。

 会長はあわあわとしているが、加山さんはお構いなしに話し出した。

「色んな人が参加していたんですけど、その中に国条大臣の娘さんもいて、副会長はその子知ってます? なんか明らか副会長の事話してそうな感じだったんですが、名前は明確には出ていなかったんですよ。その子への牽制みたいに会長が副会長の話をしていて、その時にさっきの資格取得の話出てたんで、そこで知ったんですよ」

 何を話したんだ会長は……。

 じっと会長を見ると、会長は少し俯いた。それでも、何も言う気配はない。

 ただ、加山さんは話し続けていた。

「国条大臣の娘さんって昔っから夢見がちで『いつか王子様が私の事を迎えに来てくれる』って言っていたんですけど、いつからか『理想の方がいらっしゃって、きっとその方は私の王子様に違いない』って言い出すようになっていたんですよ。で、この間の会話をちらっと聞いてたら特徴がなんとなく副会長っぽいな~って思ってたんです。

 ただ、この間の時は『理想の方にはもうすでに隣に別のお姫様がいて、私には太刀打ちできない』って嘆いていて、取り巻きの令嬢達が励ましていて『王子奪還』を掲げ始めてたところに会長が話し掛けていたんです。

 なんかお茶会したんですかね? その時のお礼を言ってから、会長も名前は出さず『彼』と言っていたんですけど、色々は話していて、そのうち国条大臣の娘さんが『私、大人しく身を引きますわ』って言って泣きながら逃げていったんですよ」

 赤裸々に話される社交界の話に会長はやっと口を開いた。

「だ、だってね。また葉月ちゃんにあの子が迷惑掛けそうだったし、遠ざけた方がいいかなぁって思って……」

「下手な事言ったら、会長の方が色々言われません?」

 その言葉に答えたのは会長ではなく、加山さんだった。

「ああ、それなら大丈夫ですよ。周りは『またあのお嬢さんか』って言って見てましたんで。まるで自分が世界の中で一番のヒロインと思っているみたいなんで、何かしら誘いを断られただけで、そんな事言い出すんで誰も気にしちゃいませんでしたよ」

「……それならいいですけど」

「ごめんね。もう少し上手い事言った方がよかったんだろうけど、つい……」

 会長は気まずげに謝った。

「まあ、個人情報晒すのは止めていただきたいですけど、会長だって立場があるでしょうから、あまりそれを危うくさせるような発言はしないでくださいよ」

「うん。でも、それは大丈夫。それに、葉月ちゃんの名前は出してないよ。流石に、それ言っちゃうと、私に取り入ろうって人もいるから、迷惑掛けちゃうのは分かってるし……」

 それでも資格取得の情報が出回るとは思わなかった。

「大丈夫だと思いますけどね。その話聞いて副会長の事を思い出している人もほとんどいなかったんで。自分と父はなんとなくそうかなって思った程度なんで、たぶん大丈夫ですよ」

 加山さんがケロッと言うが、加山さんにバレている時点でオレだと特定している人が他に居そうな気がしてしまう。


「副会長が資格取得したから、鑑那さんも『また会いに来させろ』って言ってたんですね」

 どこか納得のいった顔をした鍛冶君がそう言った。

「ああ、そっか。合格者は名前が出るから知ってるのか」

「ええ。それに魔法具の業界はわりと狭いんで、知り合いが資格取ったとなると、すぐに情報は回りますよ」

「そうなんだね。まあ、魔法具の関連で知り合いって鍛冶さんくらいだから大丈夫だと思うけどね」

「大丈夫でしょ。態々フルネーム出して情報晒すって言っても、狭い業界な上にそこまで地位もあるわけでもないし、特段何ってあるわけじゃないですよ」

「まあ、そうだね」

 鍛冶君はどうやらオレの考えている事が分かっているようだった。

「副会長は他の資格も取るんですか?」

「取れる限りは取ろうと思うよ。高校生になったから、やっと受験資格を得たのもあるし」

「あっ、じゃあ、調剤マスターも取るんですか?」

 加山さんが明るい声で聞いてきた。

「今年は無理ですよ」

「え~。どうしてですか? 取っといた方が学校の試験とかも省けるでしょ? 因みに自分は高校に上がってから受け続けてるけど、今のところ毎回落ちてます」

「オレは、春のは申し込みに間に合わなかったですし、秋の分は文化祭と被ってるので、今年は諦める事にしました」

「えっ、あっ、ホントだ。文化祭と被ってるじゃん~」

 加山さんは秋の分を再受験しようとしていたのか、文化祭と被ってる事実を知って、落ち込んだ。

「調剤マスターの試験って難しいんですか?」

 まだ受験資格のない鍛冶君が首を傾げながら尋ねてきた。

「どうだろう? 過去問見てる限りはそんなに難しくないと思うよ。まあ、人によるとは思うけどね」

「副会長って色んな分野知ってますもんね。どうやって勉強してるんですか?」

「どうやってって……今は普通に時間空いた時にしてるよ。

 生徒会メンバーで授業免除はあるけど、課題はあるからそれはやってるし。昔は先輩達が得意分野を兎に角、詰め込むように教えてくださってたからなぁ。

 当時はそれが普通だったから、今じゃあんまり勉強してない方なんだよね」

 オレがそう言うと、周囲が顔を引き攣らせた。

「えげつなさそうですね」

「そう? まあ、先輩達の話でも、未だに理解できないような内容もあるから、各分野では、それぞれの先輩達の方が今も詳しいのは確かだよ」

 口元が引き攣っている鍛冶君にそう言うと、鍛冶君は眉間に皺を寄せた。

「当時の生徒会メンバーって化け物揃いだったんですか?」

 その質問にオレは何も言えなかった。

「化け物ねぇ。まあ、あながち間違いじゃないかもしれないわね」

 道端先輩が苦笑しながらそう言った。

「まあ、瀬野や内海の頭の出来は本当に化け物級だからな」

 山崎先輩は乾いた笑いをした。

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