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過去と現在の実情 3

「その論文が正しい事は分かった。でも、水無月が言った通り、だからと言って反政府派と組む事になったっていうのが分からない」

 山崎先輩は冷静な声で言った。

「なら、『反政府派』というのはどういう方が多いか分かりますか?」

 オレがそう問うと、山崎先輩は何故そんな質問をされるのか分からないようだが、それでも答えた。

「政府の考えに従えない奴らだろう?」

「確かにそうです。なら、政府の考えというのはなんですか?」

「保守派とも言われるが、良く言うのなら伝統を守ろうとする者達、悪く言うのなら過去に固執する者達だろう」

 案外、山崎先輩は冷静に物事を見れているようだった。

「そうですね。その通りです。なら、過去を誤りだと言って変えようとするのならそれは『反政府派』という事ですね。そう言った考えは一般人でも持ちますが、中心となって動くとしたらどういった方達でしょう?」

「……家の跡を継げなかった者や継ぎたくないと思った者か?」

「そうですね。そういった方々。つまり、元は政府派の考えの家に生まれた人も多いでしょう。だからそこ、意見が分かれて対立してしまったという歴史があるくらいですからね」

「つまり、政府派の内情を知っていた裏切り者の事だろう」

 山崎先輩は冷たい声でそう言った。

「そう、言えなくもないですね。ただ、考えてみてください。本当に政府は全員が『政府派』ですか?」

「そうじゃなきゃ、政治家にはなってないだろう?」

 流石に癇に障ったのか、山崎先輩は唸るような声を出した。

「でも、誰が証明しましたか? それに政府の考えとして『保守派』を明確に唱えているのは誰ですか?」

 その質問に誰も答えられなかった。

 それはそうだろう。誰も証明なんかされていないし、明確に『保守派』なんて言った人なんていない。


「……じゃあ、政府は反政府と争っているって言いながら、自作自演をしてるとでも言いたいのか?」

「そこまでは言ってませんよ。でも、考えてみてください。反政府に明確に攻撃されていないところが政府にもあるでしょう?

 魔法省以外にもあるかもしれませんね。全部が全部ではないでしょう。でも、利害の一致したところは手を組んでいる可能性が高い。ただ、それだけです」

 山崎先輩はオレの言葉に奥歯を噛み締めた。

「先輩。先輩は反政府派について『家の跡を継げなかった者や継ぎたくないと思った者』と言いましたよね。

 継ぎたくないはその人の思想があるでしょう。けれど、継げなかったという場合、その家が継ぐ事を許さなかったとしたら、それは両親の家柄とかで判別される事も多いのではないでしょうか? 

 今の政府の考えは家柄と魔法を使える事を重視してると言いました。それは政府が明確に言って、法律でも優遇されています。それを不当と思う人が反政府派となる事は十分考えられます。

 敢えて言うのなら、反政府派は『実力主義』でしょう。家柄がない方が魔力が強いというのをもし政府が認めてしまえば、家柄の意味はなくなる可能性が高い。

 そして、今まで認められなかった人達はどれだけ不当な扱いを受けてきた事になるんでしょうか?

 だからと言って、争う事が正しいとは言いませんよ。どれが正しいとか、言えないでしょう? 明確に言える事があるとしたら、何の力もない人が一番の被害者になり続けているという事です。ただ、それだけです」

 どの言葉も山崎先輩には突き刺さったんだろう。唇を固く引き結んでいた。


「でも、それなら道端さん達のように自分達で真っ当な方法で世の中を変えていこうとしたらいいんじゃないですか? なんで、戦うんですか?」

 睦月野さんがぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながら、か細い声でそう言った。

 オレはそれに答えられなかった。

 代わりに口を開いたのは会長だった。

「世の中ってね、綺麗じゃないの。考えを、信念を突き通そうとするなら、真っ当な方法を取ればいいわ。でも、大人達の支配してる世界って汚いの。だからこそ、戦うのよ」

「どういう意味ですか?」

「唯ちゃんは情報に強いからお金の流れも調べられるでしょう? なら、今の国のお金の流れって分かる? 誰が儲けているかしら? それを考えれば分かるわ」

 会長のそれは自分で考えてみなさいという意味を含んでいた。

 人に聞いた事を答えにしてはいけない。そういう事だ。


「……戦争って、結局、国民は貧困に喘ぐのに、国は私腹を肥やす事が多いんですよね。今までもそうですよね。国は戦いという名目で、国民から多くのものを搾取する。人も金も、物も何もかも」

 鍛冶君のその呟きに、何人もが俯いた。

 事実だ。

 鍛冶君も家柄はあれど、搾取される側だからそれを言う事が出来たんだろう。

「……河口先輩が亡くなった時もそうだったもの。国は戦う為と言って、ここには誰も助けに来ないくせに、応援要請して、食べ物も武器も戦う為の人も集めて、自分達だけを守っていたんだもの。いつもそう。結局、誰が上に立っても変わらないでしょうね」

 会長は少し蔑んだ声を出した。

「結局、自分達の利益の為の戦いですか。それに気付きながら、会長も副会長も何故動かないんですか?」

 鍛冶君の責めるような声は痛かった。

「私は家単位で動いているわ。でも、その動きをべらべらと話すわけにはいかないでしょう? 何もしていないわけではないわ」

 会長の声に鍛冶君はビクリと肩を震わせた。その後にオレに視線を向けてきた。

「オレは、何も出来ないよ。だって、何の権力も持たないんだ。オレは国から見たらただの一般人だ。そんな人間が一人、声をあげても潰されるだけだよ」

 そう告げたオレの声は自分でも驚くほど情けなかった。だからだろうか、鍛冶君はより驚いたような顔をした。

「あっ……そうか、一般人の扱いになるんでしたっけ。いくら魔法学校に所属していると言っても……」

「そうだよ。忘れられがちだけどね」

 何故かいつもよく忘れられてしまう事だけど、オレはここにいる誰よりも権力も財力も持たない。

「……それって、副会長が一番の被害者じゃないですか? 戦わなくてもいいのに戦わされて。それに、気付いてしまった事がもし、他に知られたらどうするつもりですか? 下手すると、生きる事すら危うくなるじゃないですか」

「まあね。でも、死とは常に隣り合わせだからね。勿論、死にたくはないからこそ、他言無用と最初に言ったんだよ」

 鍛冶君は何か言いたげだけど、言葉が出ないようだった。

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